第24話 砂の蜥蜴 2 

 その夜はよく眠れなかった。


 マッドパピーが一晩中、焚火のそばで耳障りな音を立てて機械いじりをしていたのである。


 意地を張ってまぶたを閉ざし続けるのにも飽きたエルバは、根負けする形で身を起こした。途端とたんにマッドパピーはエルバの鼻先に両手で持てる大きさのモニターを突き付けて来た。


「見て見て! ようやく映るようになったよ!」


 モニターはほのかな光を発していたが、いかんせん意味のある像が映っているとは思えなかった。


「なんですか、これ。」


源素げんその探知機さ。源素濃度が一定以上になっている点をざっくり示す機械。こうやって探知用端末ロケーターを高く掲げると、周辺の状況を表示してくれるのさ。」


 そう言って、マッドパピーは己の身長ほどの長さの棒を繋ぎ合わせて作ったらしい長い棒を立てた。


 長さと太さのつり合いが取れていない棒は不安定に揺れ動く。その先端に貼り付けられた掌大てのひらだいの球体が、どうやら探知用端末ロケーターであるらしい。


「どう、何か映った?」


 マッドパピーは絞り出すような震え声でエルバに問うた。精一杯に背伸びした足がぶるぶると震えている。エルバは座ったまま、寝ぼけまなこでぼんやりモニターを見つめた。


「あ、映りました。」


 画面に無数の点が表示された。その分布は著しく偏っている。


「画面の真ん中の薄い点が、きっとティエラちゃんだね。守印で隠しきれていない分だ。南側の大きな点が、昨日ゴート君が仕掛けたヒトハミ寄せの緑石りょくせきだと思う。周りをうろうろしてる小さな光点がヒトハミの群れだね。」


 マッドパピーは棒と共にふらふらと揺れながら、必死になってエルバの持つモニターを覗き見る。エルバは立ち上がってマッドパピーの視点にモニターの高さを合わせた。二人は額を突き合わせてモニターに見入った。


「なるほど、これはすごいです。ヒトハミを避けるのにとても有用ですね。」


「え? 避けるの? 密集地帯に行かないの?」


 マッドパピーは北側に示された無数の点を示して残念そうな声をあげた。


「行くわけないでしょう!」


 叫んでから、エルバははたと首を傾げた。北側にヒトハミが密集している?


「あれ、北って何かありましたっけ?」


「気になるんでしょう? 行ってみようよ、ねえ!」


 いかにも楽しそうに、マッドパピーは棒を振った。モニターの中で点がカクカクと揺れ動いた。


 不意にモニターに影が差した。エルバとマッドパピーの間に頭を押し込むようにして、フューレンプレアがモニターを見つめている。


「ヒトハミが密集……」


 フューレンプレアは深刻な顔をして呟いた。


「どうにも、嫌な感じだね。」


 ティエラは緑色の目を北に向ける。ただ荒涼とした赤い大地が広がる先に、何か別のものを見ているようだった。


「やめといた方がいいと思うぜ。漁るんなら、ヒトハミが散ってからだ。」


 ゴートが面倒臭そうに言った。眠たげな様子はすでにない。とうに目覚めていたのだが、マッドパピーとの面倒な会話を避けるべく寝たふりをしていたのである。

 

