第9話


「んー!」


みどりは目をさまし伸びをする。


弓波さんとの約束は8時。

あと30分ある。

昨日覚えた浄化を使い体と口の中を綺麗にする。

シャワーの代わりにもなり歯磨きの代わりにもなる。本当に便利だ。

髪を整え軽く化粧をし食堂へ向かう。


約束の10分前。

昨日5分前で遅いって言われたからね!

今日はまだ弓波さんは来てないみたいだ。


「おはよう。」


「おはようございます。」


弓波さんが席に着くと料理が運ばれてくる。


「ジャイアントバードと野菜のホットサンドにコンソメスープよ。」


ジャイアントバード!

昨日食べたやつだ!


「夜ご飯も思ったけど朝もボリュームありますね!」


「ここに泊まっているのは冒険者が多いからな。

みんな体を動かすから朝しっかり食べて仕事にいくんだ。」



朝ごはん、私にはちょっと多いかなと思ったけど昨日いっぱい歩いたからか普通に全部食べきれた。

そういえば朝ごはんをしっかり食べるのは久しぶりだ。

就職してから睡眠優先で朝はずっと食べていなかった。


「食べ終わったか。

荷物を部屋に取りに行って宿を出よう。

今日は素材集めに行かなければならないからな。」


「そうですね、準備してきます!」


部屋にもどり荷物を取り下に降りる。


「ありがとね!

またよろしく頼むよ!」


「はい、また!」





「今日は素材を集めに森へ向かう。」


「も、森!?」


まさか惑わせの森までまた戻らなくちゃならないの!?


「町を挟んで惑わせの森と反対側に始まりの森という森がある。

始まりの森は素材がたくさん採れる。

その森があったからこの場所にミラを作ったことからはじまりの森と呼ばれているんだ。

まぁ、素材もある代わりに魔物も出るんだがな。」


「魔物が出るんですか!?」


「あぁ、だから森に着くまでの道中で攻撃魔法の練習をする。」


そんなちょっと練習したくらいで本当に魔物と戦えるのだろうか。


昨日とは逆の門が見えてくる。


「身分証をお願いします。」


私は弓波さんと一緒に昨日作った冒険者カードを見せる。


「ありがとうございます。

門は夜7時に閉めるので戻る場合はその前にお願いします。」


「わかりました。」



遠くに森が見える。

昨日通った惑わせの森よりは近そうだ。


「身体強化を使って走っていけば1時間で着く。

行くぞ。」


はい!


30分ほど経っただろうか。


「一旦この辺で攻撃魔法の練習をする。

ちょうどいい的もある。」


周りを見渡すと所々にゴロッとした岩がある。

他にも練習している人がいるのだろう。

岩には剣の跡や魔法で攻撃したであろう跡がのこっている。


「さて、攻撃魔法だが風魔法の練習をしよう。」


「風魔法ですか??」


「あぁ。森だから火は危ないし魔物に攻撃するとなると風魔法が1番使いやすい。」


森の中だと火事になる可能性があるからか。


「わかりました!」


「基礎魔法の練習のとき風を起こすところまではやっただろう。

攻撃魔法はその風を鋭くして相手にぶつける。

風の刃をイメージするんだ。」


「風の刃・・・。よし!」


【ウィンドカッター】!!


大抵アニメで見ると風の刃ならウィンドカッターだ。というか、これしか思い浮かばなかった。


20センチくらいの風の刃が岩に当たる。

しょぼい。


「もう少し魔力を込めて魔法を大きくするか小さいまま数を増やすかした方がいいな。

素材を売ることを考えたら傷は小さい方がいいが、それは魔物の弱点にピンポイントで攻撃できるようになってからだ。」


「はい!」


もう一度、さっきよりも多めに魔力を込める。


【ウィンドカッター】


ブンッと音がし1メートルくらいの風の刃が岩へと飛んで傷をつける。


「ふむ、このくらいできれば大丈夫だろう。

あとは魔物が来たら落ち着いて魔法を撃つだけだ。森の奥までいかなければはじまりの森に出てくる魔物ならこのくらいで大丈夫だろう。」


「はい!」


「では森へ向かおう。」


また30分森へと進み森の入り口にたどり着く。


「みどりの受けた依頼のタイム草とセージ草は比較的入り口近くに生えているから先に見つけて採っておこう。

タイム草は小さな薄紫色の花がたくさんついている。セージ草は葉が長楕円形で灰緑色をしている。」


「はい!」


というか、タイムとセージってもしかしてお料理とかハーブティーにも使うあれかな??

