第8話 優しい嘘。バイト先にツインズ襲来

 ひまりとキスをしてから3日が経った あれからLAINEしかしていない。

 キスを経験すればまた違った世界が見れるかとも思ったが、そう簡単に世界は変わらないらしい


 季節は8月に入り相変わらず暑いし 蝉はうるさい ベッドで寝転びながらスマホを弄るだけでも重労働だ

 ディスプレイに表示された無機質な数字は10時10分。

 もう少しでバイトの準備しねーとな


 ふと人差し指を唇に当ててみる……


 ダメた感触など覚えてない キスをした行為は覚えてるのに 感触って忘れんのはえーな もう一回したい いや、何度でもしたい

 胸の感触も忘れた 柔らかかったのだけは覚えてる 何故あの時、揉んでおかなかったのだろう……

 あ~ くそっ あの時なら揉んでも怒られなかった気がするな~


 雰囲気的に揉まなくて正解だったのかは知らないが


「うわっ」


 右手に持っていたスマホが意思を持ったかのように振動と点滅を開始した


 登録してない見慣れない番号だな


「はい」

『陽太だーー すっごい ひまりちゃん。本当に繋がったよー』

「おぉ あかりか? スマホ買って貰ったのか? って あかり? おーい あかりー」


 後ろにひまりもいるのか あかりはひまりに興奮した様子で話し掛けているので 俺は無視されている


『陽太。今から遊び行こうよー デパートであかりの服買いに行こうー』

「急だな 家に戻って来てたのか? 」

『うん。明後日、病院に戻るんだ』

「そっか。残念だけど バイト入ってるから無理なんだわ 次の外出許可が出た時は遊ぼうぜ」

『ちぇ ひまりちゃんが言ってた通りだ ばいばい~』



 ひまりにはバイトがある日を前もって伝えていたからな あかりの携番でも登録しておくか

 フォルダ分けどうしよう

 俺のフォルダはひまりかそれ以外しかないし

 迷った末にひまりと同じフォルダにあかりも入れて置き、バイトに行く準備を始めた



 バイト先のファミレスに 従業員専用の入り口から入り制服に着替えた ロッカー室に備えられてある時計を見ると 15分は余っていたので控え室で待つことにした


「おはようございます あれ 優也さん 最近早番多くないっすか? 」


 控え室はエアコンが効いていてヒンヤリと涼しい

 優也さんはソファに座りテレビを見ていた


「おぉ おはよう 夏休みだからさ稼ごうと思って 昼はここ。夜はバーで働いてんだよ」

「そんなに働いて勉強は大丈夫っすか? 」

「お前は親か。頭良いから大丈夫」

「イケメン・高身長・高学歴、嫌みの塊っすね」


 優也さんはテレビから視線を俺に向けると、女性客を虜にさせるキラースマイルを浮かべ


「その上 面白い」

「うっわ それ自分で言う人は 例外なくつまんないっすよ」

「じゃ その例外が俺だな 時間だし行くぞ」



 くそっ 勝てる気がしない……

 4歳しか違わないのに 大人だし格好良いし気配りも出来るから 社員さんからも絶大なる信頼を受けてるし

 俺が優也さんだったら もっと自分に自信が持てそうだけどなぁ



「夏休みだからか 今の時間は学生が多いな 常連さんもけっこういるし」


 優也さん それはあなた目当ての女子たちですよ

 だって この人たち俺がオーダー取りに行ったり 会計すると残念そうな顔をしてるからね!!


 16時も過ぎると店内は半端な時間ってこともあり、半分ほどしか席は埋まってなかった。

 数組のカップルと親御連れを抜かせば 女子同士の組み合わせだ

 店のドアが開く音が鳴ったので優也さんは案内しに向かった


「いらっしゃいませ 2名様で宜しいでしょうか? 」

「はい」

「陽太は? ようたー」


 あれ この声はもしや……

 店内に置いてある観葉植物からチラッと入り口を覗いてみる

 やっぱ鈴影ツインズ!! 何で来るんだよー!

 俺は働いてる姿と言うか努力してる姿を見られるのが苦手だし嫌いだから ひまりには絶対に来ないように。って言ってたのに!


