第6話


 展望台の一番上まで上がると、黒兎と白兎がうつ伏せになって倒れているのがわかる。【奴】は、私の姿を見るや否や……興奮したかのような態度を見せ、軽快に話し始めた。

「ホォラ、来タ来タ! 随分ト遅カッタジャネェカ? 待チ草臥レチマッタゼ~~」

「ゲーデ……! よくも狸神を……!」

 死神は、『オイオイ、ソレハ誤解ダ』とにんまり笑った。

「悪イノハオ前ダロ? 俺ハオ前ノ生命ヲ狙ッタンダカラ。要スルニ、死ナナカッタ【オ前】ガ悪イ。シッカシ、マ~タオ前ノ代ワリニ他ノ奴ガ死ンジャッタネェ~? ウケル~! マジオ前ッテ厄病神ジャン! 次ニ死ヌノハオ前カナ? ソレトモ双子達カナァ? ウケケ」

 私はチラリと双子達の方に目を向けた。黒兎の腕は……もう駄目だろう。焼けてダラリと伸びきったそれは、思わず目を背けてしまうくらいに痛々しい。

 それなのに、死神の持つ【人形の身体】は一切焼け焦げる事なく……本人は、まるで何もなかったかのようにケロリとしていた。

 こいつ……やはり不死身か? 

「ね……姉様……何で来たんだよ? 殺されちまうぞ……早く島から逃げろ」

「……死にかけてんのはあんたの方でしょ、黒兎。醜い腕……それ、もう使い物にならないじゃない」

「僕達は、もう二度と姉様を死なせやしない。何があっても……絶対に」

「……馬鹿じゃないの。あんた達に何が出来るって言うのよ? ――ねぇ、白兎。あんた、もう立ち上がる事も出来ないじゃない」

 私なんかの事を心配する二人に対し、私はそんな言い方しか出来ない。今更、対応を変える必要もないだろう。私達の関係は、そんなに生温いものなどではないのだから。

 双子達は、そんな私の言葉に返事を返さない。いいや……返せない。既に虫の息なのは、簡単に見て取れた。

「……ねぇ? 死ぬの? あんた達、死んじゃうわけ? 犬死に? ねぇ? ……起きろつってんだよ。馬鹿共が」

 私の言葉に、二人はほんの少しだけ反応を見せたが……やはり声を出す事はなかった。

「オイオイ! 死者ニ鞭ヲ打ツヨウナ真似ハヤメナヨ~? 可哀想ダロウガ、ケケッ! 取リ敢エズサァ、オ前……死ナナクテ良カッタワ~。チョット試シタイ事ガアッテサ。暫クジットシテテネェ♪」

「……は? お前にそう言われて、じっとしている奴がどこにいるって言うのよ?」

 この圧倒的な力の前で、どれだけ私が抵抗しても……結局は無駄な足掻きだという事は理解していた。しかし、私は必ずこいつを葬り去らなければならない。そして、双子達を助ける。――そう決めたの。

「ソンナコエェ顔スンナッテ! マダ殺シヤシネェヨ」

「黙れ。お前の言葉など信じられるか」

「ッタク……ウルセェナァ? マ、イイヤ。スグ終ワルシ」

 死神が私に手を翳した瞬間、心臓がドクンと大きな音を鳴らし、おかしな感覚に包まれた。

 どう説明すれば良いのだろう? まるで、蛇が私という【皮】から脱皮したような……蝶が蛹から飛び出したような……そんな感覚だ。とにかく、不愉快極まりない。

 ――そう。それは、私の中から【私】が無理矢理取り出されていくような感覚。剥がされていくような感覚。引っ張り出されるような感覚。……あまりの不快さに、吐きそうだ。

「オッ⁉ イケタイケタ! 意外ト簡単ダッタワ。最初カラコウシトキャ良カッタゼ」


 ――私の前に、【私】がいる。


 ……くそっ、これは史上最悪のパターンだ。今でも圧倒的不利な状態なのに。

 私と瓜二つの顔が、こちらを見てニコリと微笑む。同じ顔をしていても、全く違う。私は自分の事を【天使】だと言うつもりは毛頭ないが、あいつより【悪魔】かと尋ねられたら、全力で否定するだろう。

