包帯公爵の結婚事情

奏 舞音

結婚事情編

プロローグ

 人嫌いで、恐ろしい噂の絶えないベスキュレー公爵が結婚する。

 その報せは、ベスキュレー公爵領にあるリーベルトにかなりの衝撃をもたらした。


「あの公爵様が結婚を?」


 ある者は信じられない! とあわてふためき。


「政略結婚だろう。花嫁さんは大丈夫かねぇ」


 ある者は花嫁に同情し。


「結婚して少しでも公爵様が変わってくれりゃいいんだけどね」


 ある者は淡い期待を抱き。


「公爵様が追い出すのが先か、花嫁が逃げるのが先か……」


 ある者は賭けの材料に。



 とにもかくにも、領民たちの主、ベスキュレー公爵家当主アルフレッド・ベスキュレーは花嫁を迎える。

 彼の別名は、【包帯公爵】。

 人と関わることを極度に嫌い、領地に引きこもっている変わり者。

 さらに、他人と触れ合うことさえも厭い、彼は全身に包帯を巻き、素顔を隠している。

 包帯公爵は、人間を恨んでいる。

 包帯公爵は、死地より蘇ったミイラである。

 包帯公爵は、人間の皮膚を蒐集している。

 などという噂が真しやかに囁かれているため、包帯公爵に近づこうとする勇者はなかなかいない――彼の直属の上司である、国王陛下以外は。


 この度の結婚は、ヴァンゼール王国国王ザイラック・ヴァンゼールによって強引に進められた。


 果たして、この結婚が【包帯公爵】にどんな変化をもたらすのか。


 ベスキュレー公爵家の屋敷に向かう花嫁の馬車を、領民たちは不安と期待の眼差しで見送った。

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