「戦術行動③ 包囲・前編」

——包囲の概念——


 包囲は敵の側面や後背など、複数の方向ら攻撃を加える戦術だ。全校生徒での集団行動を想像してもらえるとわかりやすいが、他の集団と連携して、迅速かつ正確に敵の側面へ起動するのは大変に難しい。よって実行には指揮官の高い実力と兵の練度が求められる。

 包囲は古代からいたるところの戦場で行われてきた戦術だが、基本形が確立したのは「戦術の父」ことハンニバル・バルカだ。カンナエの戦いに代表される彼の芸術的な包囲戦術はローマ軍に受け継がれ、世界各地へ波及した。現代まで試行錯誤や研究が重ねられ、新兵器や新技術を利用した様々な規模での包囲が行われている。


米軍野戦教本 FM 3-90 Tacticsには以下のように記述されている。

「包囲とは、敵現在位置において撃滅するために、敵軍の側面を目標として追い求めることによって攻撃部隊が敵防御の主体を回避することにつとめる運動の1つである」


 包囲は多くの場合正面攻撃や迂回といった機動と同時に行われるため、他の戦術、特に正面攻撃への精通が必須だ。敵を正面攻撃で拘束し、別働隊で包囲に持ち込むのが常道の戦術である。


——包囲の分類①——


 包囲には大きく三つの種類がある。敵の片側側面をつく一翼包囲、敵の両側面をつく両翼包囲、敵の前方を囲い込む完全包囲だ。

 最も頻繁に見られるのは一翼包囲だ。最も扱いやすく、敵を殲滅こそ難しいかもしれないが確実性が高い。

 両翼包囲は敵へのより大きな損害や、完全包囲に持ち込める可能性がある。しかし戦力が両翼に分散するため一翼包囲に比べて扱いにくい。

 完全包囲は敵の全方位を取り囲んでの攻撃で、そ 最も難易度が高く、完成したとしても戦力が分散し突破される恐れがあるリスクの高い戦術だ。しかし上手くハマればハンニバルによるカンナエの戦いのように敵を文字通り殲滅することができるし、わざと包囲陣に穴を開け、逃げ出した敵を追撃出来れば損害少なく敵を減らすことも可能となる。


 また近代に入ってから立体包囲というものも現れた。その名の通り三次元的な包囲で、多くの場合航空戦力による支援を意味する。地上攻撃と上手く連携が取れれば通常の包囲と同等以上の損害を与えられるが、くれぐれも同士討ちには注意しなければならない。


——包囲の効果——



 包囲はされた側とした側で様々な影響が現れる。

 まず包囲下に置かれた場合。


①多方面に戦力の分散を迫られる。


 側面に新たな前線を構築し、なおかつ反撃しなければならない。戦闘正面は外側に開くため隣の友軍と同一の目標を攻撃することも難しい。


②多くの場合士気に悪影響を及ぼす。


 敵に包囲されているという精神的圧力は、味方に降伏という選択肢をチラつかせる。特に完全包囲されている場合、明らかに罠だとしても包囲陣に穴が開いたらそこから逃げ出してしまいかねない。ただしよく訓練された場合や、降伏が許されない状況下では『窮鼠猫を噛む』の通り士気が上がる場合もある。


③過密状態になって軍事機能が麻痺する。


 カンナエでカルタゴ軍に包囲されたローマ軍は、おしくらまんじゅうのように密集してまともに戦えない状況の中、周辺から皮を剥くように虐殺されていった。あまりに密集した状況では指揮も出来ない。



③敵に後方へ進まれる可能性がある。


 完全包囲下にある場合は当たり前としても、敵包囲に対処するために予備(非常時のための部隊)を消費し、戦力が飽和状態になってしまえば戦略的に拘束されてしまう。


④機動できる余裕がなくなる。


 包囲下に置かれた指揮官が必ず悩むのは、友軍を機動させるスペースの不足だ。突破するために友軍を集結するにしても、後方から大回りで敵の側背をつくにしても、包囲下だと味方が動くことのできる場所が足りなくなってしまう。戦術的な柔軟性が失われてしまうのだ。


⑤補給・増援が妨害される


 完全包囲されている状態なら当然だが、側背を攻撃されている場合でも、側面に敵がいる時点で補給線の安全性が確保できない。



 続いて包囲する側に現れる影響だ。


①当初は戦力が分散する。


 包囲するということは前線が伸びるため、厚みが減り突破されやすくなる。しかし一度攻撃側になれれば包囲効果による火力集中が期待できるため問題は小さくなる。


②遊兵が最低限となる。


 包囲すると前線が伸びるため、戦わない兵士を減らすことができ、火力が増大する。


③士気に余裕ができる。


 敵を包囲した時点で敗北への恐怖が薄れ、士気が上がる。


④敵の弱点をつける。


 翼側や側面、背面への攻撃は損害少なく敵を破砕できる。


⑤ 兵力優位が生まれる。


 たとえ劣勢であろうと、包囲している以上は前面、局所において兵力で優勢になる。

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