第2話 春から夏へ変わり行く空の元でようやく出た外出許可

 あぁ ただただ熱い……太陽は俺に恨みでもお持ちなのか?

俺はこの暑さのせいで お前を恨むけどな

これからずっと太陽より月が好きだって

ミステリアスな感じをかもし出していくからな

 シャイニーな太陽が異様に主役面をしてくる午後1時 体をまとう空気は熱気と言ってよく汗でシャツが肌にくっつく不快感は、俺の顔をしかめっ面にさせるには十分な理由だ


 あかりが昏睡状態から6年ぶりに目覚めて、早くも2ヶ月が経ち

夏休み初日を迎えた今日 かれこれ15分位

あかりの双子の姉である

ひまりを待つために玄関前に俺は突っ立っている

 木々が生い茂った庭に大きい白亜の洋館 ここはヨーロッパの城かって。くらいに洒落た家だ

 それもそのはず、2人の父親は俺たちが通う

中高一貫の学園理事長であり

日本屈指の大企業である凉影商事の経営者だ

 小さい頃から何回も遊びに来たことはあるが、年を重ねるにつれ 日本におけるこの家の異質さが分かる


 あかりは目覚めてから、ひたすらリハビリを頑張っており この2ヶ月で一人でゆっくりとだが歩けるまでに回復したのだ

 そんなあかりのリハビリや話し相手になろうと、俺たちは夏休みを利用し出来る限り手伝おうとしていたのである


 こんなに時間かかるなら上げてくれても良いじゃねーかよ バスに乗り遅れそうだし、ぜってー出てきたら文句言ってやる



「陽太くん ごめんごめん さっ 行きましょう」

「あ あぁ」


 玄関から言葉とは裏腹に悪びれる様子もなく出てきたのは、ホワイトのワンピースに淡いピンク色のサンダル 日差し対策の麦わら帽子

 清楚かつガーリー くっ 控え目に言って、その辺のモデルやアイドルを超えてらっしゃる


 麦わら帽子から出た長く綺麗な黒髪は、風が吹くとグロスをしているのかツヤッとした口元にかかり、ひまりは細長い指で耳に掛けなおした。


 幼馴染みの時はそんなに思わなかったが 彼氏彼女の関係になると はっきりいって可愛すぎてドキドキする 君は果実なのかい?ってくらいにフルーティーな良い匂いがするし もう、ほんっと頂きます 思わず手を合わせそうになったじゃねーか


「陽太くん? 早くしないとバス行っちゃうよ」

「そ そうだな 少し早歩きで行こう」


 炎天下の中を歩くと、すれ違う男どもは例外なく、ひまりに目をやる

 優越感と俺自身に対する劣等感が絡み合う

 こんな可愛い彼女と釣り合いが取れてるのか。を考えると少し心が痛む


「ね また身長伸びた?」


 隣で歩くひまりが俺の顔を覗き込んでくる


「測ってないから分からん でも、確かに目線は高くなったな」

「だよね。少しだけ目線が私より高いくらいだったのに 今はけっこう違うよ 175位はあるんじゃないかな? 」


 何が面白いのか、ひまりは両手を後ろで組むと笑い出した

 元々人見知りなひまりは、学校でもそこまで笑う方じゃない たまに笑えば氷の微笑と言われるほどだからな 幼馴染みでもある俺にしか見せないこの笑顔は貴重だ


 何とかバスには間に合い病院に着きリハビリを行っている部屋へと入った



「あぁ ひまりちゃん。陽太! 」


 俺たちを見付けるなり、あかりはあどけない笑顔を浮かべ近付いてきた


「あかり。無茶し過ぎてない? ゆっくりでも良いんだからね」

「ひまりちゃん! 可愛いぃ あかりもワンピース着たい」

「嬉しいけど、人の話きいてる? 」

「聞いてるよ。むちゃなんてしてないよぉ ほら少しだけどジャンプも走る事も出来るようになったし」


 ひまりの前でぴょんぴょんと跳び跳ねるあかりは、やっぱり16歳には見えない……ジャンプしてやっと、ひまりと同じくらいの身長になるのだ


「陽太! ねぇねぇ聞いてよ 来週の日曜日に外に出て良いって先生が言ってくれたんだ どっか行きたいよぉ」


 俺の腕を取るとブラブラと揺らしながら爛々と目を輝かせるあかり


「おぉ それは良かった! そうだな 折角の夏休みでもあるし3人でどっか行こうか? 」

「やったー ひまりちゃんも一緒にどこか行こうよ」


 隣でひまりが困惑顔を浮かべていた 俺も言った後に気付いたが、来週の日曜日はひまりと遊園地に行く予定だった どうしよう……あかりに言った手前、今さら取り消しには出来ないし


「そうだな 3人で遊園地にでも行くか? 」


 俺の提案にあかりのリハビリに付いている先生がやって来ては残念そうに呟いた


「まだ、あかりちゃんには遊園地で乗り物に乗ったり、はしゃぐのは難しいかな」

「えー あかり大丈夫だよぉ 遊園地行きたい」


 先生は困ったように俺を見ると何かを思い付いたかの様に顔を綻ばせた


「そうだ 遊園地は無理だけどプールなら大丈夫だよ。ただし、泳ぐのではなくプールの中で歩くだけならね」

「プール行きたい! 歩くだけでも良いから あかり、プールに行きたい ねっ ひまりちゃんも陽太もプールで良いよね? 」

「そうだな俺は良いけど ひまりも良いよな? 」

「私は行かない……」


 ひまりは俯くとボソッと言葉に出した


「なんでなんで? ひまりちゃんも行こうよぉ 暑いし、きっとプール気持ち良いよぉ」

「うんうん 私は用事あるし行けないから」

「そっかぁ残念……外にでてお日様の日差しを浴びたかったなぁ」


 ひまりに用事なんてないだろ? それに遊園地はいつでも行けるし、リハビリ頑張ってて久しぶりの外出で喜んでるあかりをプールに連れてってやりたい


「じゃあ 俺と2人でプール行くか」

「行く! プールだプール!」


 身体中で喜びを表すあかりとは対照的に、無表情のまま俯くひまり


「ひまりちゃん。私に似合う水着買ってきてよぉ」

「え? 」

「水着だよ み・ず・ぎ あかりも16歳でしょ? 年齢に合った水着が欲しいよぉ」

「え えぇ 分かったわ」

「陽太! 楽しみだねぇ プール」



 エヘヘやニコニコ。って顔に書いてあるぞ。と言いたくなる位に満面の笑みを浮かべるあかり ひまりと双子なのに性格も対照的だ……


「盛り上がっている所、悪いけど休み時間は終わりだよ あかりちゃん 戻ってリハビリの続きだよ」

「はーい 日曜日の為に、あかりは頑張るのです! 」


 俺たちはリハビリを応援しながら手伝い病院を後にし、あかりの水着を買う前に少し凉しむ為カフェに立ち寄った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る