第21話 オレの下級生にカツアゲされる

「はあ……どっか静かなところでゆっくり読もう」


 とりあえず教室から出たオレは一人で読書する場所を探すべく校内をうろつく。

 ここからなら図書室に行けば静かに読めるだろうか。

 まあ、読書には図書室が最適だよな。そう思って、図書室のある方向へ向かおうとしたその瞬間、


「うわっ!」


「いって!」


 通路の角を曲がった先でドンっと、その先にいた誰かとぶつかる。

 なんだろうかと見下ろすと、そこには地面に尻餅を着いた小柄な少女の姿があった。


「いってぇなぁ……てめえ、なにしやがる!」


「ひっ!?」


 立ち上がり、オレを睨みつける少女に思わず後ずさりする。

 だが、それも仕方ないものであり、その子の外見は明らかに世間一般で言う『不良』と呼ばれるものであった。

 金髪に染めた髪。耳にはピアスをしており、目つきの悪いツリ目。わざと着崩したように着ている制服。

 どこからどうみても「不良だけど文句ある?」という看板を背負って歩いているような子であった。


「あ? よく見ればてめえ、先輩かよ。後輩にぶつかっておいて謝罪の一つもないんですかぁ? 先輩ー?」


「ううっ……」


 しかもこの子、後輩……一年なのか。

 確かに背丈は小さく小柄、胸も随分と慎ましく、言ってしまえばロリ体型だ。

 が、目つきの悪さは半端なく、髪の色や態度のでかさで十分迫力が伝わった。

 ここでこれ以上絡まれて殴られるのも嫌なのでオレは素直に謝ることにした。


「す、すまん。ちょっとよそ見をしていた。ゆ、許してくれ……」


 そう言ってすごすごと頭を下げるオレ。

 というか、なぜ今日はこんなことになっているんだ。

 晴香さんには絡まれるし、華流院さんからは「嫌い」みたいなこと言われるし、厄日だ……。


「……まあ、謝ってくれるなら別にいいけどよー」


 そう言って少し機嫌を直したロリ不良であったが、ふとその目がオレが握る本『異世オレハーレム』へと向けられる。


「先輩。その本なんすか?」


「え、これ?」


 思わず表紙を見せると、なぜだかその子が食いついてきた。


「うわっ! なんすか先輩その表紙! キモ! ……でも、ちょっと可愛いような」


 そう言ってマジマジとオレが手に持ったラノベの表紙を観察する不良ロリ。

 そして、次の瞬間、その子は信じられないセリフを吐く。


「……なあ、先輩。それ見せてくれないっすか?」


「は?」


 一瞬、何を言ってるのか理解出来なかった。

 見た目明らかな不良のロリがオレが手に持ったラノベを見たい?

 なんの冗談だと思ったが、どうやら相手は本気のようで、今度は一際強い口調で命じる。


「いいから見せろって言ってんだよ。それとも力尽くで奪って欲しいんすか? 先輩」


「は、はい、見せます。どうぞ……」


 再びすごすごと『異世オレハーレム』を渡すオレ。

 それを手にとったロリ不良は表紙と口絵を見た後、パラパラと中身を拝見すると、再び信じられないセリフを吐く。


「……先輩。これ貸してもらっていいっすか?」


「はあ?」


 貸す? 借りる? 見た目不良のこの子が? というか読むの? ラノベを? よりにもよって、この『異世オレハーレム』を?

 呆気にとられるオレに対し、しかしロリ不良は気付いた様子もなく、そのまま本を片手に勝手に歩き出す。


「んじゃ、ちょっと借りますわー。読み終わったら返しに行くんでよろしくー」


「え!? いや、ちょ!? まだ貸すとは一言も言ってないんだけどー!?」


 勝手に本を借りて、どこかへ歩いていくロリ不良の背中にそう声をかけるオレ。

 あ、どうしよう……。ま、まあ、最悪借りパクされても家に帰れば予備と布教用があるからいいんだけど……。

 そう思いながらもオレは少し途方に暮れるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る