「何を言うのですか! まだ助かる人がいるかもしれません!」


 フューレンプレアはきつい眼光をゴートに向けた。彼女の様子を見るうちに、エルバの頭から血の気が引いた。


「……あの、まさかこの密集地帯……」


 エルバとフューレンプレアの様子を見て、ゴートは呆れたように肩をすくめた。


「よくあることだよ……。」


 ティエラは平坦な声で呟いた。



               *



 エルバたちが駆け付けた時、その村にはすでに人の姿はなかった。


 質素な家々は一部木製で、長い年月のうちに傷んだ箇所を泥で補修して土壁とした痕跡があった。崩れ、あるいは燃え、無傷な家は少ない。


 壊れた防壁の内側のほとんどは、何もない荒涼とした大地に占められていた。ヒトハミの仕業か獣の仕業か、しつこいほどに掘り返されて、固い土が幾分か柔らかくなっていた。


 濃厚に漂う煙の臭いの中に、微かに血と臓物のが残っている。エルバは吐き気に備えたが、もはや込み上げては来なかった。


 村を襲ったヒトハミたちは一か所に集まって、残った肉の塊を食べていた。


 相手に譲るでもなく、さりとて奪い合うでもなく、ただ淡々と口に触れた肉を呑み込んでいく。地面にみ込んだ血までもを丁寧にめ取っている。


「この化け物!」


 げきした声と共に、清涼な音が鳴り響いた。カテドラルの聖杖せいじょうを高々と掲げたフューレンプレアの目には涙がにじんでいた。


せ。」


 ティエラが杖の柄を掴んでフューレンプレアの動きを制した。


「この村は手遅れだ。そして我々はまだ気づかれていない。このまま退くぞ。」


「だな。この村には補給できる資源も無さそうだしな。」


 ゴートは浮かない表情で頷いた。


「こんなことを許せと言うのですか?」


「ヒトハミ相手に怒っても仕方がないんだ。」


 ティエラは諭すように言った。


「戦闘をすれば余計にヒトハミを寄せてしまう。とにかく今はここを離れて――」


「気付かれたよ。」


 マッドパピーがごく冷静に言った。ヒトハミは足取り軽やかにエルバたちに向かって走って来る。


 ティエラは舌打ちをして槍を構えた。ゴートがエルバに手を差し出した。白枝しらえの剣をよこせ、と言う意図を、エルバは正確に読み取った。


「ぼ、僕が。」


 エルバは深く大きく息を吸うと、呼吸を止めて剣を構えた。正中線せいちゅうせんに構えた刃の向こう側で、ヒトハミが無感動に走っている。


 斬るのをイメージして剣を振るだけ。その言葉を口の中で繰り返す。


 かつてヒトハミを斬り殺したイメージが去来する。舞い散る血飛沫、噴き出す臭い。緑の光となって消える前にのぞき込んだ瞳は、虚ろに空を映していた――。


 剣を振ることができなかった。これまで何度も振った白枝の剣が、少しも動こうとしない。


 ヒトハミが地を蹴った。直後、純白の槍が大きく開いたヒトハミの口を刺し貫く。続くヒトハミを蹴りの一撃で粉砕し、槍に突き刺さったヒトハミを振り払う遠心力をそのまま流して横薙よこなぎに一閃いっせん


 それで闘いは終わりだった。緑の霞と消える途上の血を一振りで槍から払い、ティエラはエルバを振り返る。


「大丈夫か?」


 エルバは震えながら頷いた。ならばいい、とティエラは頷いた。ゴートは呆れたように眉を上下させた。



               *



 フューレンプレアは地面に膝を着き、死者への祈りを捧げていた。


 もう少し早く駆け付けていれば、救える命もあったかもしれない。


 彼女の理不尽な自責の念が、エルバに強くし掛かる。


 モニターの光の点を眺めて喜んでいた今朝の自分は、なんと愚かしく滑稽だったろう。


 そして今の自分は、なんと酷薄こくはくな人間なのだろう。


 己の滑稽な無関心に戦慄せんりつを覚えはしても、ここに住んでいた人たちの死に対しては何の感慨かんがいも湧きはしなかった。


 想像力を限界までき立ててみても、ここに人が住んでいて、そして今は誰もいないという事実に実感が伴わない。エルバにとってこの場所に住んでいた人たちは、地面に沁み込んだ血の跡でしかないのだ。その淡白さにこそ吐き気を覚えた。


