希望と絶望

 


「おれたちは国王陛下の所有物だと言ったではありませんか!おれたちの立場をはっきりさせるために脅しているのかと思えばあなたは今、完全に本気でキオンを殺す気だったでしょう!」


「当然だろう?ぼくは殺されかけたんだから」


 こいつは正当防衛を知らないのか?


 ……まあ、知らないか。


「……国王陛下の所有物を、あなたの一存で殺してしまってもいいんですか?」


「まあ、少しは怒られるだろうけど、許してくれるだろうさ。きみたちが貴重な絶滅危惧種で、とても価値が高い存在だとしても、このぼくとは比べ物にならないからね。ぼくに罰を与えることがどれだけ国益に影響するかなんてことは、この国に住む誰にとっても語るまでもないことだろうさ。別に君たちを皆殺しにするわけでもないし、ちゃんとした正当な理由もあるしね」


「あなたは第十皇子でしたよね。それなのにそれだけの影響力があるのですか?」


「さあ、気になるなら自分で調べてみたらいいだろう?」


「……とにかく、キオンを許してあげてください。お願いします!」


 赤毛の子供の名前はキオンというらしい。


 茶髪の少年が頭を下げると子供たち全員が頭を下げた。どうやら茶髪の子供は人望のある存在のようだ。


 まあ、どっちでもいいか。


 初犯だから見逃してもいいだろう。


「まあ、いいけどさ。一つ言っておくよ。ぼく個人のルールとしては、味方を攻撃するというのはとても重い罪だと思っているんだ。ぼくも君たちもこの国に所属する存在な以上は、今のところ間接的にぼくの味方だと思っている。言いたいことはわかるよね?」


「はい、よくわかりました」


 ぼくはやれやれと首を振る。


 少しばかり厳しいことを言ってしまったので、今度は少しだけ希望を語ることにしよう。


「君たちは確かに国王の所有物になった。もう人間じゃない。でも、自由がなくなったというにはまだ早いよ」


「え?」


「道具には道具なりの自由。奴隷には奴隷なりの自由があるということだよ。君たちがちゃんと国に所属して、自分たちの価値がとても大きいということを国王に示せば、君たちの待遇はどこまでもよくなるだろう。ま、元々国王には君たちをそんなに悪い待遇にする気はないと思うけどそれでもさらに良くなる。普通に見たら人間だと思えるほどにね」


「それは、どういうことでしょうか?」


「極端に言えば君たちはお金で買われたんだから、お金を返せばいいんだよ。勿論、利子は取られるし、膨大な金額になるのも間違いない。でも今は戦乱時代だよ。手柄を立てるのも、高レベルアイテムを集めることだって戦争に行けばやりたい放題だ」


「!」


「それに、ちょっと言い過ぎたけど、君たちの待遇は普通に仕事に就いてもらうのとそこまで変わらない。ちゃんと給料も出るし、休暇だってあるだろう。福利厚生だって大丈夫さ。強制的なのはこの国に住んでもらうことと、国王には逆らえないってことだけだ。言っておくけど、君たちは国王に買われたんだから国王以外の人間には逆らうことだって普通に許されるよ」


 ぼくもそうしてるし。


「それはてめぇに従う必要がないってことかよ」


 赤毛の少年が表情を歪ませながらぼくに質問をする。


「そうだよ。さっき君を処分しようとしたのだってぼくが偉いからじゃなく、ぼくの命が狙われたからだ。皇子の一人であるぼくにだって、腹がたったなんていう理不尽な理由できみたちを殺すことは許されない。たまたまぼくの方が圧倒的に強かったから簡単に君を殺せたってだけの話だ」


 あまりにも簡単で、絶望的な事実に赤毛の子は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「もちろん従順にしていた方が立場もよくなるし、王都での味方も増える。でも嫌だったらやめればいいってだけの話だ。圧倒的な強さを誇っていれば、例えば反抗的だって理由で、理不尽に牢に入れられたって簡単に出してもらえることがあるかもしれないしね。少なくても、相手がぼくなら可能性は十分にあるだろうね」


 ぼくは、価値を示した人間を出来るだけ優先する。


「話を聞く限りだと、十分すぎるほどの希望がありますね。それにとても具体的な話でもあります。普通に仕事だと割り切って生きていくことも問題がないほどの好待遇にも聞こえますよ」


 どうやら茶髪の少年は、ぼくの言葉に希望を見出せたらしい。


「まあ、曲がりなりにも一つの国の王家に買われたんだから、ちゃんと役にさえ立てば悪い扱いにはならないだろうさ」


「そうでしょうか?普通ならただの奴隷として扱われて使い捨てにされてもおかしくはない、いや、それが当たり前ではないのでしょうか?」


「その線は確かに濃厚だったね。上層部には傲慢で、自分が特権階級の存在だと勘違いしている人間はたくさんいるから。でも、ぼくは君たちを侮ると危険だって方向に上層部全体の思考を誘導しておいたから、とりあえずは丁寧な扱いをしてくれると思うよ」


「……なぜ、おれたちにそこまでの扱いをしてくれるのですか?」


「うん?」


「あなたはおれたちを金で買われた道具だと言いながら、随分と心を砕いてくれているじゃないですか。呪いを解いて自由にしてくれて路頭に迷っていたおれたちの心を希望に導いてくれた。見てください。みんな絶望の表情を浮かべていたのに、今では希望とやる気に溢れている。凄く、優しくしてくれている」


「クルギスは元々優しい人よ?気づくのが遅いわね」


 白い子がとても持ち上げてくるが過大評価をされては困る。


 労働力を整えるのは大事なことだと言うだけだ。


 希望を持てば、どんな人間だって頑張るからな。どうせ子供たちが役に立たないと判断されたら皆殺しにするのはぼくになるんだろうし。


 面倒な仕事は一つでも減らしたい。


 それが重要なことだ。

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