「古代の戦術② ファランクス」〜密集隊形と重点の形成〜

「古代の戦術② ファランクス」

 

 ——ファランクス戦術——

 

 古代オリエントにおいて方陣戦術が発明されてからというもの。都市国家ポリスが乱立する古代ギリシアにも独自の方陣戦術が誕生した。

 それこそ一度は聞いたことがあるだろうギリシャ『ファランクス』である。

 当時のギリシャには騎兵はなく、軽装歩兵と重装歩兵の方陣、ファランクスで構成されていた。ファランクスは兜や鎧をつけた兵士が、右手に槍、左手に大楯(左隣の人を守れるサイズ)を持って並ぶだけの簡単な隊形である。しかし一斉に槍を振り下ろしたり、突き刺したりした時の威力は絶大であり、ファランクス以外でファランクスを止めるのは難しかった。弱点は重装備かつ密集しているので速度が遅いことと、盾で守られない一番右側、そして側面と背面である。そのため背後や側面を突かれやすい平原での戦闘には向かず、ギリシャの山がちな地形ならではの陣形と言えただろう。

 

 ——ペルシア戦争——

 

 このファランクスはペルシアの諸兵科連合部隊との戦いで真価を発揮した。紀元前499年から紀元前449年まで続いた【ペルシア戦争】は、「世界中のすべての人々を従えてアケメネス朝の神がやってきた」と呼ばれるほどの数十万の大軍を備えたペルシア軍を、ギリシャ軍は【マラトン】【プラタイア】で撃破し、【テルモピュライ】では僅かなスパルタ(ギリシャの都市国家)軍が全滅しながらもペルシア軍に大損害を与え、後の撤退へと追い込ませた。

 この原因としてまず、重装備のギリシアポリス連合軍に対して、ペルシア諸兵科連合軍の弓や投石の効果が低かったこと。

山岳地形で隘路が多く、大軍を活かしきれなかったこと。そしてファランクスに対抗できる部隊がおらず、正面からの戦いではどうしても劣勢に立たされたことだ。ペルシアがギリシャ軍に勝る点はただ一点、数であった。これを活かす戦いができなかつまた以上、上手く勝利することが出来なかったのだろう。

 また海上においてもペルシア軍は【サラミスの海戦】で大敗を喫する。ペルシア軍の補給は海上の島々を通して行われてきたため、海戦での敗北はすなわち補給の不安定化を表していた。サラミスの海戦での勝利はアテネの優れた操船技術と戦術によるところが大きく、陸上においては、ファランクス陣形の圧倒的な強さが証明される形となった。

 

 ——ギリシャの戦乱——

 

 しかしペルシア戦争の後ギリシャは二つのポリス連合に分かれての戦乱が続くこととなる。この中で活躍した『エパメイノンダス』による『斜線陣』は、歴史上始めて「重点を形成した」ということで現代戦略にも繋がる重要な意味があった。    当時のギリシャで最強と呼ばれたスパルタ軍を中心としたペロポネソス同盟と、テーベを中心としたボイオティア同盟軍の戦いが【レウクトラ】で行われた。戦力批判ペロポネソス側は歩兵一万に騎兵百、ボイオテォア同盟側は歩兵六千に騎兵六百である。誰がどう考えてもペロポネソス同盟側が有利だったが、ボイオテォア同盟軍の司令官だったエパメイノンダスは「戦力を敵のスパルタ軍と相対する左翼に集中させた」。まず騎兵の全てと、同性愛者で編成された当時のボイオテォア同盟最高戦力の神聖隊を集めた。そしてファランクスの列数、つまり体育の並びでいう前から後ろまでの列数を増やした。具体的には普通のファランクスが縦八列から十二列だったのに対し、縦五十列も並べたのだ。しかしそのかわり、戦力を引き抜いた中央や右翼は遥かに脆弱になってしまう。

 いざ戦いが始まると、エパメイノンダスはわざと強化した左翼から順々に前進させ、陣形を斜めにする。そして圧倒的戦力で敵の最精鋭部隊であるスパルタを破った。このときのボイオテォア同盟軍は歴史上始めて明確な戦力の『重点』を形成したと呼ばれ、戦術の基本の一つとして万国の戦術教範になることとなった。

 ペロポネソス同盟側は最精鋭だったスパルタ軍が敗走したことに士気(戦意)を崩壊させ、この戦いはボイオテォア同盟軍の勝利で終わる。

 

 このギリシャでの戦乱は、北方のマケドニアが伸長するという結果をもたらした。そして古代最強の陣形ファランクスは、さらなる発展を遂げることとなる。

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