あかりミラールーム

 ふっふっふ まぁ このあかりにかかれば クルースを優勝させる事くらいは造作もないことよ

『名プロデューサーあかり』の誕生ね。


 舞台袖から見るクルースは、6年間の空白で本来なら受けていたであろう称賛をまとめて受け取るかの様に、会場の色んな所から飛び交う祝福の言葉を浴びながら、次々に女子生徒たちに抱き締められていた。


 輪の中心にいたクルースと目が合う


 あ~あ 無理に輪から抜け出そうとしてるから ティアラも取れちゃったし髪もグシャグシャになってるじゃん

 もう 薄いメイクとはいえ泣いちゃってるから目の周りは薄黒くなってるし


「ありがとう御座いました。次はあかり先輩の番ですね」


 小走りに掛けより頭を下げるクルース

 くっ! 頭を上げたクルースの飛びっきりの笑顔に同じ女の子なのにキュンとしてしまった


 素直過ぎるクルースは何かむず痒いなぁ

 年下からこんな風に言われる事も初めてだし


「べ 別に……ゲームでテレジアにレアアイテムくれたお礼だから」

「何ですか? そのツンデレにもなってないツンデレは? ここからが『来栖ひなた』の再スタートです! もう俯くのは止めます。あかり先輩も高等部のミスコン期待してますね」


 きっかけは、あかりが作ったのかも知れないけど

 クルースは自分の力で自分の言葉で自分の行動で自分と周りの評価を変えたんだ

 凄いよクルース ほんと凄い!


『時間も押してるので、 30分の休憩を挟みまして、日桜学園高等部ミスコンに移ります。出場者の方も準備お願いします』


 少しだけ焦ってるような赤ピの声がマイクから伝わる。次はあかりの番か、あかりはクルースと違って陽太からの評価しかいらない。他の人の評価何かどうでもいい 陽太だけがあかりを知っていればそれでいい


「あかり。早く準備しとけよ。あと、何をやるか知らんが、常識の範囲内にしとけよ」


 控え室に戻る途中で向かいからやって来た陽太に声を掛けられた


「あかりの常識が世間の常識と一緒なのか知らないけど。って、その紙袋なに? 」


 陽太の右手には見覚えのある白い紙袋が下げられていた


「あ あぁ これは劇で使うやつだ。気にすんな」

「ふ~ん。 まぁ良いや、ミスコンでのスペシャルな、あかりちゃんで目を焼いてなさい」

「いや、ビシッと指を差されて宣言されても、目に焼き付けておきなさい。だから」

「魔法少女だから良いの」

「何が良いのか分からんが、あかりらしいのは楽しみだよ。ただ、常識の範囲内でな! 」


 去っていく陽太の後ろ姿に小声で


「そんなに言わなくて大丈夫なのに、陽太目っ掛けて~~マジカルふぁに~」


 陽太の背中に人差し指を向けてクルクルさせた

 あかりの好きな魔法少女の技の1つだ。


 ってか、ミスコンに出るのはひまりちゃんに対する対抗心でしかない ひまりちゃんが殿堂入りしてるなら直接対決は出来ないけど それ以上のインパクトでミスコンの称号を手に入れる!

 その為の道具も用意した あかりにしか出来ないミスコンにしてやるんだ!



 ※※※※


『以上で前半終了です。30分の休憩後、ランウェイと最後にミスコンに掛ける想いを述べてから投票に移ります』


 ふふん。楽勝も楽勝ね 自己紹介でも質疑応答でも 没個性の塊みたいな答えしか出来ない子ばかりじゃん

 ステージに立てば興奮したり、違った景色や世界が見えるかとも思ったけど、何も変わらないじゃん


 舞台袖から控え室に戻り鏡の前に座る 他の出場者は早々とランウェイでの試着室へと向かったのか誰もいなかったのでとても静かだ

 意気込んでいた自分を落ち着かせる為に深呼吸をする


 さてと背伸びしたメイクもお洒落も今のあかりには必要ない。手に取ったこのお面だけあれば、あかりは無敵になれるのだ


 鏡に映る自分の顔を見ると幼いひまりちゃんがいるのかといつも思ってしまう

 なんだ。やっぱり、ひまりちゃんもあかりと同じ子どもじゃん。と、安心してからとてつもない虚無感が襲い、自分の顔だと再認識する……鏡を見るのは好きじゃない。自分が幼いと言う事実を無理矢理にでも告げてくるから


 双子なんだから似てるのは当たり前なんだけどね

 じーっと鏡に映るそれと対峙していると少しずつ、ぐにゃっと顔が醜く潰れ 鏡の中のそれが口を開いた


『どうして双子で産まれて来たの? どうして同じ人を好きになってしまったの?

