そして月日は流れ・・・

 彼は這う這うの体でダンジョンから命からがら何とか五体満足で出口へたどり着けた。出るときに3人の冒険者が行方不明になったと聞かれたが、知らないと答えた。不思議と罪悪感はなかった。


 とにかく疲れていた。くたくたになった体は睡眠を求めて今にも機能停止してしまいそうだった。実際に出ようとして受付にパスを見せようとして足を止めた時に、立ったまま意識を失ってしまい、使い魔に起こされるまで眠ってしまったほどである。


 今日一日で様々なものが失われた。それと同時にほんの少しだけ生まれた。


 だが、と彼は思う。だが正直な話、失われてもよかったんじゃないかなぁ。ああやって戦おうとしてたら、きっと俺はそう遠くない日にあのイノシシみたいにわた出されて死んでいただろうから。だから・・・これで・・・よかったのさ。


 そう思うことにした。もうどうでもよかったから。


 家に帰って、その彼のありさまを見て、家族が悲鳴を上げて何があったのかと詰め寄ってああだこうだと質問を浴びせられ、、ついに彼は力尽きたように意識を闇に委ねた。それと同時に使い魔たちも「空間」へと入っていった。彼女たちも限界に近かったから。


 突然優人が白目をむいて崩れ落ち動かなくなってしまい、それによりもう一悶着あったのは言うまでもない。


 あの衝撃の日から丸々1日寝ていた彼は、次の日は学校だったので休むことにした。少なくとももう何日か休ませてくれ、という優人からのお願いを、両親や教員は快くOKしてくれた。


 優人にはそれが本当に助かった。丸一日眠っていたので体をほぐしたいのと、あの経験を忘れないように、心に刻みつけたいからである。


 さっそく彼は訓練所に向かった。


 訓練場に着いて、彼は自分で考えた自分の在り方と方針を仲間に告げた。


「方針はこうだ、とにかく痕跡を残さない。どういうことかというと、つまりはニオイ、音(これには射撃音、心音や呼吸音等も入る、と付け加えた)を匂わせない、発しないだ。そして敵に察知されないようにする。ばれたら逃げるじゃなくて、ばれそうな気がしたらその場から離脱ってな感じだ」


 やや間を置いてからまた言葉を紡ぐ。


「音は、俺たちが持つ音の操作による完全無音化。全部の動作にこれをやる。次にニオイだが・・・ともかくニオイを発さないような体を作ることだ!その他にもお前らの特性の中で有用そうなもんがあったらそれも習得できるように」


 そして最後に、と付け加えて彼は使い魔たちに宣言した。


「俺たちは戦うために訓練することをやめる!俺たちは逃げるために・・・生き残るために鍛錬するのだ!より弱く価値のない者へ・・・どうでもいい存在になる為に・・・、奴らから俺たちへの興味関心を無くすために・・・」


 誰もいない訓練場にその宣言が響いた。


 その在り方はこの世界では考えられないことだった。


 この世界の存在は、例え小さな虫や植物ですら強くなろうと、相手よりも強い存在になろうと、ほぼ無意識的に強くなろうとしている。


 だが彼らはその反対、より弱く、より小さくなろうとしている。


 彼らは強くなることをやめた。彼らはこの世界から逸脱し始めた。


「よっしゃー!やるぜお前ら!」「モグー!」「ホー!」「キュー!」「・・・・・・!」(汗)





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「ギャー!ばれた!」「わー!わー!」  ドス!ドス!ドス!







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「埋めながら掘れない?」「モグー?」   ドルドルドル








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「首が270度近く曲がる」「ホー?」









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「これで晴れてCランクです」「やったぜ!ラッキー!」「キュー!」







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 そうして彼らは鍛えていった。より小さく、より弱く、興味を無くさせるために。


 そして月日は立ち・・・・・・・・・














「これより明月高校の入学式を始めます」

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