第2話不明空間


 大宮渉オオミヤワタルは幽かな夢を見た。



 無味無臭、感覚すら感じない。

 ガラス窓に霧を吹きかけたように視界が曖昧な白い空間。


 立っているか座っているかすらわからない。

 まず身体があるのか?

 概念だけが存在するような空間だ。


 そんな形容しがたい空間に可視化して存在する謎の女が二人。


 いつの時代の服装だろうか?


 中世のヨーロッパの娼婦のような肌の露出の高い服装とは相対的に長いハットと一枚で全身を覆い隠せそうなマント。


 扇情的な格好に性欲すら刺激されないのは何故だろうか?


 一人は褐色肌で自分以外の存在を否定するような鋭い目つき。どこか男勝りな雰囲気で包まれる。


 もう一方は、白い肌に低身長であるが出るところは出ている。


 褐色肌の女と比べて博愛に満ちた表情は濁ったマサルの心を癒すようだ。



 近くに居るようで遠い存在。

 だが、神と形容するには冒涜的すぎた。もし、彼女らを呼ぶなら【黒と白の魔女】だろう。



 「なぜ、俺はここにいる?」



 二人の口は開かない。表情すら動くことはない。ただ、じっとマサルを見続ける。


 『会話』をしない二人から感じるのだ。


 なにかを要求している。『会話』は交流の基本だ。


 彼女たちにとって『会話』以外の方法で『対話』をしているのだ。


 言語で『対話』を図る社会性の人間にとってこのやり取りは物悲しく儚い。


 身体か?魂か?

 会話のない精神の『対話』が続く。

 全てを失った彼に残されたものは無いのか?いや、有る。


 「そうか……なら、血でも涙でも持っていけ」


 黒の魔女はワタルの心臓位置に触り、見えない何かを取り出す。


 一方、白い魔女はワタルの目に触れるが何も取らなかった。



 これが彼女たちにとっての精神の『対話』なのだ。

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