クルースのターン

 あ~あ 予想してたより酷いんだけど

 控え室のモニターから見てたが、別に自己PRだって、他の出場者よりもしっかり出来てたし、受け答えもおかしくない……が、何故か来栖の番になると失笑が上がる


 知り合いが失笑や冷笑を浴びてる姿は胸糞が悪い

 そういう奴らに限って数人以上のグループになってて、来栖を見ると互いに共有するかの様に笑い合う

 そして得体のしれない空気は生き物の様に蠢いて 他の観衆にも伝播していき

 モニター越しにでも完全に来栖の時だけ場違いな空気へと変わっていくのが分かる


 そんな中でも顔を下げず、ステージに上がり続けてるだけ来栖の覚悟も強いのかもしれない



「それでは前半は終わりになります。15分の休憩後、後半がスタートになります」


 海斗の声がマイクから響き渡る

 前半でこれなら後半のランウェイと特技披露での挽回は難しいな

 俺も甘く見ていたかもしれない

 結局、力にはなれなかったけど最後まで来栖に付き添う責任はある

 来栖が戻ってくる控え室へと向かった



 ノックをしドアを開けると俯きながらペットボトルを両手で包み込んでる来栖しかいなかった

 他の出場者は着替えで試着室にでも行ってるのだろう


 来栖は俺に気付くと弱々しい笑みを浮かべた


「先輩……何かすみません。私って逆に凄くないですか? 」

「なにがだよ? 」

「だって、私の時だけ空気が変わるんですよ? みんな揚げ足と言うか、面白がる所がないか。って、私の言葉尻ばっか気にしてて。面白いですよね」


 純粋にそう思ったのか、強がりから来た言葉なのか

 来栖のスマホがテーブルの上で振動を始めたが 流れ的に電話に出ることが出来ないのか放置していた


「ま まだ後半が残ってるだろ」

「そうですね。後半もピエロみたいに笑われるんでしょうね」


 やっべーー 完全にネガティブモードになってらっしゃる 少し前までは『優勝出来そうな気がします』とか言ってたのにーー!

 ステージに上がり続けてるのは覚悟ってより、開き直りか


「『変わる』って難しいですね、自分では変わったと思ってても、他人には伝わらなかったり……先輩は何でゲームで女キャラにしてたんですか? 」

「え? 単純に女キャラの方が難易度低いから」

「何か楽して攻略しようって先輩らしいですね」


 らしいの? 俺はそんな風に思われてるの? 実際、そうなんだけど、何か底が浅くて恥ずかしい


「来栖はどうして男キャラだったんだよ?」

「リアルでは出来ない事が、ゲームでしかも男キャラなら出来るからですよ。ボッチですからスマホ弄る時間は沢山ありましたし、レベル上げて強くなればなるほど、他のプレイヤーから頼りにされたり話し掛けてくれたり……承認欲求?ってやつですかね? リアルでは得られないものをゲームに求めてたんでしょうね」


 まぁ ゲームなんてそんなもんだろ 漫画やアニメだって自己投影させて満足感を得るんだろうから


「でもゲームからリアルに戻ると、ボッチですから、私に存在価値はあるのか? リアルな私は必要ないんじゃないか? って思っちゃいますよね。ゲームの中が居心地が良すぎて、その居心地の良さをリアルでも作りたかったんですが、リアルはリアルですね」


 ずっと振動していた来栖のスマホが止まった

 何か言わなきゃ、少しでも来栖の自信になる様な事を……考えれば考えるほど何を言えば良いのか分からず 控え室は無音になり重たい空気が支配する


「クルース!! 電話に出なさいよ!」

「あかり先輩? 」

「『あかり先輩?』じゃないから、早く試着室に行くわよ! 」


 勢い良く開いたドアから、あかりは一直線に来栖に向かって行き、来栖の腕を引っ張り立ち上がらせようとする


「え? わ 私は着替えないですよ。制服のままランウェイ歩きますから」

「着替えなくて良いから、とにかく来なさい! 」

「だ 大丈夫ですって。優勝出来なくても最後まで立ち続けますから! 」


 ヤバい! 掴んでいた来栖の腕を離すとあかりは来栖の頬に向けてビンタし……ない?

 あかりの振り上げた手は頬の直前で止まりそのままゆっくりと来栖の頬を摘まんだ


「どうせクルースは明日が当たり前にやって来ると思ってるでしょ?」


 ビンタされると思い目を瞑っていた来栖がおそるおそる目を開ける


「そんなの分からないんだよ! 死ぬのは遅いか早いかだけで必ずやって来る

 それも突然やって来るかもしれない。明日が来る保証何て何処にもない。このまま何も変わらなかったら……空白のまま終わるんだよ? 何も残せないまま終わるんだよ? 自分に嘘ついて自分を騙して自分が可哀想なまま終わっていいの? 」


 こんなに語気を荒らげるあかりも珍しい しかも何故か、あかりの方が泣いてるじゃねーか


「クルースはこのまま終わったら、絶対に後悔する。私はクルースの良さを『イスラ』を通して沢山知ってるけど、それはゲームの中だけなんだよ」


 え? 何であかりがイスラさんを知ってるの?


「『イスラ』って、あかり先輩もゲームやってたんですか? 」

「やってたよ! 赤ピのせいで、おかしくなっちゃったけど、今はそんな事より試着室に行ってる時間もないし、陽太! 」

「は はい! 」


 何か自然と背筋伸びちゃった


「邪魔だから出ていって」

「はい? 」

「早く!! 」

「はい! 」

「宜しい! ここからクルースのターンだから」


 訳も分からず光の早さを追い越す勢いで退出した


 何なんだよ! 良く分からないが あかりに任した方が良さそうだ 俺に出来る事もないだろうし戻るか


 文化祭実行委員の控え室に戻りモニターを観ると、ファッションショーさながら着飾った女の子達がステージ上に横一列に並んで立っていた


 さすがはミスコンに出てくるだけあってティーンモデル顔負けだな 本当のモデルオーディションみてぇ


 少しすると観客がザワザワし始めるのがモニター越しに聞こえてきた

 1人の女の子がステージに登場すると歓声と悲鳴が混ざり合い体育館全体が震えてるようだ


 来栖! ハハッ 完全体で現れやがった!!


 ウィッグも眼鏡も外し、金髪碧眼の美少女!

 スカートも膝下だったのが少し短くなっており、制服の胸のリボンはヒモを長くしてゆるめにつけてるので、少し肌が見えていた

 そしてハイソとローファーのコンボ!


 元々、スタイルも顔付きも年齢より大人っぽいので、少し崩した制服姿は清楚とセクシーのバランスが絶妙だ!


 横一列に並んでる間に来栖が入ると 間抜け面しながら横目で見てる出場者と 興奮気味に鼻息荒くステージを見上げる観客

 あれが来栖だと気付いてないのか、周りにあれは誰だ? と確認している生徒が多い


 それにしても良くウィッグと眼鏡を外したな

 中身は大事だけど、正直言えばミスコンだ 外見からの中身や個性勝負だと思う

 今までの来栖はスタートの位置に立てていなかったのだ


 外見が違うだけで受け取る印象も違うのだから第一印象は大事だとは良く言ったものだ


 あかりが何か来栖に対して言ったんだろうな

 こっから面白くなりそうだ

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