016 (閑話)世界の理その3/4

「それでは、4つ目です・・・」


 そう言うとメフィストは私の横に詰め掛けた。

「横、おじゃましますね」

 と、囁きじみた甘ったるい言葉を吐きながら席に着いた。

 不意打ちにみたいに、酒の席の様に肌を重ねられて、思わず心臓が跳ね上がってしまった。何となく鼻の下がむず痒い。

 「いつの間に椅子なんて用意したのだろうか?」と、別の事を考えて必死に浮ついた気持ちを抑える様に呼吸を整える。

 整えながらも、指の隙間から覗き見する感じに視線でメフィストの顔を見ると、好奇な表情で見つめられていていた。

 実際の距離が近づいたのもあるだろうが、不覚にも仕草や表情が可愛いと思ってしまった。つい見とれてしまった。見つめられると嬉しくも恥ずかしくて目が泳いでしまう。そして胸の高まりは治まるどころか軽快にダンスをし始めてしまった。

 お酒よりも女性に酔う気持ちが判った気がする。

 そういえば付き合いで無理矢理にその手の店に案内された事があったが、その時の対応が『もっともっとお金を使って』とせがまれている気がして幻滅したのを思い出した。

 一見さんだったから経験浅いスタッフだったのだろうが、トップを張るクラスになると人心掌握が秀でているのだろう。メフィストの仕草でイメージしてみると通い詰めたくなる気持ちも分からなくも無い。

 いやいや、判りたく無いのだけどな。


「顔の火照りも治まったみたいなので、続きをお話ししましょうか」

 興味津々に観察されている感じを受けて嬉しいやら恥ずかしいやら。火照りは治まっても鼓動は相変わらずリズミカルだ。何時になったらこの浮ついた気持ちは治まってくれるのだろうか。

 このまま会話をしたら丸め込まれてしまいそうだ、と不安になっていると、メフィストの視線が違う何かをチラ見しているのに気がついた。

 幸いにも気持ちがそのチラ見先に変わったので冷静になれたと思う。

 私も目先だけでチラ見の先を確認すると、そこは紅葉の席だった。

 リハビリ・・・というには手足の動きが荒立たしく見えたのは気のせいだろうか。

「竜登様、お話しの時に相手の顔を見ないのは失礼ではありませんか」

 と注意を受けたが、『貴様がそれを言うか!』心の中で訴えた。


「竜登様が気にされていらっしゃるのは『使者』についてですね。想像されてるのは『人間』だと思いますが、意思が通じるモノならば、人以外にも犬や猫の動物やスライム等の怪物、前例では魔王の場合もありましたわ」

 さらっと物騒な名称が出てきたのには驚いたが、とりあえずツッコむのは止めよう。ツッコむのは質問が済んでからだ。

「『使者』を選ぶ基準とかあったりするのかい。それから手順とか段取りとかあったり・・・」

「基準は『神様』次第ですから分かりませんわ。それから手順ですが、別に大それた事はありませんわよ。亡くなった方に『あなたの助けが必要です。お願いできませんか』と伺うだけよ。」

「死者へお願いすると簡単に言うけど、偉人や傑人等の大人物なら兎も角、私の様にしがない人生を過ごした相手では、転生や転・・・、まあどっちでもいいんけど、その世界を『平和』へ導けるとはどうしても思えない。」

「そうね、それなりに手間を掛けますから役立たずでは困りますよね。その場合は何かしらの能力というかスキルを付与しますわね。『神様の祝福』とか『神様の恩恵』と呼ばれたりするかしら」

「もう一つ、新しい世界では『電波』を飛ばして助言したり、眷属と言って良いのか知らないが、モノを届けたりするのは有りなのかい」

「『電波』?・・・あぁ『会話』の事ね。そうね、助言とかそういう事も有りますわね。たしか『神様の加護』や『神様の寵愛』だったかしら」

 予想はしていたけど、『神様の祝福』というかチートスキルを手にして異世界生活という都市伝説は本当に有ったんだな。「父さんの言う事は本当だった」とか意味不明な事を言いたくなった。当然、飲み込んだけど。

