かぼちゃ祭り その壱

明日はハロウィン!

思いつきの走り書き。

頭をからっぽにしてどうぞ!



 * * * * *



 十月も終わり頃。

 今日の非番は土方さんも外出していないので、一人炬燵でぬくぬくと温まっていたら沖田さんがやって来た。


「春くん、甘味屋でも行きませんか~?」

「行きますっ!」


 名残惜しいけれど炬燵に別れを告げて立ち上がるも、そういえば……と、ふと気づいた。


「もうすぐハロウィン……」

「はろ……なんです?」

「あっ、えーっと……かぼちゃ祭り?」

「聞き返されても?」


 確かに……。

 って、横文字を誤魔化すためとはいえ、なんだ“かぼちゃ祭り”って……。


「……えっとですね、私の故郷のお祭りで、十月三十一日にみんなで仮装したりするんです」


 咄嗟に付け加えるも、端折り過ぎたのがいけなかったのか、沖田さんにかわいそうなものでも見るような目で頭をなでられた。


「春くん、大の月は三十日までしかないですよ?」

「あっ……」


 沖田さんめっ!

 どうせまた記憶がないせいだと思われているに違いない。なんだかちょっと癪で、簡単にだけれど説明を足してみた。

 十月のに秋の収穫を祝い、みんなで仮装したりして楽しむお祭りなのだと。


 面白そうですね、と頷きながら聞いていた沖田さんが、手をポンっと打ち鳴らした。


「それじゃあ、僕が適当に声掛けてくるんで、あとで仮装して広間に集まりましょう」

「はい!」


 とはいったものの、ハロウィン……通じたのかなぁ……?




 手の込んだ仮装はなかなか難しいので、墨で目と口を描いた白い布を頭からすっぽりとかぶり、簡単なお化けに変装してみた。

 かぼちゃ祭りなんて言った手前、台所から拝借してきた緑色のかぼちゃでジャック・オー・ランタンも作ってみた。


 さっそくランタンに蝋燭の火を灯し、すでに賑やかな声が漏れる広間へと入っていくも、飛んでもないものが目に飛び込んできた……。


「何で野菜……」


 白い布をぐるぐると身体に巻き付け、頭には茎付きの葉っぱを鉢巻きの間に何本もさしていて……たぶんだけれど……。


「大根……?」

「どうだ、なかなかいいできだろう」


 そう得意気に振り返ったのは、永倉さんだった。

 同じように隣で頭に葉っぱを生やし、オレンジ色の布を纏った小柄な人参と、緑色の布に足先から頭頂までぐるぐると巻かれた長身の人……おそらくきゅうりが振り返った。


「新八さんと色違いみたいになっちゃったけど、オレは人参だからね」

「あ、はい……。ですよね」


 藤堂さんだった。

 まぁ、大根も人参も顔が見えているしね。

 問題は……。


「きゅうり……? 誰ですか?」

「俺だよ俺!」

「だから誰ですか……って、まさか原田さんですか!?」

「おう!」


 なるほど、長身をいかしたぴったりなコスプレ!

 ……いや、揃いも揃って何で野菜!?


 ふいに、後ろから肩を叩かれ振り返れば、沖田さん……もとい葉っぱをもがれた赤い人参と目が合った。


「沖田さんまで……何でみんな野菜なんですか……」

「収穫を祝うお祭りと言ったのは春くんじゃないですか~」

「そりゃ、まぁ……確かに言いましたけど……」

「春くんだって大根……いや、かぶ? の格好してるじゃないですか~」


 待って。大根でも蕪でもないよ!?

 そんな私の心の突っ込みはお構い無しに、きゅうりまで言い放つ。


「かぼちゃ祭りなんだろ? かぼちゃの提灯ってのは面白いが、何で顔みたいになってんだ?」

「提灯……って、原田さん前見えてるんですね……」

「おう。一応、透けて見えてるからな!」


 そうなんだ。まぁ、怪我だけはしないでいただきたい。


「じゃあ、この蕪の模様もやっぱり顔だったんだね? アンタってホント面白い」


 藤堂さんまで!

 人参の格好で爆笑するとか、そっちの方が面白いから!


「あのですね、蕪じゃなくてお化けですからねっ!」


 一斉に不満まじりの驚きの声をあげる野菜たちに説明する。

 収穫を祝うお祭りであると同時に、悪霊を追い払う意味もあるのだと。

 すると大根が、なるほど、と頷いた。


「毒を以て毒を制する、か」


 さすがは永倉さん。なんと理知的な解釈。

 うん、もうなんでもいいや……。

 開き直って笑いすらこぼれれば、沖田さんが微笑んだ。


「ところで春くん。僕のこと何かわかってます?」

「人参ですよね?」

「何言ってるんです。唐辛子ですよ~」

「どっちにしろ野菜!」


 ハロウィンどこいった!


 訊けば、この時代にも収穫を祝うお祭りがあるらしい。

 こんな風に野菜に仮装するだけでなく、時には魚やタコの姿になる人もいるのだとか……。

 どんなお祭りよ!

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