無能な将軍たち

 

 大至急の招集をしても、ぼくはゆっくりと歩いていたので、将軍たちはとっくにテントの中に集まっていた。


 今回、国王から預けられた兵をまとめる五人の将軍だ。とはいっても彼らは政治的な思惑で集められている。ぼく以外の王子がぼくの功績を掠め取ろうと送ってきた自称、優秀な将軍たちだ。


「第十皇子よ。ようやく会議をする気になったのですかな?」


 一番偉そうにしている、年を取った将軍が初めにぼくに声をかけてきた。ぼくは王族に相応しく鷹揚に答える。


「そこそこ」


「今回の任務も国王陛下直々の命令なのです、成功は当然。迅速に最大の成果を出すことが求められているのですぞ!」


 そんな当たり前な大前提を語られても困ってしまうのだが。一々細かい説明はしない。


「見解の相違だね。国王はぼくに全権を委ねた。つまり成功するのも失敗するのも、ぼくが決めていいことだと思っているよ」


「なんだと!兵をなんだと思っているのだ!」


 なんだと言われても兵は兵である。


 ぼくの作戦で動く駒でしかないだろう。はっきりとは言わないが。


「まあ、とにかくきみは将軍とはいえ五人いるうちの一人なんだから、あんまりうるさく言わないように。それと、会議をする気はないよ。ぼくはきみたちに決定事項を伝えに来ただけだから」


「決定事項とは?」


 怒りで言葉が出ない将軍とは別の将軍がぼくに質問をする。彼は怒りを抱いても冷静に質問が出来るようだ。


「ぼくが一人で村に行って生き残りを見つけて助けてくる。きみたちはここで待機だ」


 将軍たち全員から動揺と怒りが伝わってくる。自称歴戦の勇士たちはプライドが高いらしい。


「理由を尋ねてもよろしいですか?」


「ぼく以外の人間が村に入ったら死ぬからだ」


「それはなぜ?」


「ちょっと中を調べてみたんだけど、村を攻撃したのは悪魔族だ」


 今度は恐怖が伝わってくる。ぼくは王都で説明を受けた時に悪魔族の襲撃だと報告を受けたが、他の人間には伝えていないので、事実に怯えているようだ。


「君たちも知っての通り、人間では悪魔には勝てない。だから連れて行かない」


 相性の問題とか、絶対的な問題とかという話ではない。


 単純な話、人間は弱く、悪魔は強いのだ。例外を除いて。


 悪魔は序列で言えば六位だし。二十位の人間ではどうにもこうにも皆殺しだ。


「我らは一万の兵を連れているのです。あんな小規模に収まる程度の数の悪魔なぞ、蹴散らせるに決まっているだろう!」


「悪魔が一体いれば、最低でも千人ぐらいなら十分皆殺しにされるぐらいの実力差があるよ?」


 はっきりと答えた。


「信じられるものか。悪魔と人間の交戦記録など、何年存在しなかったと思っている!現代の我々なら簡単に蹴散らしてくれよう。我々にはアイテムがあるのだ!」


 アイテム。この世界の最強の兵器でもあるものだ。過去に存在した、いわゆる兵器や、魔法などといった力の全てを駆逐した最高の道具だ。


 ゼロからフィフスまで存在し、サードから上のものは人知を超える。真ん中ぐらいの地位を誇る一国の皇子であるぼくですら、まだセカンドを数回見るのが精一杯の立場なのだ。だが、その立場で言わせてもらうと。


「レア度に換算すると最低でもフォース以上の力を持っていると思うよ?」


「臆病なことを!ならば、貴様が一人で村に行って何ができるというのだ」


 将軍程度が王族に貴様と言っている。不敬罪で打ち首にしてやろうか。


「君たちとは違うからね。ぼく一人なら十分に生き残れるよ、でも他の人間は死ぬだろうね」


「失礼させてもらう!」


 唇をかみしめながら将軍の一人が出ていき、二人が続いた。顔を青くして副官がぼくに尋ねてくる。


「いいのですか?おそらく彼らは独断に村に攻め込むつもりだと思いますが?」


「好きにすればいいよ。国王の命令は生き残りを助けること。味方が死んではいけないなんて命令は受けてないよ。どうしても死にたいというならあっさりと死んでくれて構わないよ。君たちは?」


 残りの二人の将軍に尋ねる。


「私は第一王子の指示で今回の戦いに参加しました。そして第十皇子に決して逆らうなと厳命を受けておりますので独断専行はしません。待機命令に従います。それに兵を無駄死にさせる気もありません」


 彼女はあまりにも冷静な発言をしている。その言葉から有能さが伝わってくるようだ。


「我もですな。第三王子の命令ですが、ほぼ同じ命令を受けています」


 彼はかなりの年だが、全身から威圧感を感じるような気がする。この二人は本当の意味である程度利用できる将軍だと言えるだろう。


「ほぼ?」


「もし、仮に第十皇子が困ったら手を貸すようにとも言われているので」


「ほう」


「我が主、第三王子と第十皇子は仲が良いと見受けられますな」


「悪いが、ぼくはあんな変装好きと仲良くはない」


 第三王子は王国のほぼ全ての人間に本当の姿を見せたことがない変人だ。まあ、正体を見ても別に面白くはなかったが。


「さようですか。それはともかく第十皇子はどういう行動をとるのですかな?」


「正面から行くよ」


「あの火柱の中にですかな?」


「まあ、なんとかなるだろう。色々と報告は受けているよ」


 待機地点と村までの距離は約十キロ。


 約一キロほど近づくと、人間は自動的に突然現れる火柱によって消し炭になってしまうと聞いた。自分の目でも確認してある。


 その火柱は元からあったものではなく、今回の事件から発見されたので、村に備わっていた防衛システムか、悪魔が行った何らかの行為だろう。


 国王からそんな話は聞いてないが、あの人はいつも大した説明をしないので、なにかを知っていてもぼくに言わなかった可能性もある。ぼくに限らず任務を達成できる優秀な人間には助言の一つすらしない男だ。


 必要な情報すら自らの楽しみで隠ぺいすることもある。


「魔法的な理由だろうとも、物理的な理由だとしても、対策手段は作った。上手くいくと思うよ」


「今すぐに?」


「ああ、出て行った将軍たちが兵たちの指揮を上げているから、中にいる悪魔が動き出しそうだ。運がいいね、彼らは火柱に焼き殺される前に直接殺してもらえるようだ。これは利用できるな、ちょうどいいからぼくはその隙をついて中に入るから君たちは超遠距離から出来るだけ情報だけは集めておいてね。決して危ないことはしないように。ぼくは命令に従う部下を見捨てる気はないからね」


 命令に逆らう部下と、命令に従う部下ではその価値は天と地ほども違うのだ。


「少々甘い意見だと思いますが。感謝します」


 残った二人の将軍は恭しく頭を下げた。


「いいかい、この陣地にいる限り、決して見つかりはしないから。絶対に出ないように」


「了解しました」


 副官にも警告を忘れない。


 今から出陣する兵たちの雄たけびと、行進の音。


 そして、たくさんの断末魔の声が聞こえた。


「さて、のんびりと出かけようか」


 これから起こるたくさんの死。それはあくまでも命令違反の兵であり、上官命令を聞く兵士たちには一兵の被害も出さずに済みそうだ。


 それを利用して任務を全うする。さて、村には何人生き残りがいるかな?


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