 悪魔の申し子、絶望の魔女、呪われた妖精、そして……死の神によって生まれし存在。

 私はいつの間にか、その人物の名を口にしていた。

「……ティターニア」

「うふ! ご機嫌よう。……あら? 怖い顔。わたくしと同じ顔をしているのなら、もう少しにこやかに、可愛らしく振る舞ったらどうなんですの? 顔も中身もブスなんて、誰にも相手にされませんわよ? それにしても、や~っと表に出られましたわ。ゲーデ、貴方……とても良い子ね。わたくしだけの力だと、この先ず~っと出られなかったかもしれないもの」

 ティターニアは身体を屈めて、死神の頭を優しく撫でた。

「オ安イ御用サ、ティターニア! サァ、今カラ沢山殺ソウヨ! アゲイン! アゲインダヨ! ……ネ、ティターニア⁉」

 ――こいつ、さっきまでとは全然態度が違うじゃない。……成る程ね。ティターニアの事をうまく手の中で転がし、彼女に支配されている風を装おって、逆に支配しているってわけか。

 そうとも知らず、ティターニアは死神の頭に口付けを落とす。

 気付かなくても当然……か。だってこの女、男の事ばかりで、基本頭が悪いのだから。

「それにしても……あのお爺様のせいで、酷く窮屈な想いをさせられましたわぁ! あ~本当に憎ったらしい、うざったい老人でしたこと」

 ティターニアの言葉に、耳がぴくりと反応を示す。

 この女……今なんて言った? 

「けれど、ザマァミロですわぁ! 惨めに死んだ老いぼれ、みっともなく泣き喚く貴女! もうわたくし、笑いが込み上げてきて仕方がありませんでしたもの! きゃははははは♪」

 怒りが、殺意が……頂点にまで達する。惨めに死んだ老いぼれですって? お前達のせいで、私のせいで……狸神は死を免れる事が出来なかったというのに! 

 たとえどんなに悪党でも、生命だけは奪ってはならない。――狸神はきっとそう言うでしょう。

 けれど、お願い。これで最後にするから……どうか、私を許して。

「あ~! そうですわ! 貴女、あのお爺様から名を頂いたんでしたわよねぇ? 確か……【スカーレット】。何だか、貧相でダッサイ名前。けれど、貴女にぴったりでしてよ?」

「何、オ前? 名前ツイタノ? 赤兎ヤラ、モウ一人ノ赤兎ヤラ、ヤヤコシカッタンダヨナ〜。ソウカ、スカーレット……緋兎カァ。ネーミングセンスハイマイチダケド、セッカクダカラ俺モソウ呼ンデヤルヨ。中身ガ【スッカスカ】ノスカーレットチャン♪」

 死神とティターニアは、私の事を馬鹿にしたかのようにゲラゲラと下品に笑う。

 ――ああ、醜い。少し前までは、私もこいつらと同じ{類}(たぐい)だったのかと思うと……まるで、全身に{百足}(むかで)や{蚯蚓}(みみず)が這うような、ゾワゾワとした嫌悪感に苛まれた。

「そういえば……ゲーデ! 貴方、わたくしがスカーレットの中にいる時に殺そうとしたわよねぇ? 一体何を考えていたのかしら? あのお爺様がこの娘を庇わなければ、わたくしまで死んでいたところでしてよ?」

「ゴメンヨ~、ティターニア。アノ時ハ、ツイウッカリシテタンダヨ~。ゴメンネェ。ス~ッゴク反省シタンダゼ、俺」

「……ま、いいですわ。わたくし、と~っても寛大ですから。最終的には、わたくしをスカーレットの中に閉じ込めた愚か者が消える事になったんですもの。結果オーライでしてよ。わたくしに刃向かう者は全員、死んでしまえばいいんですわ! ……ねぇ、貴女もそう思いませんこと? 【元】殺戮人形のスカーレットちゃん?」

