愛の右側のラクダ

 夕日が落ちる方角の、山の向こうがえんぴつ峠。

 あるかどうかも疑わしいが、風の噂じゃお寺がひとつ。

 ラクダの坊主がいるそうな。

 峠も半ばの曲がり角、ラクダの坊主の言うことにゃ、愛が情には萎えたという。


 「情を見限る愛はどこ行く?」

 足元置かれた深編笠の、中身は空か生首か。

 埃にまみれた赤目のラクダは、よだれ垂らした笑顔と共に、道行く者へと投げかける。

 「正午ちょうどのこの太陽を、つぎはぎこさえたペルソナを、愛ではないなどどう確かめる?」

 爪が食い込む拳を掲げ、流れる赤をグラスに注ぐ。

 「綺麗なものの全てが愛か?羞恥の果てには愛は不在か?」

 ぶらりと長いイチモツさらし、黄色いしょんべんグラスに注ぐ。

 「もはや愛は、情には萎えた」

 ブチリと睾丸引きちぎり、グラスの上にポチョンと落とす。

 溢れんばかりの白泡に、ふつふつ流れるラクダの涙が

 顔の埃を綺麗にまとい、てんてんてんと黒が付く。


 朱色の影に膝付くラクダの、手元が握ったレッドアイ。

 ごろりと転がる深編笠の、中から見つめる目玉は二つ。


 「情を見限る愛はどこ行く?」


 元旦晴天お昼時。

 そんなラクダがいたそうな。

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