 村人たちを襲った不幸に心を痛めているのはフューレンプレアだけのようだった。


 ゴートはあるじのいない家の物色ぶっしょくいそしんでいるし、マッドパピーは掘り返された土をいじって遊んでいた。


「なんかおかしいぜ。この村、本当に何にもねえ。」


 家を一通り物色したゴートが、深刻ぶってそう言った。


「あなたの欲望を満たさないからと言っておかしいということはないでしょう。」


 エルバは無意識にきつい物言いをした。


「そうじゃなくて、だな。いくらボロかったとはいえ、防壁が壊されてるんだぜ。そこまでの数のヒトハミを寄せるほどの人数が、ここに住めたと思うか?」


 ゴートの指摘を受けて、エルバは慌てて周囲を見渡した。


 小さな村だ。家の数も少ない。ヒトハミの跋扈ばっこする荒野の小さな村で、どうやって人が住んでいたのか。エルバには想像することさえできなかった。


「マイの栽培をしていたんじゃあないかなあ。」


 ゴートの疑問に答えたのはマッドパピーだった。


「これ、掘り返されているというよりは耕されているみたいに見えるよ。」


 柔らかくも乾いた貧栄養な土に手を入れて、マッドパピーは推論する。


「それはありません。」


 祈りを終えたフューレンプレアは、静かにマッドパピーの説を否定した。


「マイは、カテドラルでしか育たないものですから。」


 マッドパピーは不思議そうに首を傾げた。


「育つよ? 僕、育てたことあるもん。ヒトハミが滅茶苦茶めちゃくちゃ寄ってきて、途中で食べられちゃったけどね。そういう意味では、育つ場所は限られるなあ。」


 エルバはふと、球状遺構きゅうじょういこうでマッドパピーが口走ったことを思い出した。


 、と。


「源素のみに視点を置いた場合、高濃度の源素を内包する皮袋はヒトと変わらない……。ゴート君だって、そうやって源素の塊を封じている。守印は、皮と接触してヒトハミの目をごまかす仕組みになっているわけだ。マイを運搬する時には獣の皮の袋に入れて、守印で封じることが決まりだよね。ヒトハミから隠して運搬されているんだ。育たない、じゃなくて、育てちゃいけないんじゃないの? 生半可な防衛機構ではヒトハミの襲撃を招くから。」


「そ、そんな……。」


 フューレンプレアは大きな目を見開いて、視線をくるくると泳がせる。


「法王さまは、そんなことは一言も……。そ、それに、もしそうならきちんと周知しゅうちなさるはずです! 防護策さえ整えればどこでも育つというのなら、人々にもっと多くのマイを提供できるのですから!」


「そうなっては困るのだ。」


 ぼそり、とティエラが呟いた。


「どういうことです?」


 フューレンプレアはティエラを振り返る。ティエラは少し考える素振りを見せた。


「そもそも、どうしてこの世界から高等植物が姿を消したか、君は知っているか?」


 しばらく考えた後、ティエラはフューレンプレアに質問をした。


「それは……ヒトハミが食べてしまったのでは?」


「ああ、確かにそうだ。だがそれだけではない。次の世代が芽吹かなかったのだ。それが世界の仕組みだからだ。」


 ティエラは迷うような素振りを見せて、結局は話を続ける。


「以前話したことを覚えているだろうか。この世界はある力……マッドパピーの造語を用いるなら、源素の流れによってできている。万物は源素の流れから生まれ、やがて源素の流れへとかえる。」


 あらゆる物質は生じてから消えるまでの間に源素を増幅させ、源流へと還元するのだとティエラは語った。


 金融機関にお金を預けて利子をつけてもらうようなものだろうか、と、エルバはひどく世俗的な例えでその話を捉えた。


「構造が複雑であればあるほど多くの源素を持って生じ、増幅する源素の量も多くなる。生物は特にこれが顕著だ。多くの源素を持って生まれ、一生のうちに大量の源素を体内に育み、死して流れを豊かにする。源素の増減のほとんどを生と死が担っていると言っても過言ではない。」


