第1話

  「「ハッピバースデイ!」」


 父と母と祖父と祖母が声をそろえて祝いの言葉を言う。今日で3歳になる。


(んなこたどうでもいい!それよかプレゼントじゃプレゼント!)


 元大人らしからぬ考えだがそれも仕方がないことかもしれない。

 

  この世界では初めて立ったことや初めてしゃべったことに加えて初めて魔法を使う所謂初まほというものがある。


 早くて1歳後半、遅くても2歳後半には初まほが来るのだが、彼ができるようになったのはつい昨日、なんと誕生日である6月1日前の5月31日なのだった。だからこそ彼は不得意な(推定)魔法を補うだけのもの、すなわち使い魔の従え方を知る必要があったのだ。


 彼が使い魔に興味を示すきっかけはテレビでやっていた教育番組を見ていた時のこと。


 その番組では子供たちが自らの使い魔の自慢をお便りにして、司会のお姉さんお兄さんに読んでっもらうというコーナーがあった。


 魔法に代わるものを何とか模索しようとしていた時に、まるで天啓のごとく舞い降りた一つの手段。


 これだ!これしかない!


 心からそう思った優人は、父や母に誕生日プレゼントは使い魔についての本をせがんだ。


  「いやー無事魔法が使えることも分かったし、無事3歳にもなれたしよかったわ!」と母。

「それにしても優人、そんな本でよかったのかい?」と、誕生日プレゼントである「使い魔入門」に目を向けながら父が言う。


  「うん!これがな~いいんだな~」(しょーがないじゃんか、なんか上手くできそうな気がしないんだから)と子供らしく返答しなが、らひとりごちる。

 

  パーティはつつがなく進行したが、彼はもう本のほうに気が向いてしまい、パーティ中の出来事などに関心が向いておらず、気が付いたらパーティが終わっていて布団に入ってるところだった。


  (うっそだろおまえwwwww)








―――――――――







 次の日


  幼稚園に向かうバスの中で彼はひとり嘆いていた。


(昨日が日曜日ってこと忘れてたぁ~!…しゃ~ね~な、休み時間の時にでも読むか)


 そんな見積もりを取っていた。彼は遊び対盛りの子供を完全になめていた。


  「……」(さてはじめる「ゆうく~ん!あそぼ!!」

「フガ!?」


 ここは市立の幼稚園「マンマル幼稚園」の年少組のウズラ組教室である。そんな遊びたい盛りの子供満載の教室の自由時間で本などまともに読めるわけもなく……。


「フガフガー!(怒)」「わーゆうちゃんがおにだー!」「わーわー!」「コワイ!」と結局休み時間じゅう鬼ごっこをやらされる羽目になった。


  (ちきしょう!ガキンチョどもの破天荒さのことをすっかり忘れていた!てか忘れてばっかじゃねぇか!)「グググ~!」

「ゆうちゃんどーしたの~?」

「やすみじかんおわちゃた」

「せんせぇのけち~!」

「たのしかったなぁ」


 と、結局1ページどころか1行も読めないさんざんな有様であった。


  「はーいじゃあみんな席についてね、よしついたね。じゃぁ次のお勉強は魔法についてでーす!」

「!」(きやがったな!)


 当然のことながら幼稚園の授業にも魔法についての簡単な授業が組み込まれていた。


 魔法学習の時間が来た事を察した瞬間、優人は身構えた。


  (ほんっとよーやく!よーやくできるようになったんだよなぁ…。これで肩身が狭い思いしなくて済む)

「じゃぁ誰か、ファイヤーやってもらえるかな?」

「はいはいはいはいは~い!」



 優人バカは大声で挙手をした。


(しゃぁ!修行の成果、見せたるで!)


  「えっ!優人君?うーん…、よし!じゃあやってみ「とりゃー!」



 と優人アホは先生の言葉を最後まで待つことなく力を込めた。すると掌から炎が揺らめいて、すぐに消えた。実にしょぼい。


「ふひー…」


 優人うつけはさも大仕事をやったような体で額の汗をぬぐった。


「ゆーちゃんがひぃふいた」

「やったー!」

「おめでとゆーくん」

(被せられた…)

(くぽぽぽぽ、やってやったぜ!)


 ようやく周りと同じことができるようになったという事実が、休み時間の疲労と本を読めなかった不満を吹き飛ばしていた。


 ……まったく単純な男である。本当に元は成人した男性だったのだろうか?

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