「そんな事（こと）ねぇよ……スティーヴ…逆（ぎゃく）だ、甘（あま）えてたのは俺（おれ）の方（ほう）だ。俺（おれ）は親（おや）に捨（す）てられ、職（しょく）にもありつけない…こんな世界（せかい）に、希望（きぼう）を見（み）いだせなくなって…どこか……夢（ゆめ）を見（み）る事（こと）を恐（おそ）れていた……。だから…俺（おれ）とは違（ちが）い、未来（みらい）に希望（きぼう）を抱（いだ）き、前（まえ）を向（む）いて歩（ある）いている3人（にん）に……そんな3人（にん）に俺（おれ）は、すがっていたんだ……。」

それは不思議（ふしぎ）な光景（こうけい）だった。互（たが）いを気遣（きずか）い誤（あやま）りあうこの光景（こうけい）、そんな光景（こうけい）を生（う）みだせたのはやはり、彼等（かれら）が互（たが）いを想（おも）い合（あ）い、支（ささ）え合（あ）い、生（い）きてきた、彼等（かれら）の深（ふか）く結（むす）ばれた友情（ゆうじょう）によるものなのだろう。

「あははは、レオならそう言（い）うと思（おも）ったよ、自分（じぶん）の方（ほう）に非（ひ）があるって」

「あっはっはっ！なんでもお見通（みとお）しだなスティーヴには!!かなわねぇわ」

レオはスティーヴに自分（じぶん）の気持（きも）ちを見抜（みぬ）かれていたのが恥（は）ずかしかったのか、顔（かお）を赤（あか）らめた。

「レオ！！俺達（おれたち）にすがっていたと言（い）うなら、それはもう今日（きょう）までにしろ…俺達（おれたち）はもうこの世界（せかい）にいないんだ」

卑屈（ひくつ）なレオを叱（しか）るような荒（あら）げた声（こえ）を出（だ）したのはウィリアムだ。

「俺達（おれたち）が死（し）んで、まだ1日（にち）も経（た）っていないから今（いま）すぐ立（た）直（なお）れっていうのは、酷（こく）かもしれねぇ……。だけどレオ、お前（まえ）は泣（な）きべそかいて、グズグズと弱音（よわね）を吐（は）く様（よう）な、そんな軟（やわ）な男（おとこ）じゃないだろ！！……。それか…俺達（おれたち）をガッカリさせる様（よう）な軟（やわ）な男（おとこ）だったのか?」

ウィリアムはスティーヴと違（ちが）い語気（ごき）が強（つよ）い……のだが、負（ま）けん気（き）が強（つよ）いレオにはスティーヴのその焚付（たきつけ）に似（に）た言葉（ことば）は、今（いま）のレオには的（てき）しているのかもしれない。

さらに友（とも）たちの声（こえ）は続（つづ）く。次（つぎ）はデフォーがレオに語（かた）りかけた。

「たしかにこの世界（せかい）は残酷（ざんこく）で……レオ兄（にぃ）の言（い）うように親（おや）に捨（す）てられ、職（しょく）にも就（つ）けなかった、それに…………挙句（あげく）の果（は）てに僕達（ぼくたち）3人（にん）は死（し）んじゃった……。だけど…レオ兄（にい）は生（い）きてる、僕達（ぼくたち）と違（ちが）って生（い）きているじゃないかレオ兄（にぃ）は……だから、前（まえ）を向（む）いて歩（ある）いて行（い）かなきゃ！！……見（み）せてよ…僕達（ぼくたち）が死（し）んでしまった事（こと）を悔（く）やむような生（い）き方（かた）を……僕達（ぼくたち）に見（み）せてよレオ兄（にぃ）………。この世界（せかい）は、最高（さいこう）だぞお前（まえ）ら……って」

