第29話 オレと隣の美少女と借り物競争②

 はあー、疲れた。

 華流院さんになぜだか借り物として一緒に走らされたオレはその後、自分の席に戻って一休みしていた。

 こう言ってはなんだがオレは完全インドア派。

 普段から走らないし、運動もしたくない人間。

 この体育祭が始まった時も言っていたが、体育は一番苦手な科目といってもいい。だから参加する種目も必要最低限。しかも、なるべく疲れないものを選んだつもりだ。

 なので、そんな必要以上の運動はオレの元々ない体力を減少させ、その後の自分の競技すら億劫になる。

 出来れば、これ以上第三者の種目に付き合うのはゴメンだが……。

 と、そんなフラグっぽいことを考えていると、続く借り物競争にて南條晴香さんの姿が見えた。


 おー、彼女も参加するのか。

 というか、明らかに華流院さんを意識して同じ競技に参加したくさいが……まあ、オレには関係ないか……と思ったが、実は関係あるので一応見ておこう。


「よーい、スタート!」


 審判の発砲と共に駆け出す選手達。

 中でも晴香さんはさすがに速い。

 真っ先に地面に落ちている紙を拾うとそのまま顔をパァっと明るくした後、迷うことなくオレの方へ駆け寄ってくる。


「誠一君! 一緒に来て!」


 へっ、なんで?

 オレが疑問を口にするよりも早く、晴香さんはオレの腕を引っ張り再びゴール手前にいる生徒会長の元へと移動する。


「はいはーい! 生徒会長! この人です! この人ー!」


 そう言って晴香さんは手にした紙を渡す。

 会長はオレと紙に書かれた内容とを見比べ、その顔にわずかな疑惑の表情を浮かべる。


「……本当に彼がそうなのか?」


「そうですよー! 間違いありません! きっと! というかそうです!」


「…………」


 晴香さんのよくわからん断言に生徒会長はかけているメガネを指で押しながら、オレの方を振り向く。


「では、テストしよう。君、最新刊『一攫千金転生』の第九巻の第三章にて山賊の一味を倒した主人公がヒロイン達の前で言った決め台詞はなんだ?」


「はっ?」


 思わず素で漏れた。

 え、えーと、なんだって? 一攫千金転生の最新巻の第三章で山賊を倒した主人公の決めセリフ?

 なんだよ、それ。え? オレそんなの覚えてる? というか最新巻って八巻じゃなく? あ、でも、そういえばこの前九巻出るとか言ってたな……あれ、そういえばオレそれ読んでたっけ?

 色々ごっちゃになってよくわからなくなっているオレに隣にいる晴香さんが「も、もー、やだなー。誠一君。主人公の決め台詞って言えばあれしかないじゃんー。あははー」と、何やら冷や汗で背中を叩いてくる。

 いや、あれってなによ?


「え、えーと……『オレ達の一攫千金はこれからだー』……?」


「……不正解。よって通せない」


「もー!! 何やってるんだよ! 誠一君! それは二巻の決めセリフだよー!!」


 いや、知らんがな。というか覚えてないわ。そんなの。

 というか、そもそもその紙に書かれた内容ってなんだよ。と晴香さんに質問すると「これだよー」と渡してくれた。そこに書かれた内容は――


『信者』


「…………」


 いや、オレ信者じゃないし。

 ハッキリと断言しておいた。


 その後、席へと戻ったオレはこれでようやく休めると思ったのも束の間、


「先輩! ちょうどよかったっす! 一緒に来てください!」


「え、って樹里? お、お前も借り物競争に……って、ちょっと待てー!」


 席に座るや否や今度は鬼島樹里がオレの腕を掴むと、ゴール手前にいる生徒会長の元へと移動する。

 再び会長と対面するオレ。

 さすがに三度目ともなると生徒会長も「また君か……」と何やら顔を覚えられた様子。はあ、なんだかすみません。


「生徒会長ー! これこれー!」


 と、樹里は手に持った紙を生徒会長に渡す。

 今度はなんだー? もうファンとか、アンチとかそういうのはお断りなんだがー。

 そんなことを思っていると会長はオレと樹里を交互に見比べると、今度は樹里の方に顔を向けて尋ねる。


「……本当に彼がそうなのかね?」


「はい! 断言できるっす!」


「ふむ、そうか」


 すると会長は「通りたまえ」とあっさりオレと樹里を通してくれた。

 え、なんで? そのまますんなりとゴールしたオレと樹里であったが、オレは彼女の紙になんと書いてあったのか気になり尋ねる。すると、


「ああ、これっすよ」


 そう言って樹里が渡してくれた紙には――『尊敬する人』と書かれていた。


 …………。


 いや、オチがなくて申し訳ないが、その内容にオレは思わず照れてしまい顔を赤くして、そっぽを向く。

 そんなオレに対し樹里は「どうしたんっすか先輩ー? 顔赤いっすよー?」と何も分からない様子で顔を近づけてきた。

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