神々の悪戯

杉山実

第1話生まれ変わる?

 24-01

田舎町のスナックビルの三階に、このビルでは比較的大きな店舗の広さを持つスナック(夢)、この店のママはこの世界に入って四十年以上のベテラン、今年六十六歳本名は安田美千代、店の殆どの従業員はママの本名は知らない。

若い時から「みっちゃん」と呼ばれて六十六歳の今も「みっちゃん」でそのまま押し切っていた。

今夜も常連客、赤松建設の赤松順造が早い時間から、店にやって来てカウンターに据わって飲み始めている。

従業員は少し忙しく成る八時から入店して来るから、それまでの時間は一人で客の相手をしている。

早い時間から来る客は、ママと話がしたい客か全くのお初の客だった。

ママの年齢と容姿を見て殆どの客は二度と来ないから、美千代も知っていて殆ど適当な応対しかしないのだ。

今夜の赤松の年齢は美千代と変わらないし、長い付き合いだから話も合うのか今夜の様に早い時間からやって来る。

二人は数年前には関係も有った仲だ。

「もう疲れたわ、この仕事も嫌に成るわ」

「そう言いながらもうすぐ五十年か、何か嫌な事でも有ったか?」

「常連のお客さんが先日亡くなってね」

「店の客はママの年齢に合わせて来るから、年寄りが多いだろう?」

「そうね、そう言われたら、女の子もいつの間にか、若い子いなく成っているわね」

「そんなものだよ、話が合わないから、若い子入店しても辞めるからだろう?」

「私も引退したいわ」と寂しく微笑む美千代。

「私ね、この様な水商売をする気はなかったのよ、最初の男が悪かったのよね」「別れた亭主か?」

「そうよ、働かないから仕方無く仕事始めたのよ、生まれ変われるなら、二度とあの様な男とは一緒に成らないわ」

「そう、ぼやかず一杯飲みなよ、何回も同じ台詞を聞いたよ」とビール瓶を持って進めると「時間早いけれど、頂こうかな」とグラスを差し出す美千代、いつもに比べて早い時間からの飲酒に成ってしまった。