 あかりは勝手にいなくなった癖に途中からノコノコ現れて上手く行っていた恋人の2人を引き裂いたんだよ』


 鏡の中の醜い自分が狂った様に笑いかけては ねじ曲がった口で甲高く叫んでくる


『お前は何て言った? あの時に? 何て言ったんだい? 被害者面して醜いねぇ あぁ何て醜いんだい 醜い醜い醜い醜い……』


 なにこいつ!! 咄嗟に履いていた靴を思いっきり鏡に向けて投げつけた

 この日の為に買ったショートブーツはヒールが折れてしまい 鏡にはヒビが入った程度だった


 潰れた顔は縦や横に広がったり縮まったりしながら ヒビ割れた鏡の中を動き回り目を瞑っても耳を塞いでも甲高い叫び声は脳内に木霊する

 嫌だ 消えろ! 消えろ消えろ消えろ消えろ……


 そうだ! お面を被れば

 耳を塞いだ手に持っていたお面を被ると


「あかり? あかり? 」


 肩を強く揺さぶられて目を開けると

 鏡の中の醜い顔は消えていて 鏡越しに陽太と目が合った


「陽太……」

「うぉ! びっくりした。お面したまま寝てたのか? 」

「大丈夫。ちょっと徹夜でゲームしてたから」

「ミスコンを控えてる前日に余裕だな。って、鏡ヒビ割れてるけど、なんだ? 何があったんだ?? 」


 まだ鼓動が落ち着かない 血が巡ってないのか体に力も入らないし寒い

 お面を取ったら自分が消えて、鏡の世界に吸い込まれしまうんじゃないかと思えた


「どうしよう、ヒールが取れて靴が……」

「靴? これか。あ~あ ポッキリいってるな。そのお面と言い、あん時はサンダルの緒が切れたんだけどな」


 そっか この魔法少女のお面は夏祭りに陽太が買ってくれたんだった

 懐かしいなサンダルの緒が切れて陽太におぶられて帰ったっけ


「ちょっと待ってろ、少し早いけど逆に魔法少女なら丁度良いかもな」


 控え室から出てすぐに戻ってきた陽太の手には紙袋が下げられていた


「それ、明日の劇で使うんでしょ? 」

「いや、本当はミスコン優勝のお祝いに渡そうと思ってたんだけど」


 紙袋からは、見慣れたブランド名が書かれた包み箱が出てきた


「開けていいぞ。もう、前祝いだ! 」


 訳が分からず箱を開けてみる


「え? これって あれでしょ? うわー まさかここにあったなんて!」

「おっ! 反応的には、やっぱこっちで良かった感じだな」

「陽太との帰り道でショーウィンドウ越しに靴屋さんで見掛けてから、欲しくて欲しくてたまらなかったのに、いつの間にかなくなってたから後悔しててさ。だって、このお面の魔法少女が履いてるパンプス何だよ! 今日の衣装ともバッチリだし!! 」

「あん時はメインに飾ってあるヒール、ぱ パンプス? だかってのを見てたのかと思ってたけど、何か視線が違う気もしてたから」


 私はもう片方のショートブーツも脱いで 陽太に向けて足をブラブラさせた


「な 何だよ? 」

「エヘヘ」

「へいへい 優勝祝いだからな」


 包み箱から出された靴からは淡いピンクと白色がキラキラ輝いて かかとにあしらった羽からは本当に空を飛んで何処にでも連れてってくれそうな気がした


「ほら ブラブラ動かすな」


 陽太に足を掴まられると くすぐったくて思わず引っ込めてしまった


「お前なぁ 自分で履けよ」

「えぇ あかりの優勝のお祝いなんでしょ? 今度は大丈夫だから」


 くすぐったいのを我慢した 靴はピッタリと入り 高揚感からか鳥肌が立つ


「優勝おめでとう。さすがはあかり。魔法少女でミスコン優勝するとはな」


 そう言いながら逆足に靴を履かせてくれる陽太

 両足に輝く魔法の靴は あかりに勇気をくれる もう何も怖くない!


「陽太こそ魔法使いじゃん」

「な なんだよそれは、30歳までにアレだったら魔法使いになれる。って、都市伝説だろ。まだ13年は残ってるぞ」

「むぅ~ 折角の空気を壊さないでよ! だからモテないんだよ」

「ってか、そのお面と衣装に靴で完全に魔法少女だな」



 ヒビ割れた鏡と対峙する

 魔法少女が微笑んでいる

 お面を取ろうと手にかける

 大丈夫 怖くなんかない

 大丈夫 あんなのに負けない

 大丈夫 過去を受け止める覚悟は出来たから


 お面を取りゆっくりと目を開ける

 陽太から貰ったパワーで自分に魔法を掛ける


 文化祭が終わったらやり直そう6年前の続きを

 今のあかりなら大丈夫!

 鏡に向かって微笑んでみる

 私はかこに微笑んだ



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