「――黙れ。それ以上お爺ちゃんを愚弄する事は許さない」

 怒りに満ちた私の声に対し、ティターニアはケラケラと面白おかしそうに笑っていた。

「あらぁ? このわたくしと闘うつもりですのぉ? ……ねぇ、スカーレット。お言葉ですけど、貴女……わたくしとの力の差を、もう少し理解してみてはいかがかしらぁ?」

 ……確かに、こいつの言う通りなのはわかっている。こんなふざけた女だけれど、【強い】という事だけは認めざるを得ない。

 狸神を含め、強力な力を持つ神々なら……こんな女の一人や二人、簡単に仕留めてしまうだろうけど……正直、今の私の力ではティターニアに勝つ事は難しいと思う。

 それに今、奴の背後には死神がついている。万が一、こちらが優勢になったとしても……きっと死神が手を貸すだろうし、そう簡単には殺らせてくれないだろう。

 しかし、ここでこの女に引けを取るわけにはいかない。

 私は腰に手を当てながら、目の前に立つ【自称妖精】を鼻で笑い、強気に言い放った。

「大体さぁ、あんた……何? 本来なら私達とは何の関係もないキャラクターなわけよねぇ? それを、何調子に乗ってイキがっているの? あんたは赤兎でも無けりゃ、私でもない。ようするに、要らない存在なわけ。ほんと、あんたってある意味……ゲーデの手によって好き勝手に作り上げられた可哀想な存在よねぇ。けど……同情はしない。あんたは本当に腐った奴だから」

「ふん……随分と大きく出ましたわねぇ? そもそも、貴女が腑抜けだからわたくしが生まれたという事をお忘れになって? 寧ろ、わたくしに感謝してもらいたいくらいですわぁ。出来損ないの貴女の代わりに、その肉体と精神に快楽を与え続けて差し上げたのですから♪」

 腕を組みながら、偉そうに踏ん反り返るティターニアに対し、思わず笑いが込み上げてくる。そんな私の姿を目にしたティターニアは、さも不愉快だと言わんばかりの顔をしながら、じっと私を見つめた。

 足をトントンと鳴らし、少し苛付いたような態度を見せるティターニアだが……どうやら、私がいきなり笑い出した理由が気になっているようだ。黙って私の言葉を待つ。

「……あのさ~?」

 私はティターニアを馬鹿にするかのように笑うと、大きく口を開いた。

「元々肉体のないあんたが必死にその身体にしがみ付いてる姿って……凄く滑稽だし、何だか見ていて恥ずかしいからやめてくれない? ――ああ、そうだ。あいつ……なんて言ったかしら? あの、あんたが欲してやまない人間……あれ程の死の呪いを一身に受けておきながら、なかなか死なないわよねぇ? 想い人を亡くした後でも、あの人間の心はその女のモノ。あんたみたいな変態……存在すらも覚えていないでしょうし、たとえ魂を手に入れる事が出来たとしても見向きもされないでしょうね。ふふ、おっかしい♪」

「……なんですって?」

 ティターニアの目付きが変わる。奴の逆鱗に触れた事など、承知の上だ。何故なら私は、ティターニアの中に封印されていた間、こいつの……その男に対する執着心と歪みに歪みまくった愛情を、嫌という程に見て、感じてきたのだから。

 ――【自分】以外の【女】が、あの男を語る事は許さない。

 それ程までに、ティターニアはその人間の男を愛しているし、既に自分の所有物であると錯覚していた。けれど、未だに手に入らない事実に……不満を抱えているのはごく自然な事。

 ティターニアは感情が高ぶっている時ほど、隙が生じる……だから、敢えてそこを突く。

 ――さぁさ、怒りなさい。ティターニア。私の言葉で怒り狂うと良いわ。

 そして、自ら自滅の道を進むがいい――


「……わたくしの人形の事を、軽々しく口にしないでくれます? 彼の話をしてよいのはわたくしだけですわ。それに、彼はきっとわたくしを愛する筈。……だって、このわたくしがこれ程までに愛しているんですもの! 彼の目も、鼻も、口も……髪も、手も、足も……心臓も、血液も、脈も、骨も、皮膚も……全てわたくしのもの。彼は、わたくしの人形になる為だけにこの世に生まれてきたの。わたくし達の愛は永遠。誰にも邪魔はさせませんので悪しからず♪」

