白い子との邂逅

 


 嫌だなあ。


 とても嫌だな。関わりたくないな、という本音を隠しながら声をかける。


 できれば他の子供に声をかけたいが、この視線を無視してしまうと何が起こるかを考えると、とてもその道は選べないのである。


「大丈夫だった?」


 慎重に声をかけると、その少女はまるで緊張しているかのように、硬くなりながら返事をする。


「ええ、私は大丈夫よ。助けてくれてありがとう。あなたは誰かしら?」


 彼女はとても白い子だった。


 長い髪の色、肌の色。どこをとってもまともではなく、どう見ても怪我や病気とも関係なく死にかけだ。


「ぼくはクルギス。メテオ国の皇子で国王の命令により、君たちを助けに来たんだ。一応、トール村は我が国の領土だからね」


「……そう、でも大人たちは全員死んでしまったわ。残っているのは私たちだけよ」


「問題ないよ。ぼくが受けた命令は生き残りを全員救えってこと。死んだ人間は数に入らない。それにまあどうしようもないしね」


 無理なものは無理なのである。


 死んだ人間を生き返らせることはぼくの仕事の領分からあまりにも超えているし。


「私たちはこれからどうすればいいのかしら?」


「自分たちの状況はわかっているのかな?」


「ええ、見ていたから。私たちはあなたに買われたのよね?」


 聡い子だ。


 どうやら完全に現実というものを理解しているらしく、子供らしい曖昧な希望は持ち合わせていないようだ。


 ぼくはあの石ころをエレフに渡し、子供たちの命を買ったということになるが、もちろんそれを買ったのはぼくではなく、国王になるだろう。


 身内にいるあの執事といい、奇跡の子は本当に優れているようだな。奇跡という言葉に恥じない才能を感じる。この年齢の子供なら泣き叫んだり、言葉を失ってもおかしくないだろうに。


「とりあえず、全員王都に来てもらうよ。身の振り方は国王が決めるだろうさ」


「でも、いつのまに私たちは王都になんて行けるようになったの?」


 とても嫌な響きの言葉を聞いた。色々な意味を含んでいそうな不吉な言葉だ。


「なんで君たちは王都に行けないの?」


「それは当然、私たちが呪われているからよ」


 よくわからないことを言われた。


 頭が痛い。あの国王はまた、ぼくに何一つ大事なことを教えなかったということが確定した。


「初耳だけどさ、呪いって何のこと?」


「簡単に言うとトール村の人間は代々、まだ戦えない小さな子供を呪うことによって、魔物を引き寄せて戦うのよ。強大な魔物を村に呼んで倒し、強くなるためにね」


「ああ、それは強力そうな呪いだね」


 ぼくは適当なことを言った。


「ええ、成人まで生き残れたら呪いを解く方法を教えてもらえるの。でも、大人が全員死んでしまったから呪いを解く方法はわからないわ」


 文字通り、子供を餌にする呪いは、解き方がわからないらしい。


「文献とかは?」


「さあ、滅びた村だけどもしかしたら無事な本ぐらいあるかもしれない。でも少なくても私はそんなもの見たことがないわね」


 面倒にも程がある。


 でも、国王の命令は生き残りを連れてこいと言うものだった。ならそれ以外のことを考える必要はないな。


「まあいいんじゃない。とりあえず、子供たちが目を覚ますまでぼくの陣地で休憩させよう。部下を呼んでくるから君は子供たちを見ていてくれ」


「断るわ。私はあなたについていくもの」


「何故?」


 とても断りたいのだが。


「そうしたいからよ。かまわないでしょう?」


「まあ、凄く迷惑だけど、問題はないか。でも子供たちはどうするんだ?」


 問題自体はないか。


「怯えているけど、何人か意識はあるもの。……頼めるわね?」


 白い子は一人の子供にそう言った。とても怯えて震えているので、何の役にも立ちそうにないな。


「しょうがないな」


 適当な壁を作るアイテムを子供たちに使っておく。もう強すぎる敵はいないので問題はないだろう。


「じゃあ、行くよ」


「あなたはいいのかしら?」


「何が?」


「だって悪魔に呪われていたでしょう?私たちが原因だからとても申し訳ないけど、あなただって人の群れの中に入るのは難しくなってしまったのではないかしら?」


「ああ、そういえばそうだった」


 痛み写しのアイテムを使い、自分の呪いを術者に返す。


 これで呪いは解け、悪魔の居場所はぼくに筒抜けになる。だが、悪魔は大人になるまで何百年かかるか知らないし、すでに大人だったら即死だろうな。


 悪魔がちゃんと生きていることが確認できる以上は子供みたいだが。


「あなたも門を持っているのね。生まれて初めて見たわ。やっぱり期待通りみたいね」


 ぼくがアイテムを取り出すのを目撃して白い子がそう言った。


 全ての人間は生まれた時から自分の持ち物を収めて空間を持っている。門、蔵、袋の三種類が存在する。


 当然ながら頂点が門だ。世界的に見ても数が希少で、生涯持ち主を知らない人間が珍しくもない。


「期待?よくわからないけど、それよりこの村って君たち子供以外に、一人生き残りがいるみたいだね。何故、悪魔に見つからなかったのかな?」


 村が襲われて大分時間が経つし、残りは全滅している。


 探さなかったというわけではないはずだ。この子がその話に自分から触れなかったことを合わせて考えると……。


「そうね、あなたになら話しても問題はないわね。この村にはたった一人だけ隠された人間がいるの」


 そうだろうな。


 検索では地下深くに存在する。とても襲撃を受けてから逃げたようには思えないだろう。


「彼女の名はアサヒ。私のご先祖様で初代の妹よ」



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