「もう一つ質問していいかい」

「嫌ですわ」

 ここまでの流れを遮る様に、あっさり否定されてしまった。

「・・・え、なんで?『使者』についてもう少し知りたいだけなんだけど」

「他の『神様』の事なんて、もうどうもいいじゃありませんか」

「いいや、どうでも良くない。だいたい『亡くなった理由』が変じゃないか。何故死んだ?」


「生きとし生けるものは必ず死は訪れますわ。『亡くなった理由』なんて、寿命、天命、宿命、運命で良いじゃありませんか」

 こうも大雑把に遇(あし)らわれて、些か不愉快に感じてムキになってしまった。

「寿命とか、おかしくないかい?『引きこもってバーチャルゲームをしていたら隕石が墜ちてきて死んじゃった』とか運命なの?!」

 感情が突然荒れてしまって怒鳴る感じで言い放ってしまう。沸き起こる感情を鎮めようとしたが、それ以上に喉に詰まったナニカを、この勢いに任せて吐き出してしまいたい衝動に駆られる。

 分かっている。この行動は只の八つ当たりだ。それでも『殺された』と僅かでも思ってしまうと激高してしまうのだ。暴走した勢い任せて更に言い放つ。

「神様が手違いで死なせちゃったから、とかおかしいよね!これワザとだよね。故意犯だよね。神様は人を殺してるよね!それに、この空間で嘘をつくと罰則有るよね。『ワザと』と『手違い』って言い換えて許されるもんなの?」

「あん。そんなに怒鳴らないでよ。答えなくちゃ駄目なの?」

 メフィストの余裕有る怯え方に肩すかしを食らった気がする。演技というのは即座に分かったが、それでも女性を恫喝するのは男性として沽券に関わる気がしてきた。とりあえず、怒鳴ったのは謝ろう。

「あ、怒鳴ってごめん。弾みとはいえ本当にごめん。でも答えてくれませんか」

 そういえば私は何故死んだ。いや、正確にはその寸前なのだが、風邪で簡単に死ぬモノなのか。もしかしたらメフィストの方略ではないのだろうかと思い立ってしまった。殺された気がしてならない。

 実際、死にかけた事故に遭った事が何度かあった。これがメフィストの方略による事故だと思えてならないのだ。

「答えられないのなら、私が死んだ理由はメフィストの計略と受け取らせて頂く事にするよ。メフィストの立場としては交渉事として最悪になるんじゃないか。どうだい」

 こじつけなのは分かっている。不運な宿命だったのかもしれないが、それでも殺された可能性だってありえる。いったいどっちだ。些か強引だが鎌を掛けてみた。

「竜登様の死因は本当に運命であり宿命なのよ。少なくとも、わたくしは干渉していないわ。逆に寿命が尽きるのを待っていたのよ。・・・と言っても信じないわよね・・・?」

「もちろん信じられる訳が無い。仮に証拠を示したとしてもその信憑性はどうやって確認できるというのだ」

「寿命が尽きるのを待っていたのは、お願いする立場としての精一杯の誠意よ・・・と言っても駄目なのよね」

「もちろんだ。でも・・・そうだな。策略じゃ無いというなら、願い事が有るというなら誠意を示してもうらおうか。理(ことわり)を知る権利を1つを与えてくれ。出し惜しみというか、回数の条件に縛られているのは、それ程に重要な事案なのだろう。その重要なモノを与えてくれ」

「・・・仕方有りませんわ。それで誠意を汲み取って頂けるのなら出来る範囲ではありますが質問にお答えしましょう。理(ことわり)に掛かるか分からないけど、事例としてならお話しできますわ。これでいいかしら」

「お、おう。お願いするぜ。じゃなくってお願いします」


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