フェイクフェイス

 う~む まだ何かおかしい……なんだ、この強烈な違和感は?


 HRの時間と放課後を利用した劇の練習が終わった帰り際だが 相変わらずひまりの様子が現在進行形でおかしい。周りの人に違いは分からないだろうが 俺には些細な仕草等で分かってしまう まだ怒ってるのか?


「ひまり。昨日の事何だけど」

「昨日? 」

「あぁ 俺さゲーム程々にするからさ。今日はバイトもないし、付き合って欲しいとこあるんだけど」

「ごめんなさい。今日は用事があるから、すぐに帰るわ」



 表情1つ変えてはないが、髪に手をやり視線を合わせて来ないひまり。

 早く立ち去りたいらしい。

 はぁ 本当に用事があるのか分からんが無理強いしてもダメだし、同好会はパスして俺も帰るかな


 校門を抜けると冷たい秋風が頬を撫で 思わず首をすくめる。

 さむっ 久しぶりに1人で帰る気がする 1人だと恥ずかしいけど、仕方ない覚悟を決めて寄ってくかな。


 用事を済ます為にアーケードまでやって来て靴屋に入った

 もうすぐ半年経つんだもんな

 前に見てたのは無理だろうけど こっちは合いそうだ。子ども過ぎるって怒んないかな?

 いや。自分を信じるんだ! こっちで間違いない! もし間違ってたらそん時はそん時で良いや

優しそうな女性の店員さんに声を掛ける


「すいません。これって置いてあるものだけですか? 」

「そうですね。一点のみでサイズもこちらだけになります」


 サイズか……だ 大丈夫だろ。多分、この位の大きさだったはず。うん 大丈夫だ 今さら聞くのも嫌だし


「じゃあ これ下さい」

「ありがとう御座います。お包み致しますので少々お待ちくださいね。プレゼント用ですか? 」

「ま まぁ……」


 痛い出費が続くなぁ 暫くは趣味に使うお金を我慢しないと


「お待たせしました」

「あ ありがとう御座います」


 綺麗にラッピングされた袋を紙袋に入れて貰い家に帰る

 何か自分が使う訳じゃないのに ラッピングされた袋を見ると思わず笑みがこぼれる



 ※※※※


 ついに来てしまった文化祭当日

 毎日劇の練習が終わった後に、あかりと来栖のミスコン対策の為に同好会に顔を出し、色々な対策を練った。家に戻れば戻ったで劇の台詞や演技を繰り返し練習した。それこそスマホを弄る暇さえない位に


