第四話 殺人の作戦

 一人暮らしはいい。うるさい親もいないし自分の好きな時間に好きなことができる。掃除、洗濯、食事ぐらいの家事は大したことないので困ってもいない。現に三年前に盛岡に来て以来、一度も実家に帰っていない。

 好恵は来週に行われる英語の中間テストの勉強をしていた。とは言っても日本語訳を読んだり単語のスペルを確認したりする程度である。そのくらいレベルの低いテスト。でも成績に関わるので気は抜けない。

 十時半ごろになると後ろで声がした。

「オイ好恵! 聞イテキタゾ。増尾ノ予定ヲ!」

 振り向くと[ルナゲリオ]が帰って来ていた。

「ノックぐらいしなさい。急に話しかけられると驚くでしょ!」

「デモヨ、女ノ一人暮ラシノクセニ鍵カケネエホウガ危ネエゾ?」

 確かにそれは言える。でも召喚士である自分にとって普通の人など恐れるほどではない。不用心に見えるがこの部屋には式神が召喚されている。ある意味鍵より頼りになる存在だ。

「それより。どうだったの増尾の予定は?」

[ルナゲリオ]に尋ねる。するとべらべらしゃべり出す。

「金曜、明日飲ミ会ダトヨ。ソコデ殺スカ?」

「知恵を絞りなさい[ルナゲリオ]。飲み会では酒を飲むだけ。そこで心臓麻痺は起こらない。増尾は急性アルコール中毒になるほど飲む人じゃないと聞いているわ。そこで死んだら不自然でしょう?」

「俺タチ式神ハ人ニ見エネエンダカラ不自然トカ関係ネエ気ガスルガ…」

[ルナゲリオ]の言う通りである。でも万が一のことを考えると人に疑われないように殺した方がいい。この前の三人組は急だったとはいえ少し浅はかな行動だった。あいつらに変に疑われた。でも[ルナゲリオ]に敵うわけないのであいつらは自分の指示に従った。[ルナゲリオ]の力のお蔭で従えてるが、あいつらの中からいつ離反者が出てもおかしくないのである。

「飲み会は駄目。その次は?」

「土曜ニ家族デ岩山パークランドニ行クンダトヨ。デ、日曜ガゴルフ」

 岩山パークランド…。あの遊園地か。特に何もない、ごく普通の遊園地だ。しかし好恵はそこで閃いた。

「[ルナゲリオ]。その遊園地で殺しなさい」

「ソッチノ方ガ怪シクネエカ?」

「遊園地には大抵ジェットコースターがある。増尾が絶叫マシンが好きかどうか知らないけど家族で行くんでしょ? だったら子供が乗りたいと言えば必ず乗る。奥さんと交代かもしれないけど一日中入れば乗る機会は絶対ある。そして乗ったらその時が殺す時。ジェットコースターで心臓発作が起きたってことにすれば運が悪かったってことで済む。誰も事件性を疑わないし殺人だとも思わない」

「ホホウ。ソシタラ好恵ハソノ日ドウスルンダ?」

 あいつらに怪しまれないように行動すればいい。

「そうね。私が岩山パークランドに行くわけにはいかないから離れたところにいる方がいいわね…。この近くに高松の池があるからそこにいるわ。それならあいつらにも疑われない」

「ジャア決マリダナ。土曜、増尾ノ魂ハアノ世ニ連レテ行ク」

「タイミングはちゃんと見計らってよ? 当日私は現地にいないんだから。いい? ちゃんとジェットコースターに乗っている最中に殺すこと。もしも一度も乗らなかったら帰ってらっしゃい。その時は他の方法を考える。今学期中に殺せればいいんだからどのみち増尾には死んでもらうけどね」

「ワカッタ。任セロ。デモ当日雨ガ降ッタラドウスルンダ? 遊園地ニ行カネエカモシレネエゾ?」

 天気の心配は必要ない。

「土曜に雨は降らない。忘れたの? 私の[ペテントス]を?」

「アアソウカ。ソレナラ確実ダナ」

 これで作戦は完璧だ。

「じゃあ金曜の夜に召喚するから。その時増尾の家に行きなさい。道はいくらあなたでも覚えてるでしょ? そして朝になったら増尾に付いて行って遊園地で。簡単でしょう?」

 好恵はそう言うと[ルナゲリオ]に札をかざした。

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