第6話 (レン)

 奥の部屋に引っ込むと、シュウはすぐに僕の胸ぐらを掴んだ。

 彼の私室は、彼が錬金術師だった頃の名残を色濃く残している。戸棚には資料の書物がたくさん並び、埃をかぶってはいるけれど、鍋やガラス瓶や火箸などの道具も残っている。

「ちょっとあの子のことについて詳しく教えてもらおうか」

「ああ、やっぱり君もそう思う? 似てるよね」

 ミライはなぜだか、出ていった弟子のミュウによく似ていた。僕は、そういう設計は一切していない。でも、偶然にしてはできすぎている。

「出てったって聞いてるけど、まさか材料にしてないだろうな。もしそうだったら、俺はお前を許さない。ヴィクター。頼む、正直に言ってくれ」

「やめてくれよその呼び方。いつもみたいに親しみを込めてレンって呼んで欲しいな」

 ミュウは、シュウの妹だ。どうやら錬金術の才能があるらしいからと、彼が僕に預けた。出て行ってしまって行方が分からないと告げた時には、それはもう激怒されたものだ。

「話をそらすなよ」

「ごめん。そういうつもりじゃないんだ。誓って言うけど、僕が君の宝物に手を出すはずがない」

「お前は俺を恨んでないのか。お前が異端呼ばわりされてるの、ほぼ俺のせいだろ」

「まさか。君の方こそ僕を恨まないのか。君が錬金術師をやめたのは僕のせいだろう」

 シュウは、おずおずと僕の胸ぐらから手を離して、「疑って悪かった」と呟いた。

「それで、なんの話がしたかったんだ? 要件はこれだけじゃないだろ?」

「うん。君に頼みがある。僕が死んだあと、もしかしたらホムンクルスたちが君を頼ってここに来るかもしれない。その時は、受け入れてやってくれないだろうか。危ない橋なのは、わかっているけど」

 そして僕は、彼がこの頼みを断らないこともわかっている。ずるいことをしていると思う。少し考えはしたものの、シュウは案の定首を縦に振った。

「たち、って言うと、彼も?」

「うん。元気だといいけど」

 僕たちが戻ると、ミライはパッと本から顔を上げて、嬉しそうに駆け寄ってきた。顔を見せただけでここまで喜ばれると、なんだか居心地が悪い。

「お話終わった?」

「うん。待たせてごめんね。買い物に行こうか。市場で買い物してみたいだろう?」

「する!」

 多分、彼女はこの先苦労することになる。今くらいは、心穏やかでいてくれるといいのだけど。

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