　　　　　「デフォー……………。」

レオにとって一個下（いっこした）のデフォーは弟（おとうと）みたいな存在（そんざい）だ、施設時代（しせつじだい）デフォーは気弱（きよわ）で虚弱（きょじゃく）だったからか、同（おな）じ施設（しせつ）の子供達（こどもたち）によくイジメられていた。やり返（かえ）せない性格（せいかく）のデフォーは泣（な）く事（こと）しかできないでいた。だが、レオはそんなデフォーをよく助（たす）けイジメっ子達（こたち）を懲（こ）らしめていた、もちろん返（かえ）り討（う）ちに遭（あ）う事（こと）も少（すく）なからずあり、それは相手（あいて）が上級生（じょうきゅうせい）で体格（たいかく）もレオより良（よ）く、ケンカが強（つよ）かった時（とき）だった。だが、たとえ返（かえ）り討（う）ちに遭（あ）おうが、大怪我（おおけが）しようが、最終的（さいしゅうてき）に、相手（あいて）がデフォーに謝（あや）まるまでレオはしぶとく喰（く）らいつき、相手（あいて）を根負（こんま）けさせていた。

「レオ兄（にぃ）……これは恥（は）ずかしくて言（い）うつもりなかったけど……僕（ぼく）がね…保安官（ほあんかん）になりたいと思（おも）ったのはね……レオ兄（にぃ）……なんだ……。」

　　　　　　　　「えっ!?」

「レオ兄（にぃ）はいつも、イジメられていた僕（ぼく）を助（たす）けてくれた。レオ兄（にぃ）は僕（ぼく）のヒーローなんだ、だからレオ兄（にぃ）のように困（こま）っている人（ひと）を助（たす）けてあげたい……そう僕（ぼく）は思（おも）ったんだ」

レオは粗暴（そぼう）な自分（じぶん）が大人（おとな）しいデフォーの憧（あこが）れの対象（たいしょう）になるなんて思（おも）わなかった。「優等生（ゆうとうせい）のスティーヴじゃなくて?」と思（おも）ったが、そこは素直（すなお）に嬉（うれ）しかった。

「レオ…デフォーの言（い）うとおりレオは……」

「スティーヴもういい、もう十分（じゅうぶん）だ……みんなの想（おも）いは十分（じゅうぶん）伝（つた）わった」

そう言（い）ったレオは涙（なみだ）を流（なが）してはいるものの心（こころ）晴（は）れやかな顔（かお）をしている。どうやら直接（ちょくせつ）な友（とも）たちからの言葉（ことば）はレオを立（た）ち直（なお）させたようだ。

「ほんとか〜〜？また泣（な）くんじゃねぇのか?」

「うるせぇ!ウィリアムからかうんじゃねぇハッハッハッ」

ウィリアムがレオをおちょくってきた。死（し）んでいる者（もの）に対（たい）してこう言（い）うのは少（すこ）し変（へん）だが、ウィリアムの性格（せいかく）ならレオを一生（いっしょう）からかえるネタができたと思（おも）っただろ。それに対（たい）してレオは「しまった」と思（おも）ったはずだ。

「それによ……俺（おれ）にも夢（ゆめ）ができそうだ…。いやできたの方（ほう）が正（ただ）しいかな」

　　　　　　「えっ!?夢（ゆめ）…」

「あぁ叶（かな）えたい夢（ゆめ）だ」

「急（きゅう）だな！ガハハハ！！」

「…デフォーが俺（おれ）の影響（えいきょう）で保安官（ほあんかん）になりたいと夢（ゆめ）見（み）た話（はな）しを聞（き）いて……夢（ゆめ）に気（き）づけた」

「そうか……レオにも夢（ゆめ）ができたんだ……どんな夢（ゆめ）なんだい?」

そう言（い）ってスティーヴはレオを見（み）つめた。またデフォー、ウィリアムもレオを見（み）つめる。

「そだな……俺（おれ）は…天使（てんし）になる」

　　　　　　「えっ!?!?!?!?!」

スティーヴ、ウィリアム、デフォー、の3人（にん）はレオの思（おも）いもよらない天使（てんし）になるという非現実的（ひげんじつてき）な夢（ゆめ）に、おもわず声（こえ）を揃（そろ）えて驚（おどろ）いてしまった。今（いま）まで天使（てんし）という存在（そんざい）を疎（うと）んでいたから尚更（なおさら）驚（おどろ）きだ。