第4話 初体験

 昼休み、俺はスマホの電源を入れた。

 何と言うか、物凄い数の反応にびっくりしてしまった。


 例のツーショット写真を投稿したツイートに、いいねが185件。リツイートが88件。リプライ(返信)が25件ほど。


 殆どうちの学校関係者だと思うのだが、こんなに盛り上がっているのはもちろん初体験である。こういうのを『バズっている』というのだろうか。リプライを見ると、「おめでとう」「良かったね」といった祝福のものから、「お前には似合わね。すぐに別れろ」とか「氏ね」とかの否定的なものまで様々であった。どちらかというと否定的なものが多い気がする。それならばこれは炎上というやつか。


「むむむ。なんか失礼な人多いね。信じられない」

「そうだな。そういう荒らしみたいな奴は相手しちゃダメなんだ。放置が一番だってさ」

「反応すればするほど喜ぶんだよね。性質たちが悪い」

「そうらしいよ」


 まあ、ほとんどぼっちの俺にかまってくる奴はごく少数だったし、そんなネット上でのマナーの悪い奴に対処したこともない。こんな炎上に対し以前の俺なら泡食ってあたふたして、否定的な意見には必死に抵抗して物凄い労力を使ったのだと思う。しかし、今は由美が傍にいることで得られる安心感からか、ネット上での悪口は全く気にならなかった。


「俺たちの関係に嫉妬してるんだ。放置が一番だよ」

「そうだよね」


 そんな風に軽く受け流せる自分に対して驚いていた。


 放課後由美と買い物に行った。わずかな食糧と日用品。由美のマグカップや箸などを買いそろえた。お金に余裕はなかったけど、必要だから惜しまない。そこから俺にとっては幸福な、いや、多分どんな奴でも幸福な愛しい彼女との同棲生活が始まったんだ。


 まるで新婚夫婦のような生活。

 朝起きてから学校へ行き、部屋に戻ってから語り合う。

 いつも一緒、常に一緒、片時も離れない。


 そんな理想の恋人関係だった。


 しかし、疑問はあった。

 由美の家はどこなのだろうか。

 両親はどんな人?


 学校に通っていたなら、そういった家庭の情報があると思うのだけれども、自分には見つけることができなかった。

 

 由美の正体は謎。

 しかし、自分にとっては理想の恋人。


 それでいいじゃないかと自分に言い聞かせた。


 PCを起動してメールソフトを開く。

 いくつかの広告メールの間に運営からの返事を見つけた。早速開いてみる。


 概ね定型文だと思うが担当者の名前が記載してあった。原因は不明だが可能な限りデータの復帰をするので一週間程度時間が欲しいとの事。真面目に対応してくれていると感じる文面に一安心する。俺は「お手数をおかけして申し訳ありません。よろしくお願いします」と返信しておいた。


 程なく学校は夏休みとなったのだが、俺は補習授業を受けに学校へと行く。うちの学校は夏休み期間中も無料で補習授業を行っている。もちろん俺は強制的に受講させられているのだ。昨年は憂鬱だったこの補習授業も、今年は物凄く楽しいイベントになっていた。由美が一緒だからだ。


 由美は少し勉強が遅れている様子だった。

 俺は本当に手取り足取り、由美に教えた。午後は図書館に行って二人で勉強したりした。遊びに行ったりはしなかったのだが、それでも十分に楽しかった。


 これ以上ないほど充実した夏休みが始まった。

 そんな高揚感が俺の心を満たしていた。


 そして、由美が来て6日目の夜。

 何時ものように食事をして入浴を済ませ、TVを見ておしゃべりをしてそして就寝する。

 俺は床に布団を敷き横になった。ベッドは由美専用にしている。


 すると由美が話しかけてきた。


「ねえ。明彦。こっちに来てよ」


 俺は返事ができずに固まっていた。心臓は激しく鼓動し、頭に血が上って顔面は真っ赤になっているに違いない。


「ねえ。明彦。聞いてる?」


「聞いてる」


 やっと返事ができた。しかし、体は動かない。


「一緒に寝ようよ。ねっ」


 更に語りかけてくる由美。動悸は最高潮になり、もう心臓が破裂するんじゃないかってくらいに高鳴っていた。


 由美が誘っている。


 ここはやはり男らしく応えてやるべきだろうか。


 ここ数日、同棲生活のようなことをしていた。しかし、肉体関係はなかった。キスもしていない。初っ端に胸を揉んでから、由美の体に触れてもいない。


 それでも幸せだった。

 しかし、性の欲求は消えない事も自覚していた。


 俺は起き上がり由美を見つめた。

 彼女も俺の方を見て微笑んでいた。


「お願い。今夜しかないの」


 そう懇願され俺はベッドへと上がった。そして由美と抱き合う。


 今夜しかない?


 意味が分からなかった。自分たちの関係は永遠に続くものだと思っていたからだ。明日、生理でも来るのだろうか。そんなバカな事を少しだけ考えた。


 唇を重ね、由美の体をまさぐる。

 柔らかく弾力のある腰から尻を撫でる。反対の手で胸を撫で、Tシャツの下にもぐりこませて直接胸を撫でる。由美の乳首は盛り上がってその存在を主張していた。


 その乳首を弄びながら舌を絡ませたディープキスを試みる。何だか良く分からない快感が体中を駆け巡る。キスだけでこんなに気持ちがいいなんて知らなかった。俺は夢中で由美とのキスを堪能していた。


「ねえ。もっとしようよ」


 唇を離して由美がねだる。俺はその言葉に頷いた。

 多分「最後までしよう」って意味だと思う。


 俺は着ているものを全て脱いだ。由美も自分で裸になった。

 俺たちは再び抱き合って性の快楽を味わった。


 二人とも初めての経験だった。

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