第11話エルフの部屋その2

 「魔導士カールイ、これで戦う準備が出来ました。あなたと一戦交えるとは何よりも名誉な……」


 この貴族エルフには一番近くにいる俺は見えていないのだろうか?貴族にとって、只の平民は納税の義務を負った畜生と一緒って事か。


 「お前さんの相手は爺さんだけじゃないぜ」

 「………ん?」


 腰に備えた玄翁を取り出し、相手に向け挑発する。



 「魔導士カールイは隷属使いでもあったのでしょうか?それにしても程度の低い奴隷ですね。魔力も全く感じませんし……機会があれば私の質のいい奴隷も差し上げますよ」

 「儂は奴隷を従えるつもりは無い。こやつとは今協力関係にあるものじゃ」

 



 この世界にも奴隷制度はあるのか.………奴隷と言ったら全身褐色のダークエルフを思い浮かべる。

 エルフがいるんだからダークエルフもいるよな。

 ダークエルフを奴隷に従えるって夢だったりもする。


 異世界に来たんだからダークエルフは捨てがたい。

 ツンなハイエルフやロリフェイスな種族も良いが、やっぱり全身ムチムチなダークエルフだな。

 

 あの二人はスタイルや顔は十分すぎるくらいの美少女だが、足りないところが一部ある。

 何が足りないかは言わない。やはりダークエルフだ。


 異世界に対する期待と希望。

 それを叶えるためには目の前の敵を突破しなければならないのだ。

 モチベーションという内面的機動力をフルに稼働させる。


 やっぱり、亜人の女の子2人とお楽しみ会は、いつかやってみたい。

 奴隷制度があるなら甲斐性さえあればきっと可能だ。

 だから、こんな所で死ぬ訳にはいかない。

 泥水すすってまででも目指す目的のために。

 


俄然やる気が出てきた!



 「爺さん、前衛は俺がやる……後衛は任せた」


 まだ見ぬダークエルフの為に格好ぐらいつけても良いだろう。


 「うむ……こちらも複数詠唱の上で高速詠唱も行なっておる。必要な時は援護してやるが、なるべく粘ってくれ」


 え、うそ⁉『伝説』の魔導士って言うから相当強いのだろうと思っていたが、実は勝算はわからないのではないだろうか。


 黙って後ろでネフィルちゃんと、お話しして待っていればよかった。


 目の前のエルフの男はどこから出したのかわからない長剣を抜刀し構えている。

 長剣も光り輝き、何かしら加工してあるのだろう。


 「ふん......お主の魔力が無い事は分かっておる。魔法陣の解除が完了するまで時間を稼ぐのじゃ。それ以外にお主に求めるつもりは無い」


 俺の弱気を察してくれたのか、爺さんから補足が追加される。


 本当に大丈夫なのか?こっちは玄翁であっちは長剣に魔法……勝てるビジョンは見えない。


 一度致命傷を負った体がどこまで耐えるかもわからない不安が俺の中で循環する。

 ……やるしかないわな。


 「それではいかせてもらいます、魔導士カールイ!」


 どこまでも俺は貴族エルフに敵として認識されていない様だ。


 「こっちも無視するんじゃない!」


 一瞬で間合を詰めたエルフの男に玄翁を振りかざす。それをうまく避け一歩後退するエルフの男。


 「ふん……自身より格上の相手がいるのに怯まずに、立ち向かうとは奴隷としては上出来だ」

 「俺は奴隷じゃねえ!」


 俺はご主人様でありたい。


 その後も何発か玄翁をエルフの男の頭や顎、肘などの関節を狙うが全て躱されてしまう。


 全く当たらない。


 こんな身動きが取りづらい貴族服着ているくせに動きは繊細で最小限。

 今までの盗賊の素人な戦い方ではない。


 「うむ……悪くない動きだ。昔どこかの奴隷兵か何かだったのか?」

 「だから、奴隷じゃねぇ……まあいい。殺しを専門にやってたんだよ」

 「殺し屋か、また下衆な……」



 『あの男』を追いかけて殺すためだったのに、『あの男』以外も殺す必要がありその都度殺した。

 なのに、最後に内なる小さな自分が『あの男』を殺せずに終わったのだ。

 殺し屋としても説明不十分なのかもしれないが、これ以上話す義理はない。



 「なら……貴様を殺す事もまた正当性!」



 そう言ってエルフの男は長剣を振り下ろす。

 早すぎて斬撃が網膜に残る。

 生存本能と理性により間一髪で避ける事が出来たが、手に持っていた玄翁の先が切れている。


 「嘘だろ……鉄部分だぞ」



 持ち手や木でできた箇所ならわかるが、玄翁の先の鉄が綺麗な断面を見せ輝く。

 玄翁の表面は錆びだらけだったが、錆びの無いない部分は光沢すら確認できる。



 これも魔法の一種なのだろうか。

 鉄の硬度など魔法の前には紙の様なものなのだろう。

 魔法の凄さと恐ろしさを再確認した。


 背筋が凍り、汗が自然と垂れる。

 その汗が、鉄の断面にぶつかり腐食を進め、錆びを増やしていく。



 「よく避けた!だが、まだまだ!」 



 今まで斬る動作が次は突きに変わった。

 早い……突きを避けるだけではダメだ。

 突いた直後にその刀身は俺の胴を真っ二つにするように追ってくる。


 「『……』ストーン・ウォール!」


 刀身が俺の胴と拳一つ分の距離に届くタイミングで岩の壁が出現する。

 その岩ごと俺はエルフの男の剣によって薙ぎ払われた。

 重たい岩に潰されそうになるが、どうにかしてどかし体勢を整える。



 「爺さん、ありがとう……」

 「ミルヒルの方の方も苦戦しているようで、そっちに気を取られていた。すまぬの」

 「いや……十分に守ってもらえているよ」



 このストーン・ウォールが無かったら本当に危なかった。胴体を真っ二つって流石に死ぬかな?


 数歩下がって、距離を取る。

 玄翁一本でどうにかなるとは思えない。

 俺には、角含族の様な強靭な肉体も、カールイの様な魔法も、ミルヒルの様なズバ抜けた身体能力もない。

 おまけに何故か魔法の加護も受けられない。


 この世界では圧倒的に弱者な俺は、目の前の強者にどう立ち向かえば良いのか?


 弱者なら弱者なりに足掻くしかない。

 もう使えない玄翁を全力でエルフの男に投げつける。


 回転し軌跡を描きながら、エルフの男の右頬に触れる寸前、


 「リフレクト・アーマー!」


 エルフの男の体が光ったと思ったら、玄翁は速度を上げてこちらに飛んできた。

 俺の左ほほを擦り、天井に深く突き刺さる。


 「浅はかなり……我がリフレクト・アーマーはいかなる物質、魔法も跳ね返す……この魔力抑制魔法下では最強の鎧だ!」


 そんなのありかよ……ここで絶対防御魔法なんて。


 「そんなもん有るならさっさと出せば良かったじゃねえか……」


 強がってみるが、絶望的状況が増しただけだ。


 「貴様の様な弱きものに使う必要は無いと思っていたが、使わないのはもったい無いと思ってな!」


 そりゃ、エンターテイメントに飛んだ演出ありがとよ。





 

 

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