扉がつながっているし、似たような植物が生えていてもおかしくはないのか。


15分ほど森を探すと、薄紫色の花が咲いているのをみつける。


「弓波さーん!

これですか??」


「あぁ、これだ。

鑑定を使えばわかるぞ。

これはHP回復薬の材料になる。

最近ではこのタイム草とセージ草を使った化粧水なんかも人気らしいな。」


「化粧水!?」


「あぁ、HP回復薬にも使われる薬草だ。

肌にもその効果があるのだろう。」


「それってどこで買えますか!?」


「ここに薬草が生えてるんだ。

自分で作ればいいだろう。

魔法が使えるのなら作れる。少し多めに採っていって向こうに帰ったら作り方を教えよう。」


「ありがとうございます!」


回復薬にも使われる薬草の入った異世界の化粧水なんてとってもお肌によさそう!!!


そう思いつつタイム草を20ほど摘む。


「あった。

みどり!こっちだ。

これがセージ草だ。」


葉が長楕円形で灰緑色。

50センチくらい高さのある草が生えている。

これも20ほど摘んだ。


弓波さんも自分用にいくつか摘んでいた。

きっとお店で使うのだろう。


「これでみどりの依頼は完了だな。

あとは私が必要な素材だか・・。」


「この森にあるんですか??」


「あぁ。

ミミックカメレオンという擬態が得意な1メートルくらいの魔物だ。

この魔物の皮を乾燥したものが変身薬の材料になる。」


変身薬、カメレオンの皮が材料なの!?

ひえぇ。


「今から魔物寄せの香を焚く。

ミミックカメレオンは周りの景色に紛れて近寄り攻撃してくる。

気をつけろよ。」


「は、はい!」


小さな魔物を弓波さんが倒しつつ進む。甘い香りの香を焚きながら森を歩くこと20分。


「危ない!!」


弓波さんに引っ張られると、シュッと何かが横を通り過ぎた。近づいてきていることに全然気がつかなかった。


「来たぞ!!」


「ひっ!」


大きなカメレオンが木の上からこちらを見ている。


「さっきのはこいつの舌だ!

避けろよ。怪我をするぞ。」


攻撃が真横を通っていたことに気がつき鳥肌が立つ。


シュッと舌がこちらに向かってくる。


「こっちだ!」


また弓波さんに引っ張られ攻撃を避ける。


「いい機会だ、さっき練習した風魔法を撃ってみろ。」


「む、む、むりです!!!!」


すでに恐怖で足がガクガクだ。

今まで日本で生きてきて、こんな風に命を狙われたことなど一度もない。

しかもこんな大きなカメレオン見たことがない上、こちらに攻撃してきているのだ。


「大丈夫だ!練習通りにやればできる!」


みどりは木の上にいるミミックカメレオンを見て、足に力を入れ踏ん張る。


「ウ、【ウィンドカッター】」


ブンッと風の刃が飛んでいき、カメレオンの横の木の幹に傷ができる。が、練習の時ほどの威力はない。


その攻撃に怒ったのかさらにカメレオンが舌を伸ばし攻撃してくる。


弓波さんがカメレオンの攻撃を弾きながらこちらを振り向く。


「もう一度だ!」


「は、はい!」


【ウィンドカッター】!!


ブンッと先ほどより大きな風の刃がカメレオンに向かい勢いよく飛んでいく。


ギュェという声を出し、ミミックカメレオンが木から落ちる。


「ふぅ、やったな。」


みどりはへなっと腰が抜ける。


弓波さんが下に落ちたカメレオンを拾い、しまう。


!!?


