実妹を愛するあまり男装して付き合うことにしました

まかろに

第1話 妹のデート相手


私には、絶対に人に知られてはいけない秘密が2つある。

1つは実の妹に好意を寄せていること。好意と言っても姉妹的な意味ではなく。恋人になりたい、とか、キスしたい、とかそういった意味で、である。

もう1つは、その妹が好意を寄せているのが男装した実の姉である私、ということ。

……どういうことかと首を傾げているのではないだろうか。


少し順を追って説明しよう。

これは、この世で最も妹を愛している私、愛恵みさとが妹の美愛みちかを他の誰にも渡さない為の物語―――



「わーっ!!」

目をキラキラと輝かせ、膝丈まであるストライプワンピースを着た妹、美愛みちかは鏡の前でキラキラと目を輝かせている。

「えへへ、いい生地手に入ったから作ってみたんだ、気に入ってくれてよか「もう最っ高だよお姉ちゃん!!」

ずいっと顔を近づけ、キラキラとした目で私を見つめる美愛。

「ん゛っ」

あまりの眩さに、わたしは思わず言葉にならない声を上げてしまう。

「そ、そんなに気に入ってくれたなら、私も作ったかいがあったよー、よく似合っててかわいい」

「え、えへへ。そうかな」

照れ笑いを浮かべながら、くるりと一回転し

「ありがとう、お姉ちゃん」

そう言ってにっこりと笑った。

私は思わず心臓を抑える。

「お姉ちゃんせっかく服作れるんだからさ、もっとおしゃれしたらいいのに。せっかく背も高くて美人なのに」

「いやいや、私は服作るのが好きなだけだし、てか美人じゃ無いし…」

美愛の背後にある鏡を見てため息を漏らす。

こんな背が高いだけの地味な私が、ワンピースなんか着ても美愛のようにきらきら、いきいきした表情にはならないだろう。

「ちぇーつまんないのー絶対似合うのに」

むーっと頬をふくらませ、ベットに腰掛けていた私の横に座る美愛。

あまりの距離にバクバクと心臓が音をたてているのが分かる。美愛には聞こえていないだろうか。

あー、まつ毛も長いし、肌も白い…ふくれっ面でもこの可愛さとか…最早犯罪級なのでは…?

あー、我が妹ながらどうしてこんなに可愛いんだろ…

「…ちゃん…?もーっ!話聞いてた!?」

「ぅえ!?」

気づくと、美愛の顔は私の目前にあった。距離はわずか数センチ。

「え!?なに、ごめん!聞いてなかった!」

あまりの近さに思わず距離を取る。

「もーっ、教えてあげないんだから!」

そう言ってベットから立ち上がると足早に部屋を出ていこうとする美愛。

「ごめんって!なんて言ったの!?」

慌てて背後から声をかける。

「お姉ちゃんが一人暮らし初めなくて良かったって言ったの!」

べっと舌を出しながらドアを閉める美愛。

…………えぇ…?私の妹可愛すぎん…?

ベットに寝転がり両手で顔を隠して、のたうち回る。

背が高いがために似合う服がない私は、自分の服は全て自分でイチから作っていた。

それが講じて現在は服飾を学ぶ大学に通っているのだが、美愛と離れたくないがあまり、往復5時間掛けて実家から通っている。

美愛も実は寂しがってたんだ…!

寂しいと思われていたことが、こんなに嬉しいなんて…っ!

えへへ、………何かの間違いで両想い、なんてことにならないかな…

そう思っていたのもつかの間。


「いやー、兄妹で恋愛は流石にないよね」

最近流行りのドラマを見ながら呟かれた美愛の一言に私は思わず息を詰まらせた。

「それは美愛にお兄ちゃんが居ないからじゃない?お兄ちゃんが居たらわかんないかもよ~」

母の言葉にソファに腰かけていた美愛は、母の方を振り向く。

「いやーお兄ちゃん居ても変わんないよー

だってお母さんも困らない?兄妹だよ?」

「まぁ………困る…かもねぇ…」

「でしょ!?」

お母さんと美愛の会話を聞きながら私は肩をすくめる。

さっきまでの晴れやかな気持ちが嘘のように曇っていくのが分かる。

私はいたたまれずに、リビングを後にしようとした。が、

「美愛、さっきから携帯うるさいわよー、ドラマ聞こえないじゃない」

「あれ、本当だ。げー…。」

美愛は自分のスマホを確認し、鬱陶しそうにサイレントモードにしてメッセージを確認することなく元の位置にスマホを戻した。

「げーって、友達からじゃないの?」

友達を大切にする美愛にしては珍しい反応だった。

「友達とノリでチャット?サイトに登録したらめっちゃ連絡くるようになってさー」

立ちかけた足を元に戻して座り直す。

チャットサイト……?

「へ、へー、美愛モテるんだね」

「いや、そんな事ないよ」

やばい…そりゃこれだけ可愛ければ世の男が放っておくわけないよね…!女子校に通ってるからって油断してたけど…もし、もしも他の誰かが美愛と付き合いでもしたら…!

…いや、無理無理無理無理無理無理!!!

