『血』

 

 静かだ




 あなたは誰


 ウソ


 私?




 私ね


 一回死んだの


 でさ


 何でかまた生きてるの





 泣けて泣けてしょうがないの


 どっからこんなに涙が湧いてくるんだろうね


 そんなこと思いながら下を見る


 目からこぼれたしずくが作った模様の色を見て驚く


 血だ





 泣くこと


 それは命を注ぎだすこと


 魂のすべてを震わせること


 私は泣いた


 泣いた


 泣いて


 泣きつかれた頃


 血をすべて注ぎだした私は


 朽ち果てた


 

 


 血とは命


 だから私は血溜まりの中から立ち上がった


 死ねない


 死なない


 私は生きる





 私は私じゃないみたいだった


 記憶はある


 以前の自分と同じだと思う


 でも何かが違う


 何だろう


 恐れがない


 何も怖くない





 だって一度死を味わったから


 死はもう私に対して何の力もない





 私に残っているのは愛する力


 ただそれだけ


 もはや自分だけの幸せを求めない


 愛した者も幸せになること


 笑顔になること


 それこそが私の幸せ


 生きているのは私なのか


 それとも何かが乗り移ったのか


 それとも私の中の余計な部分がすべてそぎ落とされたのか


 よく分からない




 でもただひとつだけ言えること


 私は折れない


 倒れない


 そして死なない


 たとえ死んでも生きる





 愛しい人


 優しい人


 自分のすべてを失っても惜しくない人


 いまどこで息をしていますか


 楽しいですか


 もう眠っちゃっていますか


 いい夢を見てるでしょうか





 私は今日も人知れず血を流す


 ひとしきり泣いて


 また死ぬんじゃないかと思うくらい泣いても


 永遠に死ぬことはない





 血溜りから立ち上がった私は


 体を洗い 服を着替えて


 笑顔でまた





 歩き始める

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