第一話 秋休み開始

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。だが、校長先生は話をやめない。この時間さえ乗り切れば、秋休みだ。藤原ふじわらじゅんは体育館で体育座りをしながらそう思っていた。

 校長先生の話は五分長引いた。きっと全国的に有名な私立だから、生徒が問題を起こすのが一番心配なんだろう。

 クラスに戻る。先生が秋休みについての注意点について説明する。後藤先生は今年赴任したばかりの新米だが、話す内容は去年の先生と同じ。というか夏休み前とまるで変わらない。

 帰りの会が終わるとみんな帰る準備をする。

「おーい準、帰ろうぜ!」

 話しかけてきたのは磐井いわい大和やまと。クラスで一番仲が良い奴。

「大和、俺の家は泉区なんだぞ。一度仙台駅で乗り換えないといけない。対してお前は苦竹方面だろう? 仙石線ですぐじゃないか。つーか方向逆だし」

「まー宮城野原駅まででいいじゃん。それに一度寮に帰るんだろう?」

 準が在籍しているのは双煌中高一貫校。珍しく全寮制で、準はここの五年生(高二)。寮もクラスもメンバーが変わらないので毎日大和の顔を見る。

「少し部屋片付けてから帰ってくれよ。準、お前の机汚いんだぞ?」

 同じ部屋のせき健一けんいちも会話に加わる。いつものメンバーだ。

「健一はすぐ帰る?」

 健一も泉区に住んでいる。ご近所さんだ。

「弟が部活で、俺も参加するんだ」

 健一は野球部に入っている。中学一年生になったばかりの弟もそうらしい。

「じゃあ俺は先に帰る」

「いやその前に部屋片付けろ!」

「わかったよ」

 適当に返事をして教室を出る。そして寮に向かう。

 男子寮のすぐ前に妹が待っていた。

「あ、優乃ゆうの。どうしたこんなところで?」

 だいたい予想がつく。妹は自分と一緒に帰ろうと思っているんだろう。だがそれだけじゃないはずだ。

「兄さん。できれば一緒に帰りたいんですが…」

「いいぜ。さっさと帰ろうか」

 すると大和が、

「おい準! 部屋片付けはどうするんだよ?」

 準は一言。

「お前が代わりにやっといてくんね?」


 仙石線の登りに乗って数分すれば仙台駅に着く。しかし地下鉄に乗り換えるにはあおば通駅まで乗ってないといけないのだが、優乃が、

「兄さん、ヨドバシに寄りたいんですけど」

 と言う。やはり来たか。

「いいけど、またプラモ?」

 仙台駅で降りた。準と優乃はヨドバシカメラに向かった。

「これとこれと、これも…」

 優乃はプラモデルを三つぐらい抱えている。

「おい優乃。お前、金足りるのか? そもそもジェノザウラーは実家に四個あるじゃないか。ジェノブレイカーもバーサークフューラーも夏休みに買ったばっかだろ!」

「今度はフルスクラッチで追加部品を作って改造するんです。兄さん、お金かしてください!」

 準は財布の中身を見た。ここまで来ると優乃は絶対に引かない。

「しょうがねえな。ホラ。ポイントは俺のカードに入れろよ?」

「ありがとうございます!」

 また優乃に金を貸したな。一応返してくれるのだが、ちょっと金遣いが荒い気がする。

 ヨドバシを出て地下鉄の仙台駅に行って地下鉄に乗り、泉中央に着いた。ここから十五分歩けば実家だ。

「これ、お前が持てよ…」

 優乃の買ったプラモデルの箱はデカい。持ち運びが面倒でたまらない。

「あ、お帰り~」

 家に帰ると姉がいた。

「姉貴は大学ないの?」

「今日は休講。ラッキーだわ」

沙苗さなえ姉さん大学の講義はどうですか?」

 沙苗は杜島大学の古生物学科に通っている。

「そりゃあもちろん楽しいわよ。まだ一年目だけど、面白い講義がいっぱいで、友達も同じ分野に精通してるからね」

 俺も杜島大学の生物学部に行きたい。そう考えている。偏差値的にも無理じゃないし、学ぶ内容が素晴らしい。優乃も同じことを考えている。

 面白いことに俺ら兄弟はみんな恐竜好きという共通点がある。

「さーてさっさと宿題片付けるか」

 準は机に向かった。

「おい…。俺の机、プラモに占拠されてんじゃねえかよ…」

 優乃の作ったプラモデルが自分の机の上に置いてある。寮に住んでるからって、こんな扱い酷いだろ?

「あ、兄さんどいて」

 優乃がやって来た。全部自分の部屋に持って行くのか。

 しかし優乃はさっき買ったプラモデルを、準の机で組み立て始めた。

「おい優乃、勉強できないんだが…」

 優乃は冷たく、

「リビングでしてきて下さい」

 と返してきた。家での男性陣に対する風は冷たい。藤原家では女性が強い。仕方なく準はリビングで勉強を始めた。

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