第34話



ごめんなさい、こんな暗い話をして。といってお姉さんは悲しげな顔で微笑んだ。


「もう暗くなってきてしまったわね。

セレスト、明日はどうするの?もし予定が決まっていないならうちに泊まってゆっくりしていったらどう?」


「明日はお父様と食事の約束がある。」


「あら、ミドリさんも一緒に?

お父様と食事ってことはそれなりのお店でしょう?

ミドリさんのドレスやメイク、ヘアセットはどうするの?」


「いや、それは・・・。」


「まさか何も考えていないんじゃないでしょうね。

だめよ!服を着ればいいあなたと違って、女性はたくさん準備があるんだから。

今日はうちに泊まっていって、明日の準備には私付きのメイドを貸してあげるわ。

もしドレスの用意もないなら私の持っているものの中から見繕ってあげる。」


ええ!

食事ってそんなかっちりした感じだったの?

でもそりゃそうか、公爵様が行くお店だもんね。

どうしよう、全然知らなかったから普通のワンピースしか用意してないよ。

あおいさんの方をチラッとみると、あおいさんもそれは考えていなかったって顔をしている。


「すまない、ドレスと靴しか用意していない。

お願いしてもいいだろうか。」


「もちろんよ!

セレストがうちに泊まるのは久しぶりね!

料理長に腕によりをかけて夕食を作ってって頼んでこないと!」


そうしてあおいさんの実家に泊まることになり3人で夕食を食べた。

お父さん、お義母さん、お兄さんは領地にある屋敷で普段生活をしているみたいで、お姉さんは、いつも1人だから一緒に食べると美味しいわ。と嬉しそうだった。

そしてあの日本への扉のある惑わせの森やミラの街を含む周辺があおいさんのお父さんの領地だったなんて、お姉さんに聞いてびっくりしてしまった。

でも公爵家の息子であるあおいさんが扉の管理をしていて、代々公爵家に関わる人が扉の管理をしているというのが納得できた。


夕食を食べた後に案内された部屋はものすごく広くて、豪華で、お姫様が使うような部屋で落ち着かない。


コンコンッ。


「私だ。入ってもいいか?」


あおいさん!?

借りている部屋だからといっても流石に緊張する。


「どうぞ。」


「夜に女性の部屋に入るのもどうかと思ったのだが。すまない、話があってな。」


あおいさんをソファに案内してお茶を入れる。


「話ってなんでしょう?」


あおいさんがこうして話があると来るなんて、よっぽどのことだろう。


「今日姉に聞いた父と母の話だ。

急に聞いて驚いただろう?

良い話ではないし、これまで話す機会もなかったからな。

特に隠していた訳ではないから。」


「驚きはしました。

それに、あおいさんは私なんかに知られたくはないことかもしれないし。」


あおいさんからしたら私なんて偶然異世界のことを知ったから仕方なしに魔法を教えている弟子なのだ。


「そんなことはない!

それに出会いはどうであれ、みどりは私にとっては大事な弟子だ。

みどりがいることで正直助かっていることも多い。」


そんなふうに思っていてくれたなんて。

異世界のことを知られてしまってしかたなくだと思っていたから、あおいさんの気持ちを知れて嬉しくなる。


「話したいのは、今日の話のことについてなんだ。

姉はおそらく私に気を遣って言わなかったんだろうが、母への嫌がらせが酷くなったのは私が原因なんだ。」


そう言ってあおいさんが話してくれたのは、お義母さんが公爵家へ嫁いできた後の話だった。


「お義母様は結婚前に父について調べていて、父の周りに母がいることは前から知っていたらしい。

お義母様も元王族だ。妻が複数人いるのが当たり前の環境だったからか、いい気はしないだろうが妾の母など気にせず普通に生活していた。

だが周りから父と母の出会いや、父が母を正妻にしようと思うほど本気の関係だと知ったのだろう。次第に母への当たりが強くなっていった。」


そんな!お父さんとお母さんが愛し合っていたところに無理矢理後から入ってきたのに。


「その後お義母様は跡取りである兄を生み、その1年後に母が姉が生んだが、女だったからか姉は特に気にはされなかった。

だが問題になったのはその2年後、私が生まれた時だ。

私の髪と瞳の色は父に似ていると言っていただろう?この色は公爵家の初代の色で特別な色なんだ。

そして生まれた私を見た父は私にセレスト、神のいる天空という名前をつけた。

跡取りである兄はブラン。強い風という名前なのに、だ。

兄は見た目もお義母様に似ていて公爵家の色ではない。魔法もあまり使えない。そんな状況で妾から公爵家の色の男児が生まれて、自分の息子より立派な公爵家らしい名前をつけられたらどう思うと思う?

母への対応はさらに悪くなった。

それに加えて、私が6歳の時に魔法の才能があることがわかったんだ。

子供だった私は、ただ褒めて貰いたくてみんなの前で魔法を使った。

公爵家は魔法で貴族になった家だ。魔法の才能があることの公爵家での重大さを私はわかっていなかった。

その時のお義母様のこちらを見る目は今でも忘れられない。」


髪の色も目の色も名前も魔法の才能も!

全部あおいさんは悪くないのに!

6歳の子供が珍しいと言われる魔法の才能があったら褒めて欲しくなるのは当たり前のことじゃない!


「お義母様に追い詰められて精神的におかしくなった母は、どんどん弱っていって私が8歳の時に亡くなった。

私を守ってくれていた母が亡くなると、お義母様と兄の私への扱いは命の危険があるほどだった。

そうして流石にまずいと思った父は自分の領地にある扉の管理人に私を預けた。

扉の管理人は仕事の内容上魔法が使えるものがつくから、その人に魔法と仕事を教わり、その人が亡くなった後は私が扉の管理と仕事を引き継いでいる。」


そう話すあおいさんは、いつものなんでもできてツンとしているあおいさんからは想像がつかない、とても辛そうな、心に傷がついた子供のような顔をしていた。


「あおいさんが原因なんかじゃないです。

あおいさんは何も悪くないです!」


そう言って思わずあおいさんを抱きしめた。


「全部、悪いのはお義母さんじゃないですか!

両想いのお父さんとお母さんの間に権力を使って割り込んできたのもお義母さん。

髪の色や目の色、魔法の才能だって自分で選んだわけじゃないのに。勝手にあおいさんとお母さんに嫉妬して辛く当たったのもお義母さんじゃないですか!

私からしたら王女様だろうが公爵夫人だろうが、ただの性格の悪いクソババアですよ!」


シーン・・・


言い過ぎたかもしれない。

いくらなんでも人様のお義母さんをクソババア呼ばわりはまずかったかも。

そぉっと抱きしめているあおいさんを見上げると目を見開いて驚いている。


「ふっ、ふははははははっ!」


えええ!?

こんなに声を出して大笑いするなんて、あおいさんが壊れた!!


「クソババアか。

くくくっ。元王族で現公爵夫人のお義母様をクソババアだというやつは初めて見た。

そうだな、たしかに性格も悪いし、クソババアだ。

なんだかみどりに話を聞いてもらえてスッキリした。」


そう言ったあおいさんはとっても晴れ晴れしたか顔をしていて、思い切って思ったことを言った甲斐があったな、と思った。

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