しばらくして、従業員の蟹江伸子、戸崎香里、菅野愛の三人が次々と入店してきた。

「伸子、また大きく成ったな、子供出来たのか?」と冗談を言う赤松。

見るからに肥えて大きな身体で「そうよ、出来たらしの三人目よ」と冗談で返す伸子。

五十歳半ばの伸子も、この店が長いので冗談もよく判るので乗りが良い。

香里が四十四歳、愛が四十二歳とママよりは若いが、普通スナックでは採用される年齢を過ぎている。

この三人以外にもう一人、小島成美三十九歳が交代で来る。

香里以外は比較的身体が肥えている従業員が多い、その姿を見て「店の女の子は呑気な子が多いからね」と客に言って自分も納得している。

金曜日は客が多いので、その曜日に合わせて人数を割り振っていた。

美千代には、子供が二人、長男猛、次男信樹、既に二人共結婚をして子供も産まれて、美千代は店以外では完全にお婆さんをしている。

店以外ではそれなりの年齢の初老の老人に見えるのだ。

スポーツジムの会員に成って、水泳をして最近では長時間プールで泳いで楽しんでいるので、年齢の割にはスタイルが良い。

時々客に整形?胸に何か入れているのか?とからからかわれて「見せられるなら、見せてあげたいわ、抜群の乳房よ!」と冗談とも本気共思える冗談を飛ばしている。

しばらくして、お客が数人入って来て、伸子も、愛も香里も忙しく用意をして、美千代だけが赤松の前で既に五杯目のビールを飲んでいた。

「生まれ変われたらこんな仕事もう二度としないわね、美男子の男を捕まえなくても、仕事をしてくれる、真面目な男が良いわ」

「それが判るのは、人生経験が多くなってからだよ、始めは判らないよ」

「大丈夫よ、見る目が出来た」

「ママの歳だからだよ」と赤松に笑われる美千代。

「まあ、人生は一度だから、反省して天国へ行くのだよ!」と笑う赤松。

美千代は赤松が帰った後も、珍しくお客の処を廻って次々とお酒を飲むから、酔っ払っているのが従業員にもよく判る。

伸子が「今夜のママ飲む量多くない?」「また、悪酔いするのでは?」と香里も心配をしている。

十一時を過ぎると、もう酔っ払って調子が良く成り声も大きく成って、歌もお客とデッエットをしている。

お客も美千代の酔っ払い状態に、大きな声で従業員に怒鳴り出すと、十一時半過ぎには引いてしまって「もう片付けましょうか?」と伸子が言うと「伸子後はお願い、眠いわ」とカウンターに寝込んでしまう。

「最悪の状態だわ」と酔っ払った時の美千代を知っている従業員は、口々に言いながら片付けに取りかかった。

「困ったわね、代行で一緒に送るわ」と伸子が言うと、代行サービスに電話をする香里。

「混んでいて半時間以上かかるって」しばらくして片付け終わると「みんな、もう良いわ、先にあがって」と伸子が話して、二人を残して帰って行く二人。

「ママ、今夜はどうしたの、珍しく酔っ払って」

「伸子か、お客さん頼むよ」と急に客の心配をする。

「もう終わったわよ」

「そうか、もう終わったの?」と全く判らない美千代。

伸子が「ママもお疲れだから、そろそろ店誰かに譲ったら?」

「伸子、貴女がすれば良いわ、要領判っているから、ここは借り物だから、家賃払えば誰でも出来るわよ、私が引退後は頼むわね」と大きな声で叫ぶ様に言うと、また寝ようとする美千代。

しばらくして、代行の車が到着して、伸子の車に代行の運転手と一緒に乗せると、また眠ってしまう、本当に鼾をかいている。

「珍しいですね、ママさんがこれ程酔っ払うなんて」と運転手が微笑むと「そうなのよ、昔から馴染みのお客さんと呑んでいて、沢山呑んだのよ」しばらくして自宅に到着すると、長男猛が「お母さん、飲み過ぎだよ」と車から抱きあげて降ろして、伸子は帰って行った。

「お水、頂戴」と急に目覚める美千代に「一杯飲んだら、もう寝て下さいよ」と猛がコップに水を入れて美千代の部屋に持って来る。

受け取った水を呑もうとした時(最後の水だ)と何処からともなく聞こえる。

「何?」と言って廻りを見廻すが誰も居ない。

(生まれ変わりたいのだろう?)再び聞こえて天井を見る美千代。

「勿論、生まれ変われるなら変わりたいわよ」と独り言を言う。

(望みを叶えてあげよう)

「本当なの?」

(嘘は言わない、明日から生まれ変われる)

「本当!」

(その水を呑んで眠りなさい、明日は生まれ変わっていますよ)

「嘘でしょう?今夜は飲み過ぎた、反省しています、幻覚が聞こえる」と美千代は一気にコップの水を飲み干した。

「幻覚は聞こえなく成った、寝よう!本当に沢山呑んだわ」と着替えて眠りに就く美千代。

熟睡。。。。。。。。。。


翌朝「大変だわ、お婆ちゃんが息をしていない」と猛の嫁純江が大声で叫ぶ。

「何!、救急車だ」と今度は猛が大声で叫ぶと「駄目よ、冷たいから、無理よ」(何を馬鹿な事を言っているの?)と起き上がる美千代。

(あれ?身体が無い)身体はベッドに眠ったまま起き上がらない。

美千代は自分の姿を見ていたのだ。

(えー、死んだの?)

(生まれ変わる為に亡くなりました)

(貴方は誰?)

(画老童子と呼んで下さい)

(私はどうなるのですか?)

(四十九日迄、この様に見る事が出来ます、その後は生まれ変わって、貴女の希望通り生きて下さい)

(そんな事が出来るの?)と驚きの美千代だった。



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