第20話

 それからの私は暴力以外の方法で何ができるだろうかとずっと考えていた。相手を生かさず殺さず、心に大きなダメージを与える方法を模索した。


 案は二つ出た。一つは家に浮気相手を呼び出し、家に閉じ込めて相手がおかしくなるまで罵り続けるもの。もう一つは、浮気相手から直接慰謝料と言う名の手切れ金を夫に徴収させる案だ。直接言いたいことを言いたいだけぶつけるというのは悪くはないが、汚れた女をこの家に入れるということがまず生理的に受け付けなかったし、娘には道を踏み外した大人の末路など見せたくはなかった。


 だから私は夫を使って間接的に浮気相手をいたぶる方を選んだ。


 そうと決めたらいてもたってもいられなくなって、すぐに夫に連絡をした。


 「今夜話したいことがあります。早く帰って来て」


 メールを送り終えると、もうすでに報復に成功したかのような達成感が胸の中に広がった。だがまだまだこれからだ。何も始まってはいない。でも鬱々とした生活からは抜けられそうな予感がして、少し前向きになれている自分が愛おしかった。


 世間の目より何より自分の心を大事にしたいと思った。自分の幸せがあっての人生だし私の幸せが娘の幸せにも繋がるはずだ。自分に余裕がなければ人を幸せにすることはできない。それは血の繋がった娘に対しても他人に対してもだ。私は大丈夫。私は強い。私は負けない。


 窓の外から見える晩秋の空には眩いオレンジ色が消え始めて群青色の夜が迫っていた。一大決心をした今日は、いつものように空を見上げてもセンチメンタルな気分にはならなかった。


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