『永遠の夢』

 やぁ


 あなたはどうしてここにいるの?


 ……愛する人を待ってるの


 こんな、氷に閉ざされたところで?


 帰ってくるの?


 ……死んだわ


 じゃあなんでここにいるの?


 ……分からない




 私は世界中を巡った


 またいた


 やぁ


 あなたは何をしているの?


 ……戦争に行った夫を待っているの


 帰ってくるの?


 ……死んだって


 じゃあなんで待ってるの?


 ……待ちたいから





 やぁ、こんにちは


 ……父さんと母さん、知らないかな?


 いないみたいね


 ……なんかでっかい爆発みたいな音がして、それっきりなんだ


 死んだんじゃないかな


 ……じゃあもう会えないね


 知らないのかい


 君も死んでるんだよ


 ……そうなの 


 なんで君だけそこで待ってるの


 ……わかんない




 ある者は40年

 

 ある者は150年


 またある者は千年


 みんな待ち続ける


 帰って来ない者をいつまでも


 そしてこれからも待ち続けるのだろう


 永遠に





 無駄だと心のどこかでは分かっているのに


 彼らをそこに縛り付けるのは何か


 それは赦せない心


 どんなことがあっても譲ることのできない一線


 永遠の安らぎを蹴ってでも持ち続けたい恨み


 それでしか自分の存在意義を見出せなくなった者たちの


 最後の意地





 みんな そんな悲しい目をしないで


 楽しかった日を思い出して


 笑った日を思い出して


 ……そういえば思い出したわ


 愛する者を失って千年を待った女は表情を緩めた


 ……彼と生きていた時、楽しかった


 150年夫を待ち続けた妻は言った


 ……庭に花を植えて、休みの日には山の小路を散歩したわ


 40年廃墟に座り続けていた男の子は言った


 ……父さんとキャッチボール、楽しかったなぁ


 他にはないかな?


 ……あと、母さんとは砂場で大きなお城をつくったよ





 みんな 笑ってみようよ


 あなたがたが世を憎むのは分かる


 世を赦せないのは分かる


 でも


 あなたがたの愛する人たちは喜んでいるかしら


 ああ私のことをそんなに思って待ってくれているのかと


 喜んでくれると思いますか


 あなたがたを見て悲しむんじゃないですか


 あなたがたが自分をその地に縛り付けるものから解放されること


 そしてあなたがたに心からの笑顔が戻ること


 それが皆の待っている人の望みじゃないんでしょうか


 だからいつまで待っても待ち人に会えないんですよ




 ……見えます


 千年の女は、ほころんだ表情で海を見る


 彼女は氷の消え去った海に、かつての恋人を見た


 ……おかえりなさい、あなた


 150年の女は、遠くから手を振る復員した夫を瞳に収めた


 ……待ってたよ まだ外明るいからキャッチボールできるね!


 40年の男の子は、父母の足元にまとわりついた





 せっかくだからみんなで行きましょうよ


 私たちのホーム(故郷)へ


 私たちが手をつないで光に向かって歩いていた時


 男の子がうしろを振り向いた




 ……みんなも、こえられないこころのかべなんてホントはなかったって 気づくといいね


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