心を満たすもの

 


 端的に言って、ぼくはとても忙しい。


 いちいち子供たちの食事を作る暇などないのだ。


 だから、大量に作れて日持ちをする料理を作っておけばいいと軽く考えていたのだが、オルトに怒られてしまった。


 なんでも初めが肝心なので一流の料理を作れと言う。


 なぜ、たかが秘書ごときにここまで偉そうなことを言われなければならないのだと反発したかったが、逆らうとうるさいし、一理ぐらいはあるのでおとなしく従った。


 一時間ぐらいかけて、メテオ王国の料理をいくつか作り、子供たちに振舞った。


 門の中から様子を伺っていたアサヒも、羨ましそうに子供たちを見ていたので、門を通して数品の料理を食べさせた。


 まったく、食べたいなら自分から言い出せばいいのに自己主張が無さすぎる。


 子供たちは喜んでぼくの料理を大量に食べている。


 白い子に食べさせた時点で不安はなかったが、十分すぎるほどにぼくが作った食べ物も飲み物も、子供たち全員の口に合うようだ。


「残念だなあ、もう少し早く皇子がおいしい料理を作ってくれれば、ヒイラギたちが出ていくことはなかったのに」


 子供の一人がそう言った。


「どういう意味?」


 ぼくが尋ねると、笑顔の子が答えた。


「ヒイラギ君たちは、ここの料理がどうしても食べられなくて出てったんだよ。ヒイラギ君は結構クルギス君のことが好きだったのにね」


「ふーん」


 まあ、確かに素質や才能はある子だったからな。


「ねえ、クルギス。実は私たちで話し合ったんだけど、出て行った人たちを呼び戻せないかしら?」


「はあ? 嫌だね。一度自由にしてやるって言ったんだから帰って来いなんて言う気はない」


「でもクルギスが私たちに騎士団として動けっていうならどう考えても戦力が足りないわ、五人しかいないのだもの。多分、他から戦力を持ってきても足手まといにしかならないわよ」


「知らん。五人で動け」


「どうしても駄目かしら?」


 個人的には嫌だが、確かに人数を増やすことに意味があることは認めざるを得ないだろう。


「そうだな、もしあれだけ忠告したのに外で問題行動を起こしたとしたら、白い子の下につけて厳しく指導させてもいいかな」


「そうなの? なら安心したわ」


「どういう意味?」


 笑顔の子が意味がわからないと言う顔をする。


「あの人たちが問題を起こさないわけないもの。確実に私の部下になるわね。時間の問題よ、もしかしたら今日にでもオルトから報告が上がるかもしれないわ」


 なんて不吉なことを言う。


 白い子に見る目があることは既に実感しているのだから、強く信憑性があるのに。


「えっとさ、一応聞きたいんだけど、出て行った奴らってどういう内訳か分かる? 何人でまとまって出て行ったかってことだけど」


 情報を集めておくべきだろう。後になって焦るのはあまりにも無様だ。


「確かヒイラギ君はキオンくんと出て行ったよねー、多分八人組かな。ファイくんは6人組で出ていったよ。あー、それとゼクスくんが一人で出て行っちゃったね」


「……なんか随分詳しくないか?調べてたの?」


「うん、アンナちゃんに頼まれたから」


 ぼくは白い子に目を向ける。


「ええ、みんなはいつか必ずクルギスに迷惑をかけると思っていたからミュウにお願いしておいたの。役に立ってよかったわ」


「ぼくのために調べておいたのか?」


「そうよ、彼らが実際にクルギスに迷惑を掛けたらその時点で、私がこの世から消そうかと思っていたの」


 白い子はあっさりとそう言った。


 反応に困るが、どうやら白い子には同郷の人間と言う仲間意識はさらさらないらしい。


「どういう連中か教えてくれないか? 全員はかったるいから注意する必要がある奴を」


「協力してくれるの?」


「まあな、他人事じゃないし、奇跡の子の勘は馬鹿に出来ないことをオルトが証明しているから」


 オルトの名前を出すと、白い子は不機嫌なオーラを出すが、ぼくに八つ当たりをせず話を続ける。


 この冷静さが頼もしくもあり、恐ろしい。


「残念だけど、私はあまり詳しくないわ。クルギスに教えてあげることが出来なくて悔しいけど、ミュウに聞いて」


 ぼくたちは笑顔の子に視線を向ける。


「そうだね~、じゃあ教えてあげる代わりになにをしてもらおうかな~?」


 笑顔の子は挑発的にそう言うが、いつの間にか白い子が笑顔の子の後ろで剣を突きつけていた。


「ねえミュウ。確かに私たちは友達だけど、クルギスに迷惑をかけるなら……」


「ヒイラギ君とキオン君はクルギス君と話してたから少しぐらいわかると思うけど、一応説明するね」


 笑顔の子はそう前置きして語りだした。


 冷や汗をかき、早口で喋るその姿にこの子にも恐怖ってあったんだなあと思った。

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