5話 彼女の証明
家に戻り今はアニスとテーブルを挟み向かい合って座っていた。
外では村の人達が騒がしく結界を張る準備をしていた。
「……」
「……」
静寂が部屋を包む。
やばい、何から話せばいいのだろう?
色々と聞きたいことがあるんだけど……。
「……」
「……」
ええいままよ! 考えてもしかたないとりあえず話を切り出すんだ俺!
「えっと……さっきアニスは森で俺のことをマスターって言ってたけどどうゆうこと?」
「はい、あなたが私を必要と言ってくれましたのであなたをマスターとして認めました」
「え、それだけ?」
「はい、それだけで理由は充分です」
「そ、そうか……」
そこで会話が途切れまた静寂が訪れる。
なぜ森にいたのか聞いていいものかと考え込んでいるとアニスがぽつりぽつりと話しだした。
「私は捨てられました」
「捨てられた?」
「はい、創造主様は私を手に持った瞬間「これは駄目だ」と言ってすぐに私を捨てることを決めました。それから300年私は誰にも使われることのないままあの森にいました」
「なにか具体的な理由とかはなかったのか? 俺からすれば君ほど強くて立派な剣なんてないと思うけどな」
「ありませんでした。ただ「駄目だ」とそれだけ……」
悲しそうな顔をして言う。
「悪魔の姿になれるならこんな東の辺境の場所にいるんじゃなくて、どこか別のとこにでも行って誰かに拾われたほうが良かったんじゃないか?」
ふと疑問になったことを聞いてみる。
「それは不可能です。私単体では行動できません、一応武器なので誰か持ち主がいないと自由にこうして悪魔の姿になれないのです。もし仮に自由に動けたとしても私のような駄作は誰も手に取ってはくれません。」
アニスは話していくうちに顔をどんどん暗くし落ち込んでいる感じだった。
それを見て俺は居ても立ってもいられなくなってしまい。
「アニス、今剣になることってできる?」
「は、はい大丈夫ですが。マスター?」
アニスは話しの流れが掴めてないのかキョトンとしている。
「俺がアニスを使ってみて確認する。アニスが駄目じゃないってことを証明する!」
「え? あの.....」
「今は俺がアニスのマスターなんだろ?ならマスターである俺が実際にアニスを手に持って使ってみて駄目かどうか決める!」
「え、あの、その……」
「さあ早く!」
「は、はい!」
謎理論を押し付け、俺が急かすとアニスは剣の姿に慌てて変身した。
「やっぱり綺麗だ……」
さっきまで女の子がいたところに黒いシンプルなデザインの片手剣が現れる。
「い、いくぞ?」
「はい、どうぞ……」
「それでは失礼して」
ゴクリと生唾を飲み込み剣を掴み持ち上げてみる。
「な、なんだこれ!?」
剣は羽のように軽く全く重さを感じさせず本当に自分が剣を持っているのか分からなくなるぐらいだった。
試し何かを斬ってみようと思い外に出てみると、どこかから村の人達の悲鳴が聞こえた。
「ま、魔物だぁぁぁぁぁぁ!」
「魔物!?」
「に、逃げろ!」
村の人達が悲鳴を上げ突然の魔物の襲撃に混乱する。
「魔物だって!? まずいこのままじゃみんなが危ない!」
声のした方へ俺の足は勝手に動き出していた。
「マスター、魔物の数ですが先程森で倒した魔猪と同じ物の反応が4体ほどあります」
アニスは走っている俺にそう言ってきた。
「わかるのか?」
「はい、魔力探知で大まかな数とその魔物の種類はわかります」
「すごいな数と魔物の種類がわかるなんて、でも4体か……」
数が多いな、俺と村の男達を合わせてもあの猪を1体倒せるか倒せないかなのだ。
それが4体もいるなんて考えたくもない。
村の中で戦闘職なのは元騎士のガーディアだけあとは俺を含め全員が非戦闘職ばかり、かなりまずい状況だ。
そのガーディアでもどれだけ戦えるかどうか……。
「早くしないと……!」
走る速度を上げて声の場所まで急ぐ。
・
・
・
声がした場所に着くとそこは酷い有様だった。
一生懸命耕した畑はぐしゃぐしゃに荒され、近くにあった家もいくつかボロボロに壊されている。
魔猪の数はアニスの言ったとおり4体。
そしてその魔猪4体をガーディアが一人で対峙していた。
「ガーディア!」
「レイルなぜここに!? お前は家に戻たんじゃないのか!?」
突然現れた俺を見てガーディアは驚く。
「声が聞こえて急いできた、加勢するぞ!」
「馬鹿言うな早く逃げろ!ほかの人たちはもう逃げたお前も早く....」
「それこそ馬鹿言うな! 俺も戦う!」
「戦うって言ってもお前武器はないだろ? どうやって戦う気だ!」
「それならここにある!」
剣になったアニスを見せて無理やり納得させる。
「お、おいレイル!」
「アニス! お前の力みせてくれ」
「かしこまりましたマスター。それではマスターに私の魔法、スキルを全てお渡しします」
ガーディアのことを無視してアニスは言う。
「え? そんなことできんの?」
初耳である、てっきりこのまま戦うものだと思っていた。
「はい、私は武器です、誰かに使われて初めて真の力を発揮します。さあマスター行きますよ!」
「お、おう?」
「クソっ、死ぬんじゃないぞレイル!」
ガーディアは諦めた顔でそう言って魔猪との戦闘を再開した。
瞬間剣から黒いオーラが出て俺の体に入り込んでくる。
「な、なんだこれ!?」
「それは私の力の集合体のようなものです。体に害はありませんがそれを体に取り込んでいるあいだは身動きがとれません」
え?それってかなり危険なのでは?
そう思いながらも、黒いオーラが入ってきたことによりなにか強い力が溢れてくる。
不思議と恐怖心はなく入ってくるオーラだけに意識が集中していく。
するとガーディアと対峙していた2匹の魔猪がこちらに気づき突進してくる。
「流石にレイル1人に2匹は荷が重い、逃げろレイル!」
ガーディアが焦りそう叫ぶが俺には一言も聞こえていなかった。
猪との距離は約10m、片方の猪と衝突するあと数十cmのところで黒いオーラが全部自分の体に入り体が自由になる。
棒立ちのまま魔猪めがけて力いっぱい剣を横に斬りつけ、一撃で魔猪を真っ二つにする。
続けて来るもう片方の魔猪には上段から剣を振り下ろし、ものすごい速さで最初の猪と同じように真っ二つにする。
何も考えずそのままガーディアのもとへ行き無言で三匹目の魔猪を左下から右上へ斜めに剣を一振りして斬り殺す。
最後にガーディアが対峙している魔猪を後から剣を横振りで斬る。
その全ての動きは農民の動きでは到底なく、異常な光景であった。
「……何が起きた?」
そしてただの農民が一瞬の間で4体の魔猪を殺した姿を見てガーディアは口をあんぐりと開けて呆然としていた。
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