鬼に成り

 


「どうやってゼクスを見つけるの?」


 門を開き、必要なアイテムを探していると白い子がぼくに尋ねてきた。


「確かに、その少年を見つける何かをぼくは持っていない。顔すら覚えてないしな。でもオルトの話では大量殺人をしている可能性があるらしい。だから本当に殺しているなら、王都の範囲で急速に人の数が減っている場所を探せば見つかるだろう。見つからなければまだ何も起きていないということだから一安心だよ」


 白い子に語っているうちに、必要なアイテムを思いつき門から取り出す。


「それは?」


「カウントダウンという、指定された範囲の命の数を教えてくれる。今回は王都の人間に絞る」


 表示されている数字を見ると、始めの数字からガンガンに減っている。


 減った数字は最終的に百を超えた。


「ああ、これはやってるな。自然死や陰謀でここまで急速には死者が増えないし、少し強い程度の奴がこれだけ殺せないだろう」


 これで、面倒だがしっかりと動く理由ができた。


「悪いけど、少年は殺すから。これはもう駄目だ。許すとか許さないなんて話じゃない」


 ぼくは断言する。情状酌量の余地などない。


 即抹殺だ。


「仕方ないわね。それで結局どうやって探すの? カウントダウンは命の数がわかるだけなんでしょう?」


「当然他のアイテムを使わなければならない。だが、少し前に使ってしまって手持ちはない」


「ならどうするの? また宝物庫に行くのかしら?」


「そんな必要はない。偉大な年寄りの魔法に頼ることにしよう」


 ぼくは白い子の札に向かって声をかける。


「アサヒ、どこだ?」


「人使いが荒いですね。王都中を探すのは疲れるんですよ?」


「それで?」


 聞く耳は持たない。


「王都郊外の村ですね、第六王子の管轄です」


「ああ、面倒になりそうだな」


「いえ、それどころかゼクスを殺す必要もないかもしれません」


「なんで?」


「どうやら第六王子の管轄の村に、大物の盗賊団が襲撃をしたようです。そして皆殺しにあった村に残っていた盗賊団をゼクスが皆殺しにしているようです」


「ああ、そう」


 理由によるが、確かに場合によっては問題がない。


 それどころか褒めてやるべきかもしれない。第六王子から褒章を出させてもいいぐらいだ。だが。


「オルトみたいになってなければ、だけど」


「とにかく急ぎましょう」


「村への距離は?」


「馬で片道三時間ですね」


 なら、ぼくなら三十分で着くな。


「……クルギス、背中に乗って」


「……へ?」


「王都に来るとき、私はクルギスに運んでもらったけど残念ながら、今の私が走る方がスピードが上よ」


「そうなの?」


「それに今はお腹が一杯だから、もっと早いと思うわ」


 白い子が自信満々にそう言った。


 もっと効果があるアイテムを使えばいいだけだということは置いておいて、白い子の実力は測っておきたいところだ。


 騎士団長としても、ぼくの身の安全を図るとしても。


「了解した」


 ぼくは白い子の背中に乗った。


「アサヒ、方向は?」


「南南西に進んでください。近づけばわかるはずです。かなりの被害ですから」


「わかったわ」


 後に、ぼくは思い出す。


 そういえば、王都に白い子を運ぶために空を飛んだ時、ずいぶん慣れているようだったことを。


「クルギスは高い所は平気よね? 揺れないように走るけど、急ぐから少し我慢してね」


 白い子はアイテムを使わず、脚力とジャンプ力で空を飛んだ。


 気のせいではないと思う。


 白い子は空気を、何もない空間を蹴って移動していた。


「着いたわ」


 約十分ほどで被害の合った村に着いた。アサヒが言っていたように近づくと被害状況がよくわかった。


 民家は破壊され、火の手が上がっている。


 道には血の跡が多いが、何故か一つの死体もない。この不自然さは有り得ない。


 何らかのアイテムや、魔法の類で死体を吸収しているのだろう。


 これではただの趣味の悪い無人の村だ。


 ……芸術だと言いたい人間が、現れてもおかしくないほどに。


「凄い殺気ね。もうゼクスは人間をやめたのかしら?」


「殺気?」


「クルギスは感じないのかしら? 空気がざわめくような感じや、本能的な恐怖みたいな感覚よ?」


「空気がぴりぴりしている気はなんとなくするけど、恐怖はないな」


「流石ね、クルギスはこの程度では恐怖なんて感じないってことでしょうね」


 その時、男の絶叫が聞こえた。とても低いので明らかに大人の声だ。


 おそらくは盗賊団の一人だろう。


「そう遠くないわね」


 声がした方に向かい、おそらくは現場に着くと一人の少年が禍々しい剣を右手に持ち、立ち尽くしている。


 本で見たことがある、あれは暴食の魔剣だ。持ち主はおそらく、いや間違いなく……。


「ねえゼクス、何をやっているの?」


 白い子が臆することなく魔剣の少年に声をかけた。


「くっくっく! はははははは! ようやく目障りな悪が滅びたな!」


 魔剣の少年は気分が高揚しているのか、高笑いをしている。


 アサヒの見立ては正しかったのだろう。村を襲った盗賊を魔剣の少年が皆殺しにしたように見える。

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