第12話




次の日の朝、いつも通り起き仕事の準備をする。


「【浄化】!」


浄化を使えるようになったお陰で掃除やシャワーに使っていた時間がなくなり自分の時間として使えるようになった。


「よし!」


昨日と同じように薄くお化粧をして髪を髪留めで纏める。


あ、そういえば。

昨日の朝清水さんに『ちょっと痩せた?』と聞かれたんだった。

特にダイエットはしていないんだけれど。


最近ずっと体重計には乗っていない。

前はそれなりに細めの方だったが就職してからは乱れた生活のせいで少しぽっちゃりしてしまった。


意を決して体重計に乗る。


「えいっ!」


そーっと体重計の数字を見てみると


「あ、減ってる!!」


少しだが、前に計った時より減っていた。


もしかして《エスティエーリル》に行ったから??

異世界にいた間すごく楽しかった。

楽しかったのだが、ものすごく疲れた。

普段全く運動することがなかったのに何時間も歩いて走って。

そりゃ痩せるはずだ。


もしかしたらこのまま異世界に行く生活をしてたら前の体型に戻れるかも!なんてちょっぴり期待しちゃう。





今日は化粧水作りだ!


回復薬が入ったお化粧水。弓波さんから話を聞いてずっと楽しみにしていたのだ。

仕事中も早くお店に行きたくてそわそわして仕方がない。そんな風に今日のことを考えていると


ピロン

弓波さんからだ。

この人は人の心を読む魔法でも使ってるのかしら??


“今日は化粧水を持ってきなさい”


ん?

化粧水を作るのに化粧水がいるの??


詳しく聞くと、一から作るにはいろいろと材料を用意して作らなくてはいけないが今回はこちらに売ってる普通の化粧水にポーションの成分を混ぜ込むという方法で作るみたい。


そういう簡単な方法もあるのね!

てことはこっちで売ってる化粧水がパワーアップする感じなのかな?

弓波さんのところに行く前に化粧水も買いに行かなくちゃ。


今日の分の仕事を終わらせないとお店に向かうこともできない。

みどりはいつも以上に気合をいれて仕事を終わらせた。


「文月さ〜ん。

これ、今日中にお願いできますかぁ??」


きた、奴だ。

今日は化粧水作りの日。

絶対に譲れないのだ。


「ごめんなさい、予定があって。」


「え〜、でも文月さんもう終わってるじゃないですか。」


ええ、予定があるので急ぎましたから。


「今日予定があってもう帰らなくてはいけないので急いで今日までの分を終わさせて、ギリギリ、予定に間に合いそうなんです。」


そう言い、ギリギリなので無理ですよ。と笑顔でアピールする。


「ほんとに〜?

前まではいつも手伝ってくれたのに、最近毎日早く帰っちゃうじゃないですかぁ。

もしかして、私、何かしちゃいましたか??

ごめんなさい。

でも、こういう風に避けたりするのはやめてください!」

と言いながらぱっちりした瞳をうるうるさせる。


最近冷たくされて避けられてるアピール。

ワザとらしく声を大きくし、周りに向けて涙攻撃だ。


「ん?どうした??

おい、文月お前花守になにしてるんだ。」


うわ!めんどくさい奴がきた!!


部長、54歳、独身。

セクハラが多く、若くて可愛い社員が大好きな部長は花守さんがお気に入りだ。


「ちがうんです。

文月さんは悪くないんですっ!私がっ、私が何かしちゃったんだと思うんですぅ。」


「ん?なにがあったんだ??」


「前まではいつも優しく仕事を手伝ってくれたのに、急に毎日忙しいって・・。」


いやいや!なにこの流れ。

ただ自分の仕事は自分でってだけの話でしょ!!!


「文月、嫉妬なのかなんなのか知らんがそういう嫌がらせは酷いんじゃないか。

仕事は助け合いが大切だろう。」


は!?

なんで私が嫉妬して嫌がらせで断ってるみたいな捉え方になるの!!?

助け合いって、助けたことはあっても助けられたことはないんですけど!!?


「嫌がらせなんてしてません。

最近本当に予定が詰まってて早く帰らなくていけないんです。

仕事もきっちり、自分の分を終わらせて帰っていますし。」


「少し前までは予定なんて全然なかったじゃないか。嘘はやめるんだ!嘘は!」


なんで私に毎日予定があるのが嘘なわけ!!?

花守さんは毎日のように予定が〜って私に仕事を押し付けてきてたのに!?


「本当です!」


「そんな急に忙しいなんておかしいだろう!そんな毎日なんの予定があるんだ!」


完全に私が嘘を言っているという顔でこっちを見ながらいう。


こっちは最近魔法使いの弟子やってんだよ!!毎日練習と修行だよ!!!

そう言ってやりたいが言えない。

けど、なんて説明したらいいの!?


えーっと、えーっと、



「・・・習い事です。」


ばっちりだ。嘘でもなんでもない。

私は習い事をしてるんだ。

魔法を習ってるし、間違いではない。


「「な、習い事??」」


予想もしていなかったのだろう。

部長がぽかんとした顔でこちらを見る。


「えぇ、習い事です。

仕事にも関係する資格の取得をしたくて。月謝も払ってますし、休めません。」


嘘はついてない。

仕事(冒険者)に関係する資格(冒険者ランク)のための習い事だ。


「そ、そんなの・・・習い事を始めると先に言っておけばこんな事にはならなかったんじゃないのか!!?」


ほうほう、先に言わかった私が悪いと。


「ごめんなさい、習い事を始める前に報告をしなければいけなんて知らなくて・・・。

他の人が報告するのも聞いたことがなかったものですから。」


「と、とにかく!仕事は助け合いが大切なんだからな!時間がある時は協力するんだぞ!」


「えぇ。

助け合いは大切ですもんね。」


「ふん、そうだ。」


「これからしばらく資格の勉強のために早く帰らなくちゃいけない日が続くんです。

けど仕事に役立つ資格ですし・・・。

逆にこちらが助けていただくことも増えるかもしれません。

部長。ありがとうございます。

そう言っていただけたお陰で勉強に集中できます。」


「・・ん?」


「花守さんも、私が先に伝えておくべきだったのに。

勘違いをさせてしまって申し訳ないです。

お互いに、協力して行きましょう。」

部長、今日までの分は提出してありますので。

それでは習い事の時間なので、お先に失礼します。」


みどりはにっこり笑顔で伝え、会社を後にした。




あー!やってしまった!!!

今まで大人しくしてたのに!!!

完全にやらかした!!!


けどああでも言わないと仕事を押し付けられていたに違いない。

化粧水作りを楽しみにして一生懸命仕事を終わらせたのに。


いつもは大人しいみどりだが、今までのストレスがたまっていたのか、やっと帰れる!というタイミングで邪魔されたからか、今までの分が爆発したように喋ってしまった。


「はぁ。」


まぁ過ぎてしまったことは仕方がない。


今日は化粧水作りだ。

花守さんと部長のせいで予定よりも遅くなってしまった。


急いでドラッグストアに走る。


みどりはいつもよりちょっといい化粧水を買い弓波のところへ向かった。

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