「古代の戦略考察① ヒッタイト」〜鉄器の帝国〜

「古代の戦略考察① ヒッタイトの地政学」


——ヒッタイトの地政学——


 ヒッタイト王国(帝国)が存在してきたのは現代でいうトルコ、アナトリア半島である。ここは小アジアとも呼ばれ、古代の人々にとってアジアといえばこの地域だけだった。

ではアナトリア半島の地理から考えて、「紀元前14世紀に最盛期を迎える鉄器の帝国」ことヒッタイトは、どのような戦略をとっていたのだろう。


 アナトリア半島の地理的特徴は、だいたい以下の四点に集約される。



・山がちで、大部分が高所である。


 ヒッタイトの土地の多くは1000から2000メートル級の山々だ。この山々は他国や異民族による直接の侵入を阻み、豊かな水源をもたらした。しかし移動が困難なため交易や経済の中心とはなり得なかった。

だからヒッタイトの戦略の主眼は防衛ではなく、侵攻であったと考えられる。自国の防衛はそれほど難しいものではなかったからだ。



・中央と南東部をはじめ、比較的き肥沃な(作物が良く取れる)土地が広がっている。


 比較的土壌が肥沃だったのも、ヒッタイトの繁栄に大きな影響を及ぼした。肥沃な土地から多くの作物が生産されることで、余剰食料を抱えることになり、農業以外のことをする余裕が生まれた。これが分業制度に繋がり、鉄器をはじめとする技術の発明に繋がった可能性がある。

例えばヒッタイトで扱われた三人乗りの戦車(チャリオット)は、より頑強な馬を育成する専門の技術と、育成の時間が必要だった。農業生産に追われていては難しかっただろう。

また増えた食料は同時に人口の増加をもたらし、鉄器、戦車(チャリオット)と共にヒッタイトの軍事力を支えた。


高まった軍事力は海外への野心へとつながる。ヒッタイトの戦略が侵攻に主軸を置いたものだったという考察は、これらのことが主要な根拠だ。



・ヨーロッパとの間にボスポラス海峡とダータルネス海峡がある。


 ボスポラス、ダータルネスの両海峡はヨーロッパからの異民族の侵入を防ぐことが出来た。おかげでヒッタイトは東、南方に警戒を集中することが出来たのである。(とはいえヒッタイトの領域は海峡にまで達していなかったため、この条件は大して問題ない)



・半島である。


 半島とは、敵による陸路からの侵攻が一方向に絞られるということを意味する。この場合は挟撃されることはなく守りやすい。

しかし海岸を取られてしまえば、領土的縦深が浅く簡単に分断されてしまう。よって海に対する防護が大切になってくる。

とはいえこれも、ヒッタイトはアナトリア半島を統一したわけではないので深く考えは必要はない。

 


 ヒッタイトは山がちで肥沃、しかし交易が難しいという、他国へ侵略するには十分な理由と実力を備えた国だった。

交易による利益を享受するため、ヒッタイトはシリアやメソポタミアへと侵攻を繰り返したのである。



——ヒッタイトの戦略——


 かつてのオリエントで最も交易が活発だったのは、現代のシリアからイラクにかけての「肥沃な三日月地帯」だった。

ヒッタイトの首都ハットゥシャ(世界遺産)は豊かだが海抜1000メートルの高所にあり、貴重な品々を生み出す文明が存在するイラン、メソポタミア(イラク)、シリア、カナン(イスラエル/パレスチナ)、エジプト等から大きく離れていた(現トルコの首都アンカラから東北東145キロ)。


 ヒッタイトは交易による利益を求め、シリアやメソポタミアの勢力と争うことになる。

相手は平地の国家で、こちらは山岳国家だ。古バビロニアやミタンニなどを滅亡、制圧させてこられた理由には、地理的な有利が働いていたことだろう。


 ヒッタイトの基本戦略は要約すると、『交易の利益を求めてシリア、メソポタミアに進出する』ことだ。


 そしてヒッタイトと激戦を繰り広げることとなるエジプトもまた、目的と経緯は違えど『シリア、メソポタミアへの進出』を基本戦略としていた。

 これが正確な文献が残る人類最古の戦い、「カデシュの」戦いへと発展していくことになる。

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