夏の影に潜む不穏

「えー大変暑い日が続き、皆様も難儀していると思いますが-----------------」(長ええええええええええええええええええええ早く終われえええええええええええええええ)(あと少しなんだから我慢しろって・・・)


 現在優人は、というより全校生徒は体育館に集まっていた。終業式のためである。


 だがあまりにも退屈で、その上かなり長い間話をしていて何もすることができないので、近くにいた吉田と小声で愚痴を言い合っていた。


(うるせーバカ!こちとら早く帰りたいんじゃボケ!つか暑くて難儀してるだろとかあのハゲ俺らの事バカにしてんのか!)(お前汗一つかいてないじゃねえか!そういうのは俺みたいに汗だらだらのやつが言うもんですー!)


(知るかバカ!あ”あ”あ”この部屋臭いー!お前もくさいー!くさっ!何お前臭!)(うるせえええええええええ!)(なんだとー!)


「えー夏休みが----------------」(怒!)(怒!)


 優人と吉田の静かで馬鹿馬鹿しい言い合いは終業式の閉会の言葉が終わり、後ろの生徒に小突かれるまで続いた。



 ---------------------------




「いくなんでも長すぎる」「まだ言ってんのかお前」


 ようやく終業式から解放され、下校の最中に優人はまだ終業式が長すぎるという事を仲間達にグチグチと吐き出していた。


「当たり前だろ!あんなむさ苦しくて臭くてつまんない上に場所に長時間止まるとか気が狂うわ!」


「あ~そういえば佐藤は五感が鋭いんだっけ」「そういえばそうだったな・・・」「ほ~ん・・・」と、加藤達はそれじゃあまぁ、しょうがないのかな、と苦笑いで納得したように呟いた。


「全く、あんなに素敵なお話を沢山聞かせていただいたのに何て罰当たりな」と、相も変わらずくそ真面目に終業式での演説をしっかり聞いていた大平は、そんなことをのたまう優人へ何て罰当たりな奴だ、と呆れながら肩を竦めた。


「うるせ!インテリもどきうるせ!」「だれがインテリもどきデスか!だれが!」「おいおい興奮するなよ、ただでさえ暑いんだからこれ以上暑苦しいモン見せんなよ・・・」


 大平に噛みつく優人と噛みついてきた優人に負けじと噛みつく大平に、太田がパタパタと手で顔を扇ぎながらうんざりした様子で二人に向けて言った。


「成金がなんか言ってますね(笑)」「んだとてめえ!」優人は今度は太田に矛先を変え、太田もそれに面白いように乗っかってしまい、またまたギャアギャアと言い合いが始まった。


「あっそうだ」言い合うバカ三人の話をさえぎって、加藤が言葉を発した。


「みんなはさ、夏休みどう過ごすの?」「ぬっ夏休みとな?」


 夏休みの過ごし方を聞いてきた加藤の言葉に三人のバカは言い合いを止めて、互いに目を見合わせ、お前はどう過ごすんだと聞きあった。


「俺は特に何もしねー、いつも通り時間ができて気分が乗ったら・・・イヤ、こいつらにどやされたらダンジョンに行くで~終わり」そう言って優人は頭に乗っているジンベーと右肩にとまっているオールを撫で、白玉とモグドンに視線を移した。


「淡泊じゃの~」「そー言うお前はどーなんだよ、自称成金」「そーデスよ」


「俺は~・・・未定!」「はっ!なさけな!」問われた太田はそう答え、案の定優人にからかわれた。「言ってろ」と、優人と太田の予定を皮切りに他の面々も自分の予定を話していった。


 そんなこんなで、他愛のない会話をしながらブラブラと歩き、特に何事もなく解散した。


「夏休みねぇ・・・、ま、気長に過ごしまひょ」使い魔にそう言葉を投げ掛けながら、彼は家のドアを開けた。


 彼は思いもしなかった。あんなことが起きるなどとは。


 だって、普通に考えたらそんな発想できるわけないじゃないか。未来余地能力なんて便利なもの持っているわけじゃないんだからさ。


 アイツラと関わりを持ってしまっているのに、どうしてまともな夏休みを過ごせると思っていたのだろうか?


 そんな未来が訪れるなどとは露知らず、彼は使い魔達と他愛ない話をしながら靴を脱いだ。

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