 生命が一生のうちに育む源素の量をかんがみれば、無生物の存在によって生じる源素は誤差でしかないという。


「ことに動物は源素の流れに大きな影響を及ぼす。短い一生のうちに大量の源素を生む。動物が源素の増幅装置だとするなら、植物は貯蔵庫のようなものでね。動物よりも多くの源素を持って生まれ、動物ほどには源素を生まない。一方で周囲の源素を取り込んで濃縮する。源素はそのままではひどく不安定なものだ。詰まるところ、植物とは物質的な世界と源素的世界の均衡を保つための緩衝装置だ。」


 生と死の生み出す源素の流れが強くなり過ぎれば、世界は不安定になる。植物は源素を吸収し濃縮することによって源素の総量を一定に保っているのである。


 そこでエルバはふと、故郷のことを思い出した。


「待って下さい。だとすれば、人間が文明を広げるに当たって森を切り開くと、どうなりますか?」


 頭の中で心音が鳴り響いている。心音はより合わさって、幼馴染の声を再生した。


――皆、全然解っていないのよ。どれだけ貴重な宝物を手放そうとしているのか。


「世界を構成する流れが不安定化するだろうね。文明の発展と世界の不安定化は表裏一体だ。ヒトという高濃度の源素体が繁栄を極める一方で緩衝材が無くなるのだから。……大切なのはバランスだよ。」


 ティエラはどこか皮肉めいた口調でそう答えた。


「文明化は……今の世界とは無縁と思いますけれど?」


 フューレンプレアは首を傾げる。


「源素が豊かな状態ならば、植物は貯蔵庫としてあるいは緩衝材として必要不可欠だ。だが、源素が枯渇こかつした状態においてはただ源素を浪費するだけの厄介な存在になる。動物が生んだ源素を植物が吸収し、増幅させることもなく貯蔵してしまうわけだからね。」


 源素が流れなければ生は育まれず、また生がなければ死も訪れない。弱々しく流れる源素を、植物が吸収して濃縮し、流れはますますか細くなる。


 景気の悪い時にゼロ金利の銀行に財産の大半を預けてしまうようなものだろうか、と、エルバはまた世俗的な例えで考えた。


「だから植物は、源素が枯渇した状態では芽吹かないようにつくられている。」


 ティエラは耕された地面を見やってそう言った。


「創られるって、誰に?」


 マッドパピーは秘密に触れるように声を潜めた。


「神……ですか?」


 フューレンプレアは杖を握り締めて問いかける。


「それはどうでもいい。重要なのは、今の世界はそういう状況にあるということだ。」


「じゃあ、何でマイは芽吹くんだ?」


 ゴートが口を挟んだことにエルバは少なからず驚いた。てっきり、もうこの話から脱落しているものだと思っていたのである。


「通常の植物に存在するストッパーが、マイでは意図的に破壊されているのだよ。砂の蜥蜴とかげの試行錯誤の結果出来上がったものだ。」


「砂の蜥蜴? 聞いたことが……。それって、アリスネストを作った人、ですよね?」


 フューレンプレアの言葉に、ティエラは眉根を寄せた。


「君、まさか知らないのか?」


「え、何をです?」


「砂の蜥蜴の本名は――いや、なんでもない。野暮やぼはやめておこう。」


 ティエラは苦虫を噛み潰したような顔をして首を横に振った。


「確かに、マイによって人類は生命線を保っている。その一方で、マイは源素の枯渇したこの世界から多量の源素を吸い上げてもいる。こんなものが広まってみろ。世界はすぐさま枯れ果てる。ヒトハミが狙うのも道理だろう。」


「……法王さまはそれをご存知で、あえて口を閉ざしておられるというのですか? 禁を破る者が自ら身を亡ぼすように?」


 フューレンプレアの声は細かく震えていた。


「そんな……。法王さまは、そんな方では……!」


「プレア、清く正しく優しいだけでは、君の望むものは手に入らないよ。」


 ティエラは静かにそう言った。


「なぁに、気にするようなことじゃねえよ、嬢ちゃん。共栄帯の外側なんてこんなもんだ。どうせマイの栽培をしなけりゃ餓えで滅んでいただろうよ、この村は。……だが、それよりも。」


