第7話二手
解体室で盗賊二人を行動不能にしたワタルは、盗賊二人を拘束して部屋の隅に移動させる。
殴り過ぎて、顔の原形を留めていなかった。
捕虜となっていた三人の目に届かないようにするための配慮だ。
現状と、これからの事について確認したかったので三対一の位置で向き合って座る
「えーと……なにから話せばいいのか……」
「ワタルさん……まずは服を着てください……その…見えてますよ」
ワタルは自分のイチモツを隠すことなく話を進めようとしていた。顔を赤くしたネフィルに注意されるまで忘れていた。
「じゃあ、盗賊から服を剥ぎ取るか……」
「それなら、私が取ってきますね……」
先ほど何もできなかったエルフの男は立ち上がり、男達を剥がしていく。
流石に女性二人のまえでパオーンさせる訳にはいかなかったのだろう。
盗賊たちの服は何Lサイズあるのかわからないぐらい、ワタルにとってはぶかぶかで獣臭かった。
このままではまたパオーンしてしまうので、近くにあった縄で腰と膝を絞めて服を固定する。
「オオミヤ・ワタルさん、先ほどは私たち兄妹及びネフィルさんの命を救っていただき感謝いたします。私は何もできずただ見ているだけでした……申し訳ありません」
「いや、いいですよ。あんな状況では普通そうなってしまいますし」
エルフの男の感謝と謝罪を受けて、彼の正当性をといた。
「ほら、マルヒルも彼にお礼を言いなさい」
「……助かったわ……」
最初から彼には差別的な態度を示していたエルフの女は顔を背けながらもお礼を言う。
そんな態度でもこれだけの美女にお礼を言われたら悪い気はしない。
エルフの男の方も負けず劣らずの美形だ。
やはり、エルフはみな美形揃いなのだろうか。
この異世界での邪な気持ちが膨れる。
ネフィルの純粋な喜びからくる笑顔に心なしかほっとする。
彼女の存在がワタルにとっての癒しになろうとしていた。
「時間もないので、これからの事について話し合いましょう」
エルフの男は話を切り替える。ワタルにとってはこちらを進めたい。
突然意識もなく連れてこられたワタルと違って、彼女たちはアジトの地形を一部理解していた。
先ほどの若い男の発言から、出口まで苦労せずに行けるだろう。
「あの……私は、脱出する前にしておかなければならない事があるんですけど……」
しかし、脱出する事に待ったをかけた者がいた。
ネフィルである。
その様子はどこか弱々しく、後ろめたさがある表情であった。
「どうした……何か奪われた物でもあるのか?」
「いえ、そうでは無いのですが……魔力抑制魔法を解除しないと被害が別の所で起きるかもしれません」
「そこまで、お前がする必要があるのか?」
ネフィルは何か隠している。
挙動不審なところが目立つ。
「……今回の魔力抑制魔法の魔法陣を作成したのが私なんです……」
(それって完全に主犯だよね?変な事に巻き込まれ始めてるな……)
「ネフィル、あなたは悪くないわよ!あなただって被害者なんだから」
罪の意識からか今にも泣きだしそうなネフィルを擁護するエルフの女。
「すまないが、詳しく話を聞かせてくれないか?俺はそっちの事件とは別で捕虜になったから、話が掴めない」
「わかりました……私はシエール王国のシエール大学の学生だったんですけど、研究の一環でエルフの里の魔獣の生態調査をする予定でした。そこで、魔獣の魔力を抑える魔法陣を作ってほしいと教授に頼まれたのですが……」
(あー、少し話が見えてきた)
些細な勘違いを起こさないように最後まで聞くことにしたワタルは、顔をしかめる。
「その教授が盗賊と繋がっていまして、渡した魔法陣がエルフ用に書き換えられてしまったのです。エルフでも抑制できる程の魔法陣です。他の種族では太刀打ちできるはずがありません。ですから、作成した張本人である私が魔法陣を解除しなくてはならないと思ったんです」
話を聞く限り、一般人のエルフ兄妹が巻き込まれているあたり無差別テロの片棒担がされてしまったようだ。
作った張本人が責任感から放置することもできないのだろう。
「ここで解除しておかなくては、同じような第二第三の被害が出てします」
共犯が国外の者なら国際問題に発展しかけない。
「だが、その魔法陣の居場所はわかるのか?」
「はい、今私たちが魔法を使えていない事を考えるとアジト内に有ると思います」
「そんな大事なものなら、倉庫とかじゃなくリーダーの部屋にでも保管されてそうだな」
「それか盗賊と結託していたエルフが持っているかです」
先程、男二人が言っていた『キ○ガイエルフ』の事だろう。
「助けを呼んでからじゃダメなのか?」
「おそらく、盗賊はこのアジトに長居はしないと思います。もし、魔法陣が別の組織に渡ったら更に対応が難しくなると思います」
「なるほど……」
ワタルにとっては正直どうなろうが関係ない。
しかし、このまま逃げても後味が悪いし、ネフィル一人でも実行しそうな勢いがある。
この異世界を生きる中で彼女がいなくなるのは自分自身の身が心配である。
「俺は、別にお前さんに付き合っても良いが……」
「本当ですか……!」
ネフィルの表情が少し明るくなる。
一人で実行する可能性を考えていたのだろう。不安に飲み込まれそうになっていた時の小さな救いだ。
「そっちのエルフ二人はどうする?」
指名されたエルフは少し視線を逸らし考える。
「私はネフィルの為なら、構わないわ」
「……私は、直ぐに脱出して兵士の方に助けを求めた方が良いと思います」
エルフの女の方はネフィルとの友情で動くが、妹守りたいエルフの男は危険を冒すことを躊躇う。
この様子を見るとエルフの男は戦力入れない方が良いだろう。
「じゃあ、こうしよう。俺とネフィルは魔法陣の解除をして、あんたら兄妹は魔法陣の効果外まで行って救助の要請をしてくれ」
「そんな……ネフィルを今出会ったばかりのあなたに任せろっていうの?」
「あんたらは、兵役なんかで対人戦の経験はあるのか?」
「うっ……それは……でも、魔法さえ使えればあんな獣人怖くないわ」
端で意識を失っている二人を指さし強調する。
「だが、あんたはこの状況で魔法使えないだろう?」
「それはそうだけど……」
「それか、魔法陣の解除ができるのか?」
「それは、無理です。私が作った魔法陣は一般人では解除できるものでないと思います。それが、魔法が得意なエルフ族であっても」
ネフィルは自信ありげな顔でワタルを助ける。
大学の教授が任せるだけの物なのだから当たり前である。
だが、そんな大したものを作ってしまうとは、ネフィルは実は天才なのではないだろうか。
「という事だ。救助の要請も大事な役目の一つだぜ」
正直、戦闘慣れしていない者を二人も抱えて動くのは面倒だ。
「……わかったわ。けれど、ネフィルに何かあったら絶対に許さないから」
「わかっている。本当にまずい時はこの子を抱えてでも逃げる」
なぜ、ワタルに対するエルフの女の評価はここまで低いのだろうか?
黒髪に対する差別的思考は深く彼女に根付いているのだろう。
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