轢いた死神の代わりに異世界で死神始めます

ヤミネad

第1話 お前は、なんで飛び出してきたんだ

 独身30歳前半の喜屋武キャンは彼女もいない、学歴もぎりぎり高卒のトラックドライバーだ。

 今日もブラック企業の……社会の歯車としてハンドルを握る。

 ここ数週間休みも無く働いたせいで、ハンドルを握る手もおぼつかず、集中力はスマホにいってしまう。


 「ああ、もうこんな人生やだな~死にてえ~」


 スマホの奥に映るエロサイト眺めながら、冗談のつもりで呟いていた。

 深夜のテンションはまだまだ冷めない。


 「こんな事を言ってたら神様の手違えで俺を殺して……異世界に連れてってくれないかな~」


 現実逃避は何回行った事か……そんな夢物語っと思っていたら、


 『なら、一回死んでみますか?』


 っと、どこからか声が聞こえるではないか。


 「俺って疲れてんのかな……どちらさんですか?」

 『私は死神のクリスって言います。今日、貴方を殺しに来ました』

 「それは、こんな夜中にお勤めご苦労様です。ああ、だめだ。眠気で視界がぼやけてきた……うん~良いエロイラストあげてる作家さんがいる!」

 『死神の声よりもエロサイトがですか!最低です……』

 「殺人予告してる奴に言われたくないよ」


 どこからの声か確かめるために周囲を見渡すが確認できない。


 『もう、こんな最低男殺して家に帰りましょう。キャンさん、目の前に現れるので死ぬ覚悟を……』


 早くエロサイトじっくり読みたいキャンは、死神の声を無視してアクセルを深く踏む。


 『って、速い!速いですよ!止まって!止まっ……グフエッフゥゥゥ!』


 ドンッ!……ゴロゴロ…


 気づいた時には轢いていた。

 逆に冷静になって速度メーターを見ると細い道で60キロは出していた。

 

 キャンは急いで車を停め、轢いた少女の元へ駆け寄る。

 服装は黒を基礎とした……宗教的な、厨二的なものだ。

 髪は白色の長髪でロシア人のような顔立ち。

 

