少年編

第1話

「えー、俺は佐藤優人です。好きな食べ物は-----で、-----が得意です。ダンジョンには入る資格を持っていて、時間があったら小遣い稼ぎにー----、使い魔が4匹いて--------」



「・・・・・・・-い」



「俺は吉田真一、よろしく」「僕は加藤忠夫なんだな」「大平順平デス。・・・何?ぐるぐるメガネだって?なんだとー!」




「・・・・・・おーい」



「僕は如月雄介」





「おーい佐藤、じょぎょー終わったぞ」「フガ?!」


 授業終了の音声が鳴っている。いつの間にか眠ってしまったようだ。


「ああ、うん・・・、そーね」


 寝ぼけ眼をこすりながら生返事で答える。


「お前完全に寝ぼけてんじゃねーか。次はもっと退屈な生物学だぞ」


 このいかにもな熱血少年は吉田真一、優人が友達になった者の一人だ。


「なんだなんだ~、佐藤寝てたのか~」そう言いながらのそのそ近寄ってくる太っちょの彼は加藤忠夫で、その隣で嘲り顔でニヤニヤしているのは大平順平だ。


「うるへー、つーか大平メガネなんだその顔・・・、福笑いの真似か?」「違う!」


 名月高校の入学式から1月が経過していた。


 登校初日やそれから3日は生徒たちはクラス内の生徒に手当たり次第に話しかけていたが、1週間ほどではもうグループができ始め、1か月が経つ頃にはもう完全にグループ分けが完了した。すなわち人気者グループが一つ、そうでない小さな普通グループ多数、それですらないもの数名といった具合である。


 優人は登校初日にクラス内の会話やしぐさなどをバレない様に観察して、1週間かけてじっくり友達になりたい奴を吟味し絞った結果がこの3人だ。


 この3人となら、きっとダラダラのんびり、深すぎず浅すぎずな関係でいられると思ったからである。


「生物学がつまんないとか、これだから脳筋は・・・」「うるせー!」


 そんなくだらない会話を続けていると授業時間が来てしまい、あわてて元の席へ戻り教科書を出した。


「えー、魔物の定義は非常にあいまいでー、えー、一説には魔力がある生物はすべて魔物という説もありー、スー、ダンジョンにいる生物が魔物であるという説もあり今でも議論されています」


(ホントこのジジーの語りは眠くなるなー・・・、でも内容が面白いしなー)


 そんなことを考え、教師が読み上げている教科書のページを目で追いながら、必要そうなところにアンダーラインを引いた。それに意味があるかはわからないが。ともかくそうした。


「えー、じゃぁ、くん、君は確かダンジョンに入れるらしいね、じゃぁ教科書のゴブリンについてってとこ読んで」


「(糞ダル!)はい、えーゴブリンとは----------」


 突然指名され、びくっと体をこわばらせ、面倒くさそうに眉間に一瞬しわを寄せたが、すぐに愛想笑いをして、心の中で毒づきながら読み上げ始めた。



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 授業が終了して、吉田達がこちらへ来ながらこんなことを言う。


「お前ってさー、資格持ってんのな」「ああ、まーな」


 次の授業準備をしながら生返事で答える。


「いーなー、俺は18になったら試験受けるつもりだなぁー」「僕もそうだねぇ」「二人もそうなんデスねぇ、ぼくもそーですね」


 このギルドの免許は、こちらの世界での車の免許ぐらいの扱いを受けている。つまり早くても16~18くらいで取るものであり、優人のように小学生で取るのは実は珍しいことであった。


「いつ取ったん?」「しょー5」「はえーな!」


 そんな風にダラダラと授業を受けてながら優人は、放課後にダンジョンにでも行こうかな、なんて事をまどろみながら考えていた。




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 授業終了のベルが鳴り、ホームルームで教員が何か良いこと言おうとして長々話しているのを、早く終われよクソ教師と思いながら、隣の大平と小声で話しながらなんとか耐えていた。


 たっぷり10分ほどご自慢の演説を垂れ流しようやくお開きとなった。


 優人以外の生徒もうんざりしていたのだろう、解散と告げられた瞬間に生徒たちが出口にわっと殺到した。教室から出るや否や口々にあの教師は話が長い、つまんない話だのお互いに言い合っていた。


 優人も例外ではなく、吉田たちにやれあの教員は壊滅的なくそったれだの短小のインポ野郎だのと、くだらない話で拘束されていた鬱憤を仲間にぶちまけていた。彼は短気なのだ。


「そこまで言うほどか・・・(呆れ)」と吉田と加藤もあきれ顔だ。


「なんてことを言うんですか!あんなすばらしい話をする先生に何て言い草デスか!」どうやら大平は担任の話を全部しっかり聞いていたらしく、そんなことを言うお前は大馬鹿者だ!と憤慨していた。


 なんてこった!優人は思った。あんなつまらない話をまともに聞くやつがこの世にいるのか!しかもそれがおれの友達だって?と、ある意味感動していた。


「いいデスか!ぼくが言いたいのはですね!」としつこく先ほどのクソ素晴らしい先生様のお話について説明しようとしている大平を3人で何とかなだめながら、のろのろ廊下を歩いて行った。


 下駄箱で大平の話を聞き流しながら他の連中にこれからどうするかと問うた。


「きっとあの先生が言いたかったのは、え?そうデスね・・・ぼくこれから塾あるので帰りマス」


 大平は塾があるので帰るという。ホントにこいつクソ真面目な奴だな、としみじみ思った。


「僕はお父さんの仕事の手伝いしなきゃならないから、僕も帰るね」加藤の家は肉屋をやっていて、彼は時間があったら家の手伝いをすることにしていた。


(こいつマジでええ子すぎない?)「ほーん・・・、おい脳筋、お前は?」


 最後に吉田に思いっ切りバカにしながら聞いた。


「誰が脳筋じゃ!誰が!俺は部活ですー!お前らみたいに暇じゃないんでーすー!」とぷりぷり怒って早足に去って行った。


 そんなこんなで他の連中にまた明日と言いながら、優人は学校が所持しているダンジョンの一つに向かった。


 この学校というより、大体の高校はダンジョンを所有しており、平均的に2~3つほど。多いところで5つほどは所持している。


 複数所持する理由は、なるべく多くの種類のダンジョンの経験を積ませたい、と謳ってはいるが、ただ単に生徒が得たダンジョンの素材を安く買いたたき、儲けようという魂胆があった。


 学校が所持しているダンジョンは特例として免許を持っていなくても入れる数少ないダンジョンとなっている。当然通常のダンジョンよりも小さめで危険も少なく、ダンジョンへ干渉し、危なくなったら入口に自動的にワープさせるなど対策もしてある。


 もっとも、馬鹿な奴はどこにでもいるもので死傷者はそれなりに出ている。ダンジョンに挑む者に危険はつきもの、という風潮があるのであまり騒がれないが。


 ともあれ名月高校は2つダンジョンを所持しており、生徒たちは学校側の思惑などつゆ知らず、己の研鑽のために、小遣い稼ぎのために日々ダンジョンに挑んでいくのだ。


 優人達もそんな生徒の一人だ。


 さっそく使い魔たちを各ポジションにつかせ、装備を整え入っていった。


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