第24話

 「あーちゃん、お金・・・用意してくれないかな。金を渡して、俺がとことん謝れば嫁も手荒なことはせずに済ませてくれると思うんだ。どうかな?」


 乱れた布団を握り締めて彼が訴えかけて来る。



 もし不倫をしていることがパパやママにばれたら・・・。


 もし職場の人たちにばれたら・・・。


 もし彼とのことをあちこちでばら撒かれてお嫁に行けなくなったら・・・。


 もし仲の良い人たちに嫌われて見放されたら・・・。


 

 百万円で私のプライバシーと将来が守れるのなら支払うべきかもしれない。急に自分の未来を脅かされる出来事に遭遇して、ぐぐっと胃の中のものが上がってきそうな程の恐怖を感じた。そして奥さんに浮気がばれたという現実に怯え、彼とのことよりも自分の将来のことばかり考えている自分の薄情さにも気付いた。彼と会う度に好きだ好きだと言っていたが、彼と結婚できないということは頭ではわかっていたし、いつか別れが来ることだって覚悟はしていた。でもまさかこんな形の終わりが来ることまでは想像できていなかった。


 無言の空間の中で彼は私に背を向け、私は下を向いていた。悲しいはずなのに、もう彼とは会えなくなるのに不思議と涙は出てこなかった。今はだたただ寒く、何かに包まれたいという欲求だけが頭の中を占めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る