 「おい!大丈夫か?」


 頬を叩く、胸の動きや、呼吸の音で生存確認をしてみる。

 心臓は動いているし、呼吸もしている。

 トラックに轢かれて傷も殆どない。


 人口呼吸の必要も無いが、動かさない方がいいだろう。

 警察と救急に電話をかけて待つ事にした。

 未だに目を覚まさない少女の持ち物が落ちてないか周囲を見渡すと


 「なんだこの鎌は……」


 少女から数メートル先に少女よりも大きい大鎌が落ちていた。


 キャンはそれを拾い、少女の隣に置いた。


 「変な儀式をしているようだ……念のため為に写真を取っておくか」


 何が念のためかわからないが、パシャッパシャッと数枚撮った時、


 『すまぬが、その娘は撮影NGなんでやめてもらえぬか』


 天から声が聞こえる。


 「わかりましたけど…どちら様ですか?」


 その声に返事をすると、


 『妾は神じゃ!』


 死神の次はゴット参上。

 高音の…女の子供の様な声だった。


 『今からその娘を回収する……クリス、はよ起きぬか!』

 「神しゃま……今日も魂回収できましゃん…でした…むにゃむにゃ」


 神の声を無視して寝続けるクリスという少女は、どこか幸せそうな顔をしていた。


 『ああもう!この駄目死神が……すまぬが、キャンとやら、そこのクリスバカを抱えてくれぬか?』

 「わかりましたっと…」


 クリスを横抱きすると……足元に巨大な魔法陣が現れ、キャン達を光で包み込んだ。

 こんな状況だが、キャンは魔法というロマンに心が躍る。


 数秒後には、白が支配する空間にいた。

 玉座の様な間に金髪ロリが偉そうに座っている。


 「うむ……貴様が喜屋武という者か」

 「そうですけど……これって跪いた方が良いですか?」

 「構わぬ……あと、敬語も使わんで良い」

 「失礼かもしれないけど、お名前は?」

 「妾は第七代『死にめの神』アルキメじゃ。もっと、ゆっくりせい」


 見た目に反して寛大な心の持ち主のようだ。

 キャンは、抱えていたクリスを適当なところに投げると神に向き直した。

 放り投げられて全身を強打したのに寝続けるクリスに神も困り顔だった。


 「それで、俺はもう帰っていいかな?」


 クリスを送り届けたら任務終了だと思っているが、アルキメはそう思っていなかったようだ。


 「待て、貴様を返す訳にはいかん」

 「えええ!お家帰りたい!帰りたい!」

 「だだをこねるでない……貴様は、今日死んで魂を別の世界に送る筈だったのじゃ」

 「嘘…俺が異世界転生出来たの!」


 最近の小説でよく見るパターンだ。

 それが自分だったとは、感激で涙が出そうな気分だった。


 「それが…あのクリスバカがしくじりおって、貴様の魂が入る筈だった体に別の魂が先越して入ってしまった」

 「まじか……こいつのせいで俺の異世界転生がなくなったのか。ちなみに、転生先は何だったんですか?」

 「うむ、貴様は本来、クリエッタ王国で労働奴隷に転生する予定じゃった」

 「俺、転生しても社畜じゃねえか!それも奴隷って……ああ、危ねえ!クリスこいつを轢いといて正解だった!」

 「だが、貴様が異世界に行く事は変更できぬ」

 「さいですか…」


 クリスがキャンを労働奴隷に変えようしていたと知ると、この寝顔に殺意を覚えてきた。

 (アホヅラして寝やがって…)


 「それで、俺はどうすれば良い?まさか、次も労働奴隷にする気か?」

 「いいや、労働奴隷はもう足りておる……今から、異世界での職種のリストを渡すから選ぶと良い」

 「それは良いアイデアだ!」


 アルキメがキャンに一枚の紙を渡した時、寝息をかいて寝ていたクリスが起きたのだ。


 「アルキメしゃま、おはようございます!あれ、この男死んでない…」


 クリスが落ちていた大鎌をキャン向けた。

 

 「待てクリス、そやつは貴様を介抱してくれた者じゃぞ」

 「え、そうなんですか?」


 アホヅラをアルキメに向けるクリスはキャンの顔を確認する。

 (トラックで轢かれた事は忘れているようだし、黙っていよう)


 「ありがとうございます!ですが、死んでください!」

 

 クリスはキャンに大鎌を振るうが、キャンの体を切る事は出来ずに、通り抜けてしまった。


 「何で切れないの!」

 「今回の失敗で貴様が死神を解雇される予定だからじゃ」

 「そんな急ですよ!」

 「急じゃない。今まで貴様が何度も失敗して、妾が始末書を書いておったのじゃぞ」

 「うう…そうですけど」

 「妾の領域が他の神より成績を上げておるが、貴様が足を引っ張って成績が落ちておるのも知っておるだろう?」

 「……うう、はい…」


 アルキメの横にホワイトボードが出現して、アルキメと書かれた棒グラフが1位を示している。

 きっとアルキメは優秀な上司だったのだろう。

 ポンコツなクリスの尻拭いをしても神を続けて成果も残しているのだから。


 キャンの対応もクリスの尻拭いの一つなのだろう。


 キャンは自分に被害が出ない事を確認すると貰った紙を広げる。


 そこには、様々な職業名が書かれていた。


 「気に入った職業があれば、名前を押せ。それで決定する事ができる」


 剣士、格闘家、僧侶、魔法使いなど男心をくすぐられるものや

 本屋、鍛冶屋、飲食店オーナーなど現実味のあるものまである。

 どれも異世界生活で体験してみたいものばかりで悩んでしまう。


 「さっさと決めてくださいよ。私は、失業保険を確認したいんですから」

 「なら帰れよ。別にいる必要ないだろ」

 「一応、貴方の転移先が確定したら解雇が決定するので」

 「はいはい……う〜ん、どれも悩ましい」

 「なら、もうこれで良いじゃないですか」

 