そんなの考えたくないし考えられないっ!!

なんとかしてそれだけは阻止しないと……っ!!

「美愛、あんたもしかしてそのチャット相手と会う約束とかしてないでしょうね」

「えっ!?」

母からの言葉に美愛は思わず声を上げる。

「最近は物騒なんだから、危ないことはやめなさいよね」

「いや、まさか。心配させるようなことしないって」

頬をかきながら笑う美愛。これは美愛が嘘をついている時にする仕草だ。

会う気なんだ……

不安が一気に募る。

「じゃ、あたしお風呂行ってくるー」

美愛はそう言うと自室へ着替えを取りに戻った。

チャンスかも…

美愛は入浴の最中、自室でスマホを充電していることが多い。

美愛には悪いけど、お風呂入ってる間にその相手を特定してなんとか阻止しないと…っ!


「ふんふーん♪」

「美愛ーっ、これ、よかったら使って」

脱衣所で服を脱いでいる途中の美愛に声をかける。

「?これ…入浴剤…?」

「と、友達からいい匂いだってオススメされて買ってみたからよかったら使って!」

「お姉ちゃん友達いたんだね!いっつも真っ直ぐ帰ってきてるからまだ居ないのかと思ってたよ!」

うーーん。その通りなんどけど、そこまではっきり言われるとお姉ちゃんも流石にへこむなぁ…

「と、とにかく使ってみて…!」

「わーいっ、ありがとう!お姉ちゃん!」

あーっ、天使…っ!!

じゃなくて!これで美愛は髪を乾かす時間含めて1時間半はお風呂から出てこないはず……!その間に、なんとかチャット相手を見つけないと…!



居た…

美愛の部屋に入り、チャットサイトもとい明らかに出会い系サイトを確認すると、いとも容易く会う予定の相手を見つけることが出来た。

コイツか~~~~~うちの美愛をたぶらかしてんのは~~~!!仲良さそうにして~~~っ

てかこの感じ、明らかにJKってだけで会おうとしてるし!!明らかにオッサンだし!!!!!顔登録してないから分かんないけど!!!!

もーーっ!!だめだよ美愛!こんな人の相手しちゃ~~~っ!!!

スマホを両手にベットの上でわなわなと体を震わせる。

これは…絶対に阻止しないと…美愛が危ない……っ!!!!

『じゃあ明日駅の南口の噴水で、青いストライプの上着で待ってるね(^3^)-☆』

目印は青いストライプの服……てか…明日…!?

どうしよう…どうにかして美愛がこの男と会わないようにするには……どうしよ…どうしたら……っ!!

たんたんと小気味よく階段を上がってくる音が聞こえる。

美愛!?もしかしてもう出てきたの!?

「あっ!お姉ちゃん!入浴剤超ーーーーいい匂いだった!!」

なんとか美愛に出くわすことなく自室に戻ることが出来た。

美愛はどうやら髪も乾かさずに入浴剤の感想を言いに来たらしい。

「本当!?よかったーっ!」

あっぶなー、ギリギリセーフ…!

「お姉ちゃんも、早く入ってみて!超良かった!!」

「そっか!うん、私もすぐ入ってみるね!」

「うん!」

「…あー、あのさ美愛」

飛びを閉めようとした美愛を引き止める。

「なにー?」

「明日…なんだけど、よかったら買い物付き合ってくんない?」

「え!?行きーたー、い、けど…ごめん!お姉ちゃん!明日はちょっと先約があるから…また今度ね!」

「そっか、わかった!また今度ね」

にっこり微笑みその場を後にした美愛。

やっぱり簡単にはいかなかった…どうしよ、このままじゃ本当に美愛が危ない…っ

どうにかしないと…でもどうしたら…!?

隠れて後を付ける…?いや、でも会わせたくないのにそれじゃ意味が無いし…っ!

だめだ全然思いつかない…もういっそ私がその男になって美愛とデートしたいくらいなのに…っ

…。

……あれ……

私がその男になって………?

これ…案外いいアイデアかも……?



「じゃ、行ってくるね!」

「ん、行ってらっしゃい!」

明朝、約束の時間よりだいぶ早い時間に、楽しそうに出ていく美愛を見送った私は急いで準備をし、先回りすることにした。

絶対に、美愛に会わせる訳にはいかないんだから…


駅前には休日ということもあり、人で溢れていた。

こんなに服作りやってたことを心の底から良かったって思えることは無い気がする…

私は持ち前の身長を活かし、男装して約束の男に成りすますことにした。

コスプレ経験がこんな所で役に立つとは…

ショーウィンドウに映る自分を最終確認し、美愛の元へ向かう。メイクもしたし、バレないとは思うけど…っ

てか俯きがちに待ってる美愛も超かわいい…


あ、前髪気にしてる…かわいい…

じゃなくて!気合い入れろ私!バレたら一環の終わりなんだから…!

「お、お待たせ」

精一杯声を低くし、話しかける。

「……?…お姉ちゃん…?」

私の言葉にぴくりと体を反応させた美愛は、ゆっくり顔を上げながらそう呟く。

「え。」

うそ、もしかして…

も う ば れ た …!?


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