呪いを解く方法

 


「クルギス、これからどうするの?」


 会議室を出て、どこかに向かうぼくに白い子が尋ねてきた。


「今向かっているのは情報管理部だよ、とりあえず国に提出した資料を見に行く。そのあと宝物庫に行って必要なものを手に入れる、そして呪いを解く。それでこの件は終わりだ」


 なんだかんだと、簡単ではあってもめんどくさい仕事だった気がする。


 まあ、国王たちはこれから先も忙しそうだが。


「この件?」


「きみたちトール村の一件のことさ」


「その中には私のことも入っているの?」


「当たり前だろう。きみはトール村にいたんだから」


「私はあなたの部下になりたいのよ?」


「その話は終わっている」


 いい加減に鬱陶しいので、適当に話を打ち切る。


 望んで足手まといを作るような趣味はないのだ。


 大きな不満を持っているのが丸わかりの白い子を適当に放置して情報管理部に入り、部署の人間に話は通っているので用意されている資料に目を通す。


 白い子も協力しようとするが、資料には読めない字が多くて諦めたようだ。


 当然だろう。ど田舎にある戦闘重視のトール村で、これだけの資料が読めるほどの教育をされるわけがない。


「クルギスは本当に読めているの?こんなに分厚い本なのに、一冊を読むのに五秒もかかってないわよ?」


「もちろん全部は読んでないよ。必要な情報は僅かだ。全てを読む必要なんてない」


「だけど、その何を必要とするかという判断をするのにも、内容を読む時間は必要なはずよ」


「このぼくにそんなものは必要ない。見つけたよ、成人の儀の情報。……なんだこれは、くだらないことが長々と。呪いを解く決定的な方法はスカルドラゴンを倒すこと。でもそれだけじゃないな、情報が少なすぎて細かいことがわからないから残りは推測するしかないか」


「つまり、根本的にスカルドラゴンを倒したところで呪いを解く効果などない。呪いを解くという意味自体はそこにないんだろう。呪いというものがどんなものであったとしても有り得ないものは有り得ないものだということはわかっている。だとするとなんらかの薬、あるいはアイテムの材料に必要だと判断できる。それにはスカルドラゴンの何かを使えばいいのだろう」


 本に書かれていない部分は想像と推理で補う。


「頭部は効果がない、両腕、両足は武器に使われる。……魂は精神的なものに作用すると言われている。行動する前の前提でそれだけわかればいいとして、問題は使い方だ。とりあえず魂を利用すると仮定するとぼくが使うなら何かに変換して使うだろう?ならば何に変換するかという話になるが、……成る程な。つまり大した呪いというわけではなくて、あとは試してみるしかないな」


 宝物庫に向かい、スカルドラゴンの魂が入っている宝石を見つける。


 次に門から無意味に強度の高く、ちゃんとした武器にすら使えるハリセンを取り出し、それでスカルドラゴンの魂が入っている宝石を破壊しようとする。


 だが、宝石に思いっきりハリセンを叩きつけてもあまりの固さにひびすらも入らない。


 魔物の一部だから当たり前と言えば当たり前だが。


「な、なにしてるのよ?急に大きな音を出して」


 ぼくの奇行に白い子が驚愕する。


「スカルドラゴンの魂をハリセンで破壊しようとしたができなかった。きみがやってくれ」


「なんでそんなことを?」


「早く」


 一々質問に答えるのは面倒なので白い子を急かすことにする。


「てや!これでいい?」


「うん」


 白い子の、ほとんど力を入れているとは思えない一撃で宝石は完全に粉々になり、スカルドラゴンの魂がハリセンに移った。


 その証拠にハリセンが宝石の色と同じ真っ赤に染まったようだ。


「その気味が悪い真っ赤なハリセンをどうするの?」


「ハリセンには何もしない。ただこのハリセンできみの頭をしばくんだ」


 スパーンと大きな音を立てて白い子をしばいた。


「痛いわよ」


「本当に?」


 一つのアイテムすら使ってもいないぼくの力が、奇跡の子である白い子に効くだなんていう幻想を持つことはできないのである。


「いや、私にはあんまり痛くないけど、普通の人間ならすごく痛いと思うわよ」


「このハリセンで呪われた子供たちを殴ると呪いが解けるって考えたんだ。ほら、右腕にある呪いの模様が光っているよ」


 白い子の腕にある複雑な模様がだんだんと変化していく。どうやら薄くなっていくようだ。


「え?ほ、本当だ。どんどん消えてく」


 一分もたたないうちに、あっと言う間に痕跡を残さずに模様が消えた。


「完全に消えたな。やっぱりスカルドラゴンの魂を使うのが正解だったみたいだな」


「あれだけの呪いが、こんなに簡単に?」


 白い子は呆気にとられたようにそう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る