ひまりサンルーム①

 誰もいない教室にいると取り残されて この世界には私しかいなくなったんじゃないか? と思えてしまう

私はそれを望んでいるのかもしれない

 どうして昔から上手く行かないんだろう?

 どんなに思ってもどんなに考えて行動しても

 結局はこうなるのかな……

 私が我が儘だから?

 私が嘘をついてたから?


 予想通りと言うのか予想外と言うのか有効投票数の9割以上を稼いで優勝したあかり。ミスコンでのあかりは全てを思い出したかの様に 晴れ晴れとした笑顔を振り撒いていた

 アイコンタクトで通じちゃう双子って こういう時は便利だよね


 あかりが6年ぶりに目覚めて陽太君に向けた言葉


『あかりと恋人ってのになろうよ』


 あれが全ての続きの始まりだったんだよね

神社から公園に向かう途中 事故にさえ遇わなければ あかりは陽太君に そう告げたはず そして陽太君もきっと……


 最初から知ってたよ 陽太くんが昏睡状態のあかりに向けて告白していたことも 恋愛アプリにハマっていた事もあったかも知れないけれど 陽太くんの本音でもあったんだ 陽太くんはまだ知らないだろうけど


 あかりにとっての物語の主人公ヒロインはあかりだもん

 好きあっていたお姫様と王子様は、事故のせいで互いに眠ってしまいました。昏睡からいち早く目覚めた王子様は記憶が飛んでいたものの お姫様の目覚めを根気強く待ちました。その甲斐もあったのか、だいぶ遅れて目覚めたお姫様も記憶が抜けていたものの全てを思い出し 王子様に真実を告げて2人は仲良く幸せに暮らしました

 これ以上ないハッピーエンド間違いなしだよ 現実では悪役わたしが唆しておかしくなっちゃってるけど


 窓へと近付きため息を付きながらグランドを見下ろすと、文化祭を楽しんだ生徒達が帰宅していた。

 その中の男子生徒の1人が振り向き私に気付くと 周りにいる男子生徒達に呟き、一斉に振り向いては羨望の眼差しとともに私を見上げる もう見慣れた光景だ


 グランドから窓越しに映る教室に視線を移す 文化祭でも使われない、空き教室に差し込むオレンジ色の夕日は懐かしく感じ

 外の世界の喧騒と教室の中の静けさの対比が、何故か幼い頃にあかりと陽太くんと遊んだ帰り道を思い出す

 あの頃に戻りたい 戻ってやり直せたら良いのに


 思わず夕日の眩しさに目を細める 、普段の私はこうして良く外を見る振りをして 窓越しの端に映るあかりと陽太君を盗み見ていたんだ


 私といる時の陽太君は 大きく口を開いて手を叩きながら楽しそうに笑ったりしない

 私といる時の陽太君は 軽い感じで肩や頭を叩いたりはしてこない


 あかりと私の性格が違うのは分かるけれど

 でも 私といる時よりも陽太君らしい陽太君がいる


 何て言えば良いのか分からないけれど 私の1番好きな陽太君の姿は

 あかりと一緒にいる時の陽太君なんだ……


 じゃあ 私といる時の陽太くんはどうなんだろう?

 楽しいのかな? 一緒にいたいと思ってくれてるのかな?

 陽太くんといると体温が上がって ドキドキが止まらない私とは温度差が出来てるのかな?


 増えていくだけのクエスチョンは積もり積もって

 パニックを引き起こす

 クエスチョンの中で、もがいても沈んでいくだけだ

 息苦しさで溺れてしまう


 戦略的撤退なんて都合良く変換させたけれど

 やっぱり私は逃げてるだけなんだ

 その癖に陽太くんを取られたくない気持ちだけはこびりついて落ちない


 窓に映る誰もが口を揃えて『可愛い』と言ってくれる自分の顔を私は可愛いとは思えない

 作り物の顔だから 何とか感情が出ないように閉じ込めて ボロが出ないように他人からは距離を置いて

 普段は作り物で空っぽのお面が張り付いている それが氷の美少女と言われる『鈴影ひまり』

 陽太君の前だけは 陽太君といる時だけは 張り付いたお面は脆くも剥がれ落ちる

 心と顔がすぐにリンクしてしまう


 物語の主人公ヒロインが私なら 私はどんな結末を望むのだろう こんな性格の悪いヒロインなんてダメなんだろうな

 やっぱり悪役がお似合いなのかも


 明日の劇で私が本当にアンドロイドになったら良いのに 一切の感情を捨ててプログラム通りにし動かない 外からの情報にも感情にも流されない打算も計算もない美しい自分だけの世界

 中から見ているだけの作り物の完璧な世界


 明日が来てほしくない思いと同時に早く楽になりたい気持ちがせめぎ合う

 私はかこを正しい現在いまへと導く事が出来るのでしょうか?

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