ミオとの出会い(6)

 ――朝食を終えた後、俺とミオはしばらく、一緒のソファーに座ってテレビを見ていた。


 ミオは隣で俺の腕を抱きつつ、今まで見たことのないテレビ番組のことをいろいろ聞いてくる。


「この太った人、声が男の人だよね」


「ああ、そうだね。中身はまごうことなき男だな」


「どうして男の人なのに、女の人の格好をして、喋り方も女の人みたいなの?」


「それは……あれだよ、キャラ作りってやつだな」


「キャラ作り?」


「そう。男があえて女のキャラを演じることで、そのギャップを楽しむんだよ」


「んー。難しい言葉、分かんない」


「昔はひとまとめにオカマって呼んでネタにしてたもんだけどなぁ、今は多様性がうたわれてきて、一概に笑えなくなってきたんだよな」


 と言って、また自分が難しい単語を使ってしまったことに気がついた。


「まぁ要するに、こういうテレビとかのおかげで、男の人が女の人の服を着たり、お化粧をしたりする人がその辺にいても、今じゃ珍しくなくなったってことだね」


「そうなんだー」


「その気になれば、女の人に負けないくらい美人さんになれる人もいると思うよ」


「美人さんかぁ。じゃあ、ちょっとお化粧してみたいかも」


 ミオがポツリとつぶやいた。


「ミオはそのままでも、充分かわいいけどな」


「そうかなぁ」


「うん。だってミオに初めて会った時、俺、ミオのことをかわいい女の子だと思ってたもん」


「ボクが? 女の子?」


 ミオはキョトンとして聞き返してきた。さも意外なり、という感じの口調である。


「あれ、俺だけかな。施設にいた人とかに言われたことなかった?」


「なかったと思うけど……あ、でも、園長先生は、他の男の子を〝君付け〟で呼ぶのに、ボクの事だけは、〝ちゃん付け〟で呼んでたよ」


「そういや確かに『未央ちゃん』だったね。あれ、ミオだけだったんだ」


「そだよ。それにボクが着てる服は、全部園長先生が好きなのを選ばせてくれたんだけど、あれってもしかして、ボクのことを女の子として見てたからって事なのかな」


「え。服も?」


 そう言って俺は、ミオがいつも穿いているショートパンツに目をやった。丈が短いあまりにお尻を隠しきれていないので、その後ろ姿を見た時に毎回ドキッとするのである。


 それがまさかあのおばさん、いや、園長さんではなく、ミオ本人のチョイスだったとは

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