 そういうとクリスは一番端の職種を押そうとした。


 それは、はっきりと奴隷と書かれていた。


 「やめんかい!バカタレ!」

 「痛い!何で叩くんですか!」

 「人を奴隷落ちさせようとしたからだろ!」


 キャンはクリスからこの用紙を守るため距離を取る。

 それを見たアルキメは、


 「それなら死神はどうだ?クリスを解雇するから枠が余っておる」

 「勤務先は選べますか?あんなクソブラック大国みたいな国には行きたくない!」

 「わかった」


 キャンは、喜びのあまり飛び跳ねてしまった。


 「死神って異世界転生であたり枠だよな……ああ、良いな!良いな!どんな事をするの?」

 「異世界の悪しき魔物や人間の魂を集めてくれれば自由にして良い」

 「イッツ、アバウト!だが、それ良い!」


 キャンの頭には、ゴツゴツした骸の姿や、静かな殺し屋風の容姿を思い浮かべる。

 彼の顔面偏差値でそれが似合うか疑問であるが…


 キャンは、迷わず死神を選ぶと


 「ええ!そんな……アルキメ様、どうか私に死神復帰のチャンスをください!」


 頬を膨らませてアルキメに懇願するが、効果は薄そうだ。


 「駄目だ……キャン、こやつも一緒に異世界へ連れて行ってやれ」

 「えぇ、こんなヘンテコ女は嫌だよ」

 「私も嫌です。こんなブ男……」


 クリスと目が合うと向こうは視線をそらしてきた。


 「アルキメ様、連れて行くって……」

 「うむ、そやつを異世界のパートナーにして働かせるのじゃ」

 「仕事としてのパートナーね…」

 「ついでにクリスの職種も決めてくれ」

 「私が自分で決めます!」


 裏に書かれていたクリスの職種欄を見ようと思った時、クリスは俺の持った紙を奪おうとしている。


 「やめんか!この阿呆め!」

 「ひゃふん!」


 アルキメが手を向けると、クリスは空中で拘束され動けなくなってしまった。

 魔法の類なのだろう。

 (ああ、でもJK(っぽい)少女が拘束されて動けないのは、見てて興奮する!)


 「アルキメ様、このクソ男が私を劣情の目で見てきましたよ!天罰を!」

 「キャンが選び終えるまで、そこで頭を冷やしておれ」

 「……はいひゃい!貴方、変な職種を選んだら許さないんだから!」


 (もう無視無視!え〜っと……)


 魔法補助官、魔法技師、死神行政書士など死神を補佐してくれそうな職種が並ぶ。

 だが、どれもこのクリスアホヅラに似合いそうなのはない。

 (この女にマシな職種を選ぶのは嫌だな)


 ………

 ………

 ………


 (うん?これって……)


 キャンは一番端の底職種の欄を見ていたら、気になる項目があったので決定を押してしまった。


 「それと、一番端の職種は絶対選ぶんじゃないわよ!絶対よ!」

 「あっごめん…勢いで押しちゃった」

 「え?ええええええええええええええ!」

 

 そこに書かれていたのは、『性奴隷』という項目であった。

 (やっぱり、異世界でムラムラして性犯罪者になるのは、まずいからね!)


 「待ちなさい!早くキャンセルしないと…」

 「キャンの決定を第七代『死にめの神』アルキメの名の下に承諾する…」

 「待ってください!アルキメ様、私はこんな男の性奴隷なんて嫌ですよ!」


 アルキメの手続き的な儀式は、クリスのクレームをガン無視して進める。

 アルキメ自身も早くこの仕事を終わらせたいようだ。


 「キャンよ、良いか?」

 「心からお受け致します、アルキメ様」

 

 テンションがハイのキャンは、ノリで跪いてしまう。


 「こんなJKと前の世界でヤッたら務所行き確定だからな……黙ってれば美少女だし」

 (クリスさんとは、誠意ある関係を築きたいと考えています)

 「おい、クソ平面男!本音と建前が逆になってるぞ!」

 「だまらっしゃい!お前はもう俺の性奴隷なの!」

 「誰が貴方の性奴隷になるもんか!」


 職の契約は少し時間がかかるようで、俺の身体に死神の証が少しずつ刻まれていく。

 (って事は、クリスにも……)


 「アルキメ様、クリスにちゃんと性奴隷としての証が刻まれているか確認したいです」

 「妾が行った契約じゃ大丈……」

 「報連相と再確認は大事ですよ。だから、このアホヅラクリスが失敗したんじゃないですか?」


 行政機関の職員は、適当な手続きをしたら責任を押し付けてくる。

 だからキャンは、確かな安心のために要求したのだ。


 「わかった…ほれ」

 「きゃあああ!アルキメ様おやめください!お嫁に…お嫁に行けなくなります!」

 「貴様はキャンの性奴隷なのじゃから、必要なかろう」


 アルキメが指を動かすと、クリスの着ていたショートパンツが脱げあんな所やこんな所に性奴隷の証が刻まれている事が確認できた。


 「今日のおかずは決まりだね!安心して、自分でするだけだから。いきなり手は出さないよ」


 キャンは、拳を握り上下運動で意図を伝える。


 「嫌だ!こんな男に抱かれるの嫌だけど、オナネタにされるのも嫌よ!…」

 (やっぱり、イチャイチャエッチがしたいから……無理矢理ってのもなー。だから、最初はオナネタ止まりにしておこう。まあ、本当に限界だった時はヤっちゃおう、どうせ性奴隷だし)


 そんな会話が終わった瞬間に2人の職種の証が刻まみ終えていた。

 そして、俺は黒を基にした破れ箇所が多いところが厨二臭さを増させる死神姿……クリスは、ぼろぼろの奴隷服と大きな鉄製の首輪が自動で着衣した。


 「よし!新たな死神キャンとその性奴隷のクリスよ……アルキメの名の下に異世界で職を全うするのじゃ」

 「はい!」「もう嫌、殺して……」


 そして、死神キャンと性奴隷クリスの異世界での冒険が始まったのだ。

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