「弓波さん!今、どこにしまったんですか!?」


「アイテムボックスだ」


珍しく弓波さんがニヤッと口角を上げる。


「アイテムボックスは魔力の大きさにより容量が決る。入れている間経過時間が緩やかになったり停止する、ものすごく使い勝手がいいスキルだ。

だがその分使えるようになるのがものすごく難しい。イメージがしずらいからな。」


「私もそれ使いたいです!!」


そう言いみどりは勢いよく立ち上がる。


「たくさんものがしまえて腐らないなんて、とても便利なスキルじゃないですか!!!」


ふっと弓波さんがこちらを見て笑う。


初めて笑っている姿を見た。

国宝級の美形の笑顔は破壊力がすごい。


「さっきまであんなにカメレオンに怯えていたのに、もう魔法の話か。」


「忘れてません!まだ足がふらふらなんですから。

けど、あとでアイテムボックス教えてくださいね!」


「あぁ、わかったわかった。」


「約束ですよ。」


「はいはい。

あとは森の奥の泉の水を汲んで終わりだ。」


「水ですか??」


「あぁ、この森の奥に山から湧き出ている湧き水でできた泉がある。

ポーションやら色々なものに使うと効果が上がる。

みどりの化粧水作りにも使うといいだろう。」


森をさらに奥に15分、チョロチョロと水の音が聞こえてきた。


「わぁぁぁ、綺麗。」


森の緑の中、綺麗に澄んだ青い泉が現れる。


「この水瓶一杯汲んでいけばしばらく大丈夫だろう。」


そう言い弓波さんはアイテムボックスから人が1人入れそうなくらい大きな水瓶を取り出し水を汲む。


「よし。これで街に帰ろう。」


アイテムボックスに水瓶をしまい、きた道を戻る。


帰りも何度か魔物に遭遇し練習のためにみどりが倒したが、ミミックカメレオンほど大きな魔物には遭遇しなかった。


「ファングラビット2匹に、ブラックウルフ1匹か。

まあまあだな。」


魔物にもSS→Eとランクがあるらしく、弓波さんに聞くと冒険者活動初日にしてはまぁまぁな出来らしい。


さっき倒したブラックウルフがDランク、ファングラビットかEランクらしい。

ちなみに食堂や宿でたべたジャイアントバードはDランク、レッドボアはCランク。

さっき弓波さんと倒したミミックカメレオンはCランクだ。


そりゃ初心者が戦うには強いに決まっている。

DとEを飛ばしていきなりCなんてスパルタすぎる。


ミミックカメレオン自体は強くないらしいが、擬態能力で見つけるのが難しいのと初めの攻撃でやられる人が多いためCランクらしい。


はじめて戦う魔物にCランクを選ぶのはひどくないか!?とも思ったがおかげでその後の敵にはそんなに緊張せず戦えた。

まぁ攻撃からは守ってくれたし良しとしよう。


行きで魔法の練習をした場所で休憩を取る。


「今日のは私が防御を担当したが、今後1人で戦うとしたら攻撃以外にも回避や防御も覚える必要があるな。」


「はい。」


「回避はすぐ上手くなるはずだ。

みどりは元々視力が悪いが魔力で強化しているだろう??

その要領で目を強化し、敵をみる。

そして森まで歩いてきたのと同じように足や体の動きを強化し素早く回避する。」


なるほど!

今やっていることの応用なのか。


「防御の魔法は、自分の魔力で膜をつくり盾にする。

形は人によるな。

球体だったり、盾の形だったり、部分的だったり。その状況により使い分けられたら完璧だな。

まずは攻撃が来る方に魔力を出し防御するくらいでいい。

後々使いやすい形にすればいいんだ。」


「はい!」


「じゃあ、今から投げる石を防御してみろ。」


「はい!」


「行くぞ。」


【マジックシールド】!


カンッと飛んできた石を弾く。


「できた!弓波さん、できましたよ!」


「ふむ。

強度もまぁ大丈夫そうだ。

もし危ないときは流す魔力を増やしなさい。

あとは形や位置を変えるだけだ。」


「わかりました!」


「では町へ戻ろう。」



魔法の練習を終え、2人は町に向かって走りだした。


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