 2人の座る位置からは見付からない 厨房と店内の間の通路に隠れた。

 このまま厨房と変わろうかな…… 俺、調理ほとんど出来ねーや

 優也さんは2人を席に案内したついでに他の席からのオーダーを厨房に伝えに来た


「お前 こんなとこにいたの? 中の方、人いねーんだから 行ってくれよ」

「う うっす」

「それと 『陽太』言ってる めちゃくちゃ可愛い似ている姉妹が来たんだけど ビックリだよ 黒髪ロングの清楚な美少女と茶髪外ハネ元気っ子っぽい美幼女」


 何か変な事にならない様に優也さんには言っとこうか


「そ それ 前に話した双子っす 黒髪ロングが彼女っす」

「ふ ふえぇ~?」


 優也さん? ラノベのロリッ子みたいな驚き方してますけど それすら格好良いっすね


「マジか! 高校生と小学生にしか見えなかった。ってか お前 前世はガンジーかマザーテレサだったんじゃね? どんだけ徳を積めば あんな可愛い姉妹……じゃなかった双子とお馴染みになれて その上付き合えるんだよ!」


 確かにお馴染みと言う 絶対的なアドバンテージがあったお陰で、ひまりと付き合えている気もするが 前世の俺に感謝!


「じゃあ そこのテーブル鳴ったら オーダー取りに行ってこいよ どっちにしろ俺は別な席に運ばないとだし」



 結局 こうなんじゃん……


 ピンポンと店内に響いた。ひまりとあかりのテーブルだよ。覚悟を決めて行くしかねーな



「ご注文はお決まりでしょうか?」

「うぉー 陽太だ陽太 よ・う・た ようたーー」


 ちょっと何で連呼するの 選挙カーでも今時 もう少し遠慮がちに言ってるよ

 周りからクスクスと笑い声が聞こえる


「ごめんね。あかりとデパート行ってて 陽太君はバイトだから無理だったんだよ。って言ったら、どうしても陽太君のバイト先に行きたいって 駄々こねるから」

「えーー ひまりちゃんも行ってみたかったんでしよぉ あかりのせいにしてズルいなぁ ひまりちゃん」

「あ あかりはパフェが食べたかったんだよね? ほら このチョコレートパフェで良いかな? 」


 ひまりさん メニュー表が逆さまになってますよ


「ご注文を繰り返します」

「おう 繰り返せー あかりはちゅうもんをくつがえすー」


くつがえすな!


「チョコレートパフェがお1つ」

「おう お1つだー」


 あ・か・り!! 激烈にやりずれーーよ


「かき氷のミルク宇治抹茶金時がお1つ」

「おう ひまりちゃんはダイエット中だが それをお1つー」


 ぷっ ひまりが慌ててあかりの口を塞いでら


「ドリンクバーが2つ。 以上で宜しいでしょうか? 」

「はい お願いします」

「ひまりっ あかり、あかり」


 あかりの口を塞いだままなので、あかりはバタバタとし出した


「あかり ごめん」

「ぷはぁ ぐるしがったあぁぁ」


「少々 お待ち下さいね」

「おぅ 待つー」


 何をやってんだか 厨房にオーダーを出すと 優也さんがやってきた


「で 結局 妹さんには言ってないんだろ? 」

「は はい 今はまだ良いかなって」

「まぁ 2人で決めたなら良いけど 後々になると取り返しがつかなる事もあるから 気を付けろよ」

「経験者みたいな言い方ですね」


 店内に呼び出し音が響き 優也さんが向かった


「まぁな 俺がバカだった時だけど 取り返しがつかなかった事はあるからな」


 優也さんはいつもと違う悲しそうな目をしていた



「ふぅ~ 食べたぁ ごちそう様でしたぁ」

「ご馳走様でした」


 2人が食べ終わったので食器を下げに向かうと


「ねぇ 陽太」

「なんだよ」

「いつになったら あかりと付き合ってくれるの? 」


 ふええええぇぇー


 あっ ロリッ子になっちゃった


「陽太がひまりちゃんと付き合ってたら あかりは諦めるよ」


 一瞬だけひまりに視線をやると 片手でストローを弄りだし 首を小さく横に振る。


「陽太 付き合っている人いるの? 」

「い いねーよ」

「だよね 陽太、昔からモテないもんね」

「うるせーな」

「あかりは 夏休み開けたら 2人と同じ高校に行くんだー それまでに返事欲しいなぁ」



 え? 俺たちと同じ高校? 無理だろ 父親が学園理事長でも学力に差がありすぎる


「あかり 陽太君のバイトの邪魔をしちゃダメだよ」

「はーい じゃあね陽太 LAINEして上げるから しっかり働くんだよぉ」



 2人を見送り食器を下げると厳しい目をした優也さんが近付いてきた


「なんすか? 何か言いたそうですけど」

「別に 何でもねーよ」



 前に優也さんは優しい嘘だろうが恋愛では嘘をつくな。と言っていた言葉を思い出す……

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