 あかりは相変わらず変わらない様子だし、ひまりも劇の練習が終わると早々と帰宅していたが……

 文化祭は土日の2日間で開催されるがミスコンは土曜日で劇は日曜日だ


 ミスコン控え室にはあかりと来栖が他の出場者とともにいる

 俺と海斗は文化祭実行委員も兼ねているので 開催される体育館の近くに設置した関係者部屋で待機していた。しかもミスコンの司会は海斗がやる事になっている


「なぁ 陽太。妹ちゃんとひなちゃん優勝出来るかな? 」

「あかりは半々で、来栖は無理だろ」

「だよなぁ。対策したとは言え、今までのキャラや見た目も重視されるだろうからな」

「まっ 来栖次第では、ぶっちぎりで優勝も出来そうだけど、来栖は多分その方法を選ばないと思うから、すぐに落ちそう」


 少しずつ来栖の事も分かってきたが 変に大人であり変に子どもである

 来栖は同級生より考え方が大人っぽいが中学3年生15歳は一般的に言えば子どもだ

 単に優等生選手権なら勝てるかも知れないが 見た目も重要視されるミスコンでは優勝は難しいだろう



 関係者部屋の扉が開くなり、あかりが駆け寄ってくる


「あっ いたいた。陽太、暇だから控え室に来てよ」

「嫌だよ。女しかいないし」

「むぅ 別に着替え室とかは別だし、たまに男子も来てるから大丈夫だよ! クルースが心配じゃないの? 」

「陽太、行ってやれよ。俺は早いけど司会進行の準備に入るからさ」


 別に俺はあかりと来栖の専属実行委員ではないのだが、あかりに伝えた所で意味ないだろうし諦めて控え室に向かった


「あっ 陽太先輩! 今までありがとう御座いました」

「別に大したことはしてねーよ。ひまりにも中々会えずでごめんな」

「いえ。私も何か気持ちが軽くなったので……先輩、笑わないで聞いてもらえますか? 」

「どうした突然。笑わないから大丈夫だ」


 俺が答えると来栖はスマホを取り出すと俺の目の前に差し出した


「最近なんですが、先輩ゲームやってませんよね? 」

「え? ゲームってスマホの? 確かにやってないけど」

「嘘だ! 陽太、毎日やってたでしょ? 」

「は? 最近は時間もなかったからやってねーけど、あかりには関係ないだろ」



 謎に青冷めるあかり ブツブツと何かを呟いている


「先に教えますね。陽太先輩をバイト先で見付けた理由」


 ここまで言われれば何となく想像は付くけど


「先輩とゲームの中で仲良くなったんですよ」

「って事は来栖がイスラさんか? 」

「うっひゃーー」


 突然あかりが奇声を上げて出ていった


「ハ ハイ。あかりさんどうしたんですかね?」

「あいつは手遅れだから気にしなくて良いよ」


 たまに訳が分からん行動をしてくるからなあかりは


「先輩、個人情報は仲良くなってもゲームの中では教えない方が良いですよ」

「俺は年齢も性別も名前も教えてねーけど」

「何の近くの高校に通ってるとか。バイト先はどこどこのファミレス。とか、少し調べれば分かる事は垂れ流しだったじゃないですか」



 別に知られて困る様な事もなかったし、第一調べようとする奴がいるとも思わなかったしな


「それに最初はリアルも女性だと思ってましたし、中高一貫で同じ学校だと思ってたので、もしかしたら仲良くなれるかも。って思ったんです」

「で、ファミレスで俺を見てびっくりしたのか? 」

「しましたよ。一度目をチラッと見たときに日桜学園であのファミレスでバイトしてるのは陽太先輩だけみたいでしたし『男』だとは思わなかったです。それに憧れのひまり先輩の彼氏さんだとも思わなかったですもん」

「それは来栖も一緒だろ? イスラさんが『女』だとは思わなかったし」


 ひまりは今は彼氏じゃねーけどな!


「なのでチャンスだと思って、2度目にファミレスで見に行った時は男なら金髪碧眼の姿で攻めた方が良いと思い、ウイッグと眼鏡を取って、しっかり見ようとガラス越しに張り付いてたんですよ。て、先輩に抱き付いた時に咄嗟にリップクリームを陽太先輩のポケットに捩じ込み、近付いて行こうと思ったんです」


俺が来栖に話し掛けたのは来栖的には2度目だったのか


「ってか、何の為にだよ? 」

「陽太先輩がゲームの中で話してくれた同好会の話や、海斗先輩やあかり先輩の話が面白くて楽しそうで羨ましかったんでしょうね」


 もちろんゲームの中で個人名とかは出してないから 全てが分かってから来栖は誰の話を俺がしているのか気付いたのか


「まぁな。大変ではあるけど面白いよ。それで、さっき言ってた心が軽くなった。ってのは? 」

「テレジアさん。って覚えてます? 」

「忘れる訳ねーよ。ビキニアーマーでインパクト強すぎだし」


 やたらと俺にキツく当たり散らすし


「で、そのテレジアさんから凄い信頼されてて、何か言ったり、何かする度に褒められるんですよ。それにいつも励ましてくれたり元気付けてくれて、根拠のない自信何ですが、何でも出来る様な気がして来たのと、下らない事でバカにしてくる奴ら何か、どーでも良く感じて来たんですね」


 テレジアさん俺には凄い勢いで罵倒と自信喪失させる癖に来栖には良いことしてんじゃねーかよ


「そして、テレジアさんは私の事を男だと思ってグイグイ言い寄ってくるんですけど、その自意識過剰までの自信ありありな態度に、何か看過されちゃって、私、優勝出来そうな気がしちゃいます!」


 両手を胸の前で祈るように握り遠い目をする来栖

 テレジアさんすげー

 訳の分からない自信を来栖に植え付けさせたー!

 しかもテレジアさんも恐らく女なのに来栖に言い寄ってる時点で何か切ない

 来栖のキャラがイケメン男性キャラだから仕方ないけど


「すいませ~ん ミスコン中等部開始しますので、出演者の皆さんは順番に並んで付いてきて下さい」


 実行委員の後に並び歩いていく出場者の面々を見渡してみた

 流石に可愛い子が多いので有名な日桜学園の中でも、指折りの美少女ばかりだ


 う~ん 来栖の謎の自信が分からん

 ウイッグと眼鏡外さねーかな……

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