 ゴートの声が突然剣呑けんのんな響きを帯びた。


「どうも法王サマって奴はかなり胡散臭いな。オレらは、そいつの依頼でにえの都に向かっているわけだが?」


 ゴートが素早く視線を周囲に走らせる。この場所に法王の見張りはいない。そしてゴートは共栄帯の外で生きる方法を知っている。


「ティエラ、お前もだ。オレ達に何か隠していやがるだろう。」


「法王がこの旅にどんな目論見もくろみを持っているのかということならば、残念ながら知らんよ。正直、不要な苦労を強いられているようにも思うのだが……。」


 ティエラはちらりとフューレンプレアに視線を向けた。


「そ、そんなことはありません! 贄の都にはヒトハミの王とも呼ぶべき個体がいて、それを倒せば世界は救われると……」


「ヒトハミに社会性はないと思うけどなあ。」


 マッドパピーが無遠慮に口を挟んだ。


「なあ。このまま行って大丈夫か?」


 ゴートがいつになく真剣な口調で問いかけた。


「な、何を言い出すのですか?」


「オレやマッドパピーみたいな大罪人を旅に加えたことと言い、なんかおかしいって気がしないか?」


「そんな!」


 フューレンプレアは何かを言いかけて言葉を失い、唇を噛んだ。


 エルバは彼女を擁護ようごしようとしたが、言葉が見つからない。法王が胡散臭いというのは全くその通りなので、擁護のしようがなかった。


「法王は度し難い人格破綻者だが、自分の全てをして人類の存続に努めている。そいつが贄の都に向かえと、あろうことか蛇蝎だかつのように忌み嫌うこの私に頼んだのだ。何かあるのは間違いないと思うよ。それが何なのかは解らないけれど。」


 ティエラが重々しく口を開く。


「いずれにせよ、答え合わせは間もなくできる。私は行くが、強制はしない。」


 ティエラは槍をくるりと回して穂先を地面に向けた。ゴートは眉根を寄せて黙り込む。


「ゴート、あなたの不安は解ります。私ですら法王さまを疑ってしまったのですから。」


 フューレンプレアはおずおずとゴートに声をかけた。


「あなたが逃げ出しても、私は責めません。法王さまにも、できる限りの便宜を図るつもりです。ゴートだけではありません。エルバも、マッドパピーも。」


 フューレンプレアは不安げに一同を見渡した。


「ねえ、ティエラちゃん。」


 マッドパピーはフューレンプレアの話を聞いていなかった様子だった。こちらもまた、妙に深刻ぶった表情を浮かべている。


「世界がこんな風になってしまったのは、源素が枯渇しているからだって、ティエラちゃん言ったよね。」


「確かに言った。」


 ティエラはきっぱりと答えた。


「死んで流れに還る……源素……ヒトハミ……」


 マッドパピーは自らの世界に入り込み、深く深く沈み込んでいった。


「あの、マッドパピー?」


 フューレンプレアが控えめに声をかけたが、マッドパピーの思考が現実世界に戻ってくることはなかった。


「解った。行くよ、ったく。何か起きたら、その時逃げるからよ。」


 ゴートは自棄やけを起こしたようにそう言った。フューレンプレアの目がゴートからエルバへと向きを変える。


「行きますよ。」


 エルバは短く答えて周囲を見渡した。


 粗末そまつな柵に囲われた貧村には、命の面影さえ見出せない。共栄帯の外側で生きることはとても難しいらしい。


 ならば法王から課された使命を果たす以外に、エルバがこの世界で生きる道はない。果たせなければエルバもこの村の人々と同じ目に遭うことになるのだろうから。


 フューレンプレアが安堵あんどしたように笑みを浮かべるのを見て、エルバもまた安堵した。


 そのことに、エルバ自身は気が付いていなかった。

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