格の違い



 ぼくはゆっくりと観覧席からステージに向かう。


 その移動中に、大きな音が聞こえてきた。


「見事だ。少年たちよ」


 これは国王の声だな。


「我が王国が誇る騎士団をことごとく撃破したその実力は見事。トール村の出身でもあり、世界最強の存在になることを大いに期待させる。だが、この試験のルールでは子供達が敗北した騎士団に入団するという話だったな、全ての騎士団に勝利した以上なにか入りたい騎士団の希望はあるかね?」


 この国王は本当に。


 出来レースなのに白々しい。


「おれたちは、最後に第十皇子クルギス様との戦いを控えていると聞かされているのですが、それはどうなったのでしょうか?」


「確かに、我が国の最強の存在はクルギスだ。だが、残念だが、クルギスはいかなる騎士団にも入っていない。……だがお前たちが戦ってみたいと申すなら余の命で戦いを成立することも可能だ。どうするかね?」


「是非、お願いしたいです。この国で最強の存在はクルギス皇子だと聞きました。おれたちも人類の最強を名乗る以上、この王都でも強さを主張したいのです」


「クルギスの強さはアイテムが根本にある。きみたちとは根本的に強さの種類が違うと思うが、構わないかね?」


「当然です。おれたちは、この世に存在する全ての中での最強を目指しているのですから」


「わかった。ではクルギスよ。ここへ参れ」


 国王の声に合わせて、ステージに上がる。


「第十皇子クルギスよ。お前と戦うことを子供たちは望んでいる。構わんな?」


「まあ、国王からの命令なら仕方がないな。これも仕事だよ」


「うむ、今直ぐに始めてもかまわんか?」


「ぼくはいつでもいい。向こうに聞いてくれ」


「もちろんおれたちもかまいません。ですが、皇子は急に呼ばれたので戦闘用のアイテムの用意がないのではないのですか?」


「いちいち綿密な準備がなければ勝てないような存在が、最強を名乗ることなんてありえないだろう?」


 世界と言うものは、そこまで甘くはない。


「大体、きみたちは準備が必要なほどには強くないから、かまわないよ」


 よくわからないが、ぼくが単純明快な事実を教えてやったらその場の空気がぴりぴりした。


「皇子、それなら全力で行きます」


「ああ。どうぞ」


「それでは、各自、準備はよいか?はじめ!」


 国王の言葉で、ぼくたちの戦いは始まった。


 始めの一撃は光すら超えた。


 耐えきれない感情を耐えていた白い子供が、その力を真っ先に開放したからだ。


 ぼくの貸してあげた剣に本気の力を込めた、たいていの敵なら瞬殺する一撃だ。


 その一撃がぼくの体を素直に貫くと、その事実に驚いている彼女にぼくは囁く。


「残念だね。強さだけでは、勝てないよ」


「殺して、ない?」


 驚くのは当たり前だ、彼女の剣は、明らかにぼくの心臓を実際に貫いているのだから。


 ぼくは軽く、右手で彼女の体を押すと割と素直に距離をとる。


 他の子供たちの驚愕も、当然。国王の驚愕も必然だった。


「心臓を貫かれても痛くないの?」


「ちっとも、ほら、すぐに回帰してくれる」


 時間が戻るかのように、飛び散ったぼくの血が体に戻り、白い子の剣についていた血すらぼくの体に戻ってきた。


「時間が、戻った?」


「いやいや、これは視覚的にわかりやすいだけで、本当は剣がぼくに触れてすらいないんだ。こんなものはただのお遊びだよ。次はぼくが行くよ」


 懐からある塊を出し、放り投げる。


「爆弾?」


「ああ、王都そのものが吹っ飛ぶぐらいの威力がある。きみは大丈夫かもしれないけど、何人かは死ぬんじゃないか?」


「! みんな、逃げなさい!」


 白い子の声が会場中に木霊するが、あまりにも遅すぎる。


 閃光と衝撃が周囲に広がるが、実際のところ誰一人傷一つ、ついてなどいない。


「お前たち、驚き過ぎだよ。脳みそがないのか?無事に済むことぐらい考えればわかるだろう?」


「それは、つまり皇子が無事だったから、ですか?」



「そうだよ茶髪の少年。ぼくの周り、ちょうどステージの中ぐらいの範囲では、全ての攻撃にどれだけの威力があろうともすべて無力になるんだ」


 ぼくの使っているあるアイテムにより、敵味方問わず全ての攻撃は無意味になる。


「全ての無力化?」


「試したければ試せばいいよ意味がないから。でも、それだと勝負にならないから一定のルールに従えば、即死の威力でダメージが通ることにした」


「ルール?」


「まあ、教えてあげないよ。でも、簡単なものにしておいたから自力でもわかるだろうし、ぼくの動きを見て学ぶことも可能だ。こうやって」


 ぼくは何も持っていない右腕を振る。


 すると衝撃波がステージ上を走り抜け、三人の子どもが気絶した。


「油断しちゃ駄目だろう?でも、きみたちってやっぱり強いね。普通なら即死なのに気絶で済むなんて。でも、まあ意識を失ったらリタイヤだ。大事にステージから降ろしてあげるといい」


「! できるだけ距離をとるんだ!」


「判断としては悪くない。でも、ほとんど意味はないな」


 ぼくは右腕で正面の空間を殴る。


 その衝撃で十人が気絶する。ぼくはちゃんとルールを守っているので威力が増幅された攻撃が子供たちにも通るのだ。

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