 私の目論見は外れ、ティターニアは冷静に言葉を返してきた。

 先程、船の中でこいつは……【ミズホ】という娘の言葉に怒り狂い、我を失った。それが原因で隙だらけとなったティターニアは、間違いなく弱体化し……私の人格を再び引き起こしてしまうという失態を晒した。

 もう身体は別々になったとはいえ、怒りは大きな隙を生むと知ったティターニアは、同じ失敗をしないようにと警戒しているように見えた。

 ……チッ、少しは勉強したという事か。馬鹿は馬鹿なりに成長するものね。

 ――けどね、ティターニア。握りしめている拳が怒りで震えているわよ? 饒舌に話しているようだけど、声も震えてる。……あと、貴女ご自慢の可愛らしいおめめが真っ赤に血走っているわ。……正直な子ね。笑っちゃうくらいに。

「……あんた、本当にしつこいし気持ち悪いんだけど。いい加減に諦めたらどう? あいつの【女】、神の一人かと思えば、ただの人間だったのよねぇ? それなのに、どこで得た力か……物凄く強力な結界であの男の事を守っていた。ようするに、あんたの付け入る隙なんてないの。言わば邪魔者。いいえ、空気でしかない。わかればさっさと諦めなさいよ」

「――お黙りなさい。彼の【女】はわたくしなの。知ったような口を聞かないでくれませんこと? それと……もう彼の話はお止めなさい。貴女には全く関係のない事ですわ」

 私は、苛立ちが見え隠れするティターニアの言葉を無視し、更に話を続けた。

「……惨めな女。相手の人間に心底同情するわ。でも、今日でその独りよがりの歪んだ恋愛もお終い。だって、あんた死ぬんだもん。私に殺されるの。そして、あんたのその意中の男から死の呪いは消え……あんたの事なんか最後まで思い出す事もないまま、また新しい女を作り、幸せに暮らしていく。何ならあんたの事でも話しに行こうかしら? 『貴方に付き纏う寄生虫のような変態馬鹿女は私が殺しましたので、ご心配なく!』と。……そうだ、思い出したわ! 確か、名前はモリノ――」

「! その名を口にするなぁああ!」

 ティターニアは、ただでさえ大きな目を更に大きく見開きながら、私に向かって叫んだ。

「その名を口にしてよいのはこのわたくしだけ……! お前如きが軽々しく口にするなぁああ!」

 ティターニアから放たれた衝撃波により、私は展望台の端に追いやられ、背中を激しく強打した。

「くぅ……っ……」

「汚らわしい声で私の人形の名を呼ぶな。頭に思い浮かべるな。考えるな。想像するな。――殺すわよ」

 恐ろし過ぎて震え上がってしまうくらいの殺気が、私の身体全体にじっとりと纏わりつき、心までも蝕んでいく。……何が妖精だ、どう考えても悪魔だろ。

 私は痛みに耐えながらも、素早く立ち上がった。

「……ねぇ、スカーレット? 貴女、とても目障りでしてよ。わたくしがこうして貴女の身体から出て来た時点で、貴女はもうお払い箱。さっさと死んで下さらないかしら? それに、次がつかえておりますの。……タチバナミズホ。あの女、このわたくしを随分とコケにしてくれましたから」

「お生憎様ね。その人間の小娘を殺す前にあんた、既に死んでるから」

「ウケル~! オ前ラ、マジオモシレ~!」

 私達のやり取りを一部始終見ていた死神は、腹を抱えながらケタケタと笑い転げていた。

「イイジャンイイジャン! オ前達ノドチラガ正義カ……一度、二人デヤリ合ッテミロヨ? ……実ハ俺ェ、今スッゴクヤリタイ事ガアルンダヨネ~。ダカラチョット、ココカラ離レルワ」

