なろう小説をディスっていたら隣にいた学園一の美少女が絡んできた

雪月花

第1話 オレの隣の美少女の様子がおかしい

「おい、誠一。昨日のあの新アニメ見たかー? マジクソだったよなー」


「ああ、思った思った。つーか、あれってなろう系アニメってやつだろう? 転生した主人公が都合いいスキルもらって無双とかそんなんばっかマジああいうの話うっすいし、つまんねーわ」


「だよなー。オレもあとでネットで調べたけど案の定、なろうの小説だったよー。アニメひどいから試しに小説も読んだみたけど、内容マジひどすぎだよー。チープなハーレム物でさ。とにかく主人公が無双してヨイショされるだけの話だったわー」


「っていうアニメの作画もひどかったよなー。手抜き臭半端ないわー。あれスタッフどういう気持ちでアニメ作ってるんだろうな?」


「っていうかなろう系はもういいよー。ワンパターンだし、ハーレムだし、主人公つえーばっかでウンザリ。さっさと他のやつをはやらせてくれよー」


「分かるー。マジなろう系見飽きたわー。あんなのが売れるとか作者も出版社も楽だよなー。つーか、オレでも書けそうだよ。あんなの」


「分かる分かるー。ああいうの見るとオレも作家になれるわーって思うわー」


「お、それじゃあ、そろそろ授業始まるからまた後で話そうぜ、亮」


「おう、了解。またなー、誠一」


 そうして友人との談笑を終えたオレはため息をつき、椅子に腰を預ける。

 脳内では昨日見たアニメ――なろう原作の作品を思い出しながら「やっぱクソだなー」と愚痴をこぼそうとした瞬間であった。


「――矢川(やがわ)誠一(せいいち)君」


「え?」


 鈴のような声が耳に届く。

 隣を見るとそこいたのはこの学園一の美少女、華流院(かりゅういん)怜奈(れいな)であった。

 たまたま同じクラスの隣の席になったとは言え、これまでまったく接点もなく会話もなかった彼女がオレに声をかけた。

 その事実に思わず驚くオレであったが、彼女の次なる台詞にオレは思わず息を飲んだ。


「あれのどこがクソだったの?」


「へ?」


 一瞬、なんのことかとオレの思考が停止する。

 だが、そんなことに構わず華流院怜奈は続ける。


「ねえ、あの作品のどこがクソだったの? 具体的に言って」


「えっと」


 あの作品というと……ひょっとして、先ほどオレ達が話のネタにしていた今季の新アニメ『異世界転生したオレのハーレムが日本に侵略しに来た』のことだろうか。今季一番のクソ作品。ネットでもすでに叩かれているワースト1である。


「ええと、もしかして、それってさっきオレ達が話題にしていたなろう作品のこと……?」


「そう。あの作品の何がダメなのかキチンと答えて、論理的に」


 なぜだか華流院怜奈はこれまでに見せたことのない形相でオレを睨みつける。


 華流院怜奈。華流院グループのご令嬢。眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能とまさに非の打ち所のないパーフェクト女子。

 更に学内の人気も高く、下級生にも上級生にも優しいまさに理想のお人。

 普段は温厚で理知的で、誰かと話す時も笑顔を絶やさず、その麗しの姿に男女問わず魅了された者は数知れず。

 無論、告白も毎日のようにされ、その度に表情を変えることなくただ一言「ごめんなさい」と優しく謝る姿に、振られたはずの男子がなぜか満足げになるほどの美少女っぷり。


 これまで彼女が異性からの告白に対し、感情を見せたことは誰も見たことがない。

 そのあまりの落ち着いた態度から、華流院怜奈には喜怒哀楽の内、怒と哀の感情が欠落しているのではないと噂されるほど。

 実際、彼女が何かに対し怒ったり、悲しんだりした表情は誰も見たことがない。

 かつて、様々な男子が彼女の表情を崩すべく色々な努力をしたことがあった。

 だが、彼女の表情は変わらず穏やかで、優しげな笑みばかり。

 下級生や同級生のいたずらにも眉一つ動かさなかった。それが――


「ええと、まず最初の掴みがすごいありふれてる。っていうかああいうのってなろう小説で死ぬほど見たし、あとキャラが問題だよね。主人公が無双したあと「え? 別にこれくらい普通でしょう?」っていう常識知らずなドヤ顔。つーかなろう系で多い、あの無自覚無双の性格ってどうなの? 仮にもその世界に転移なり転生なりして周囲の力量を少し見れば自分と相手の実力差くらいなんとなく分かるんじゃないの? ああいういかにもすました感じの無双アピールがなーんか気に食わないんだよねー。で、それ見てすぐ惚れるヒロインとかベタ以上にドン引き。ヒロインのキャラも適当に属性詰めた連中ばっかで、あとは……」


「~~~~~~~~!! ……に、よ……! なによなによなによなによ! なによ―――!!!」


 オレが例の作品にダメ出しすると突如として華流院怜奈が立ち上がる。

 その顔はゆでダコのように真っ赤になり、眉は怒りで釣り上がり、しかし瞳の端には涙をあふれさせ、その顔には今まで見たことのない怒と哀の感情がこれ以上ないほど詰め込まれていた。


 今、彼女は怒っている。悲しんでいる。

 唇を噛み、まるで親の仇のようにオレを見ている。


「つまり、あなたから見たらあの作品はクソってことなの!?」


「ええと、うん、クソだね。クソオブクソだよ。なろう作品の中でも一際酷いクソ作品だよ」


「あああああああああああああああああああああああああああああああーーー!!!」


 オレの一言に華流院怜奈は立ち上がり、奇声をあげて走り去っていく。

 その光景をクラスの中で偶然目にしていた者達は信じられないものを見たと目を点にしていた。

 そして、それはオレも同様であり、あの学園一の美少女華流院怜奈が「ちくしょうー!」と呟いたのを去り際、聞いてしまった。


 その日からオレと学園一の美少女との奇妙な関係が始まるのだった。

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