第27話

 最後まで愚かだったのは夫の方だった。


 女から巻き上げた金を受け取るとき、夫は私を軽蔑するような眼で見ていた。そんな目をできるような立場ではないくせに、まだ私が悪者のように考えているところが気に障った。金などどうでもいいのだ。私は金の亡者ではない。あくまで別れたという事実を得て、夫と調子に乗っていた浮気相手の鼻っ面をへし折ってやりたかっただけなのだ。金はあくまでおまけで、あっても無くてもいいものだった。そこを夫は理解していない。未だに性悪な女が浮気を暴くついでに小遣い稼ぎをして楽しんでいるとでも思っているのだろう。


 そして前と同じことを夫は私に言った。


 「お前が言う通り、ちゃんと別れたし金も受け取れた。だからこれから先、あいつに近付くようなことは絶対にしないで。あと俺の前ではもうこれまでの話はしないでほしいんだ。俺は心を入れ替えてこの家でやり直したいんだから」


 そう話す彼の横顔を見て、頬が少しこけていることに気づいた。頬がこける程あの女に心を砕いて、さらに自分勝手な要求をどうやって通そうかと悶々悩んでいたのだろう。性悪で気の強い妻に対峙しなければならないとなるとここまでこの男は追い詰められてしまうのだということがわかった。


 果たしてこの男はいつまで被害者意識を持ったまま居続けるつもりなのだろう。そんな態度で何をやり直すというのだろうか。全てが理解できない『夫であった男』を私は無表情でじっと見つめてしまうのであった。

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