 そう言うと、死神はヒョイッと立ち上がった。

 ――こいつ、このタイミングでティターニアから離れるなんて……一体、何を考えているの? ティターニアが私なんかに負ける筈がないという確固たる自信でもあるのか? それとも……

「トニカク勝ッタ方ガ正義、スッゲ〜シンプル! ウププ! ジャア、俺行クカラ!」

「……ちょっと待ちなさいよ」

「ウルッセェナ~……何ダヨ、スカーレット」

「……ねぇ、ゲーデ。あんたはどっちが勝つと思う? やっぱりティターニア?」

 何故こんな質問をしたのかなんて、私にもわからない。……けれど、どうしても聞いてみたいと思ったのだ。それは多分私の中で、ある確信が芽生え始めていたから。

「ン~、トテモ良イ質問ダ! グッド! 特別ニ教エテヤロウカナァ? 俺ッテスッゲェイイ奴ダシィ。オ前モソウ思ウダロ~?」

「そんな事はどうだっていい。早く答えて」

 私の言葉に死神がニンマリと不気味に笑う。それも、とても厭らしく……何か良からぬ事でも企んでいるかのように。

「……俺ハ、ドチラモ勝タナイト思ウゼ? イイヤ、勝テナイノ間違イカナ? ダッテ、オ前達二人共【正義】ジャネェンダモン! ……正シクモナイオ前達ガ、果タシテ勝利ヲ手ニスル事ガ出来ルノカ? フハッ、コレハ見モノダゼ! ナァ……奇跡ヲ起コシテクレヨ。ソシテモット俺ヲ愉シマセロ。俺ハココカラ離レルガ、全テヲ見テイルカラナ……」

 死神はそう告げると、突如背後に現れた闇に溶け込むようにして、その場から消え失せた。

 ――どちらも勝たないと思う、……ね。

 私はくるりとティターニアの方に振り返ると、ニコリと笑ってみせた。

「ねぇ、ティターニア。よく考えてみれば、あんたも可哀想な女だったわよね。勝手に生み出された上、本になぞらえて男好きの設定にまでされて……まるでコンピュータだわ」

「あ~ら? 同情してらっしゃいます? それなら要らぬ世話ですわ。だってわたくし、とっても幸せなんですもの! 後悔なんてしていませんし?」

「――そう。でも……それも今日で終わりにしてあげる。さぁ、無へと帰りなさい。中身を持たない哀れな【人形】よ」

「……お生憎様。消えるのは貴女の方でしてよ? わたくし、まだまだ生きていたいんですもの。こんな所で死んでたまるもんですか」

「……ティターニア。これは、私とあんたの最期の闘い。さぁ、思う存分闘いましょう」

 ――ねぇ、私を選ばなかった島の神よ。貴方はきっと……最初から、私が赤兎ではないと見抜いていた。だから、双子達だけを継承させたのよね? 

 私が全て間違えていました。どれだけ悔やんでも、死んでいった者の命は戻らない。

 赤兎は私のせいで死んだ。そしてティターニアは、私のせいで生まれた。全ては私が元凶。

 赤兎はもう戻ってこない。私は何もしてやれない。けれど、ティターニアだったら或いは……

 ――夜宴の島よ。これは最期のお願いです。もしも、もしも願いが叶うなら、この哀れな女に本当の【幸せ】を。

 ……ねぇ、ティターニア。赤兎とあんたと私の三人で、あの世でお茶会でも開きましょうよ。ふふっ、きっとソリが合わないんでしょうね。だって私達、姿形はそっくりでも中身が全然違うんだもの。……けど、それはそれで案外うまくいくかもしれない。あんたが馬鹿やって、私がそれに冷たく返す。そしていつものように大喧嘩。それを、赤兎が優しく宥めるの。

 いつの間にか三人の間には笑いが溢れ、世界はあっという間に美しい変化を遂げる。

 